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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第57話 モブは激重ヒロインズから逃れられない

 その日も、七ヶ条雪海は美術室で放課後を迎えていた。

 教室の窓から外を見下ろし、一息つく。

 部員は来ない。

 何故なら、ここは美術室の中でもその奥のアトリエ用個室だから。

 なんならそもそも、部員は雪海を恐れてあまり出席すらして来ないがそれはさて置き。


「最近、また他の女にも手を出したようね」


 視界の中に映る響太と桜花の姿に、雪海は呟いた。


 二人は現在、話しながら校門を出るところだった。

 随分と仲良さそうだが、一体どういう関係なのか。

 普段他者に興味を抱かず、かつ関わりも持たない雪海にとって、下の学年の目立たない陰キャ女子など知る由もない。


 興味深く思い、二人の姿が見えなくなるまでじっと観察する雪海。

 と、そんな時だった。

 普段は絶対開かない扉が開き、外から人が入って来た。


「……勝手な人ですね。そもそも私、貴方を呼んだ記憶はありませんけれど?」


 この部屋に誰も入ってこない理由なんて、言うまでもないだろう。

 ただでさえ誰も関わりたくない七ヶ条雪海が、殺意を剥きだしてキレてくるに違いないのだから。

 それがわかっていて勝手に侵入する者はいない。

 がしかし、今入ってきた人物は気にする素振りもなく、不敵に笑った。


「響太君に対してと、随分当たりが違うんですね」

「だって私、貴方の事は嫌いだもの」

「それ、響太君の事は好きだって事ですか?」

「うふふ、好きに解釈してください」


 そこまで言って、雪海はようやく振り返る。

 目の前に居たのは生意気な後輩だった。

 この学校で明確に自分に歯向かってくる、唯一の女。

 羽崎梓乃李である。


 雪海が響太に構うようになって以降、梓乃李は雪海に対して反抗的な態度に変貌した。

 それもこれも全ては最初に煽った雪海のせいである。


「それにしても、何の用?」


 とは言え、こうして侵入される理由には心当たりがなかったため、首を傾げた。


「日直が終わって教室に戻ったら響太君がいなかったから、その腹いせをしに絡みに来たんです」

「貴方、締め出すわよ」

「あはは、というのはちょっとした冗談です」


 やけに響太そっくりな言い回しをする梓乃李。

 普段一緒に居る時間が長くて移っているのかと、雪海は少し疎ましく思う。

 と、そこに彼女はようやく本題を告げた。


「七ヶ条先輩が響太君に好意を抱いているのは知ってます。だからこそ、共有しておきたいことがあって」

「何かしら」

「あの人、今から私達以外の女とデートするみたいですよ」

「……」


 雪海はこの時、この学園に入ってから初めて怖気を感じた。

 臆病風に吹かれたと言うべきだろうか。

 要するに、一瞬身構える程、目の前の少女に気圧されたのである。

 普段は良くも悪くも普通の女子な梓乃李だが、今日は様子が違った。

 張り付けられている薄っぺらい笑みの下に、底知れない闇が潜んでいた気がする。


「それは、今一緒に歩いていた女子と?」

「あ、知ってるんですね。白城桜花さん。隣のクラスであんまり目立たない子ですけど、最近やけに響太君にべたべた絡んできてて。よく見たら普通に可愛いし、怪しいので監視してたんです」

「監視? ——ああいえ、続けて」

「そしたら今日、カフェに行く予定がどうとかって言ってたんで確定ですね」


 雪海は聞きながら、違和感を覚えた。

 

 ——この子、なんで当然のように豊野響太の動きを把握しているの?


 雪海の認識では、二人に交際の事実はない。

 確認した時も、否定していた。

 だけどこの言い方はもう、彼の彼女にでもなったかのような仕草である。


「一応聞いておくけれど、貴方、彼の彼女ではないわよね?」

「そうですね」

「……」

「でも私は幼馴染なので。あと、いつも勝手に暴走して裏で無茶な事をしてる人だから、見張っとかなきゃまた怪我しそうだし……心配じゃないですか」

「それはそう」


 マジトーンで言い出す梓乃李に、雪海は頷く。

 もっとも、前回はそれこそ自分も巻き込んだようなものなので、少し思うところがあったわけだ。

 一理あるなと思って、雪海は納得するのであった。





 雪海と梓乃李はその後、若者で賑わう平丘駅までやって来ていた。

 ファストフード店の窓際席に座り、道路向かいに位置するステーキ店を凝視する。

 双眼鏡を構えた雪海に、梓乃李は若干引き気味で呟いた。


「……随分と本格的ですね」

「尾行しようと提案したのは貴方でしょう」

「ちょ、ちょっと。そこまでは言ってないですよ! ただ気になるなぁって言っただけで。ほんのちょっとだけ、様子見てみませんか?って提案しただけで。……まさかここまでとは思わなくて」


 あの後、梓乃李は雪海に二人の様子見を提案した。

 重すぎる梓乃李に若干引きつつ、とは言え面白そうだったので乗った雪海。

 持ち前の隠密スキルで難なく背後を取り、すぐに彼らの動向を捉える事が出来たわけだ。


「にしても手慣れてますよね。普段から人をつけ回してるんですか?」

「失礼な事を言わないでくれるかしら?」


 歯に衣着せぬ梓乃李の言葉に、雪海は一瞬イラっとする。

 梓乃李にも朝から晩まで、監視をつけてやろうかと一瞬本気で思った。

 がしかし、すぐに首を振る。

 もしおかしな痴態など報告されようものなら、気まずくなってしまうから。


 自慰中毒の破滅ヒロインに対しては、あながち間違いではない懸念なのはさて置き、梓乃李はむくれた。


「っていうか、まさか白城さんがあの人気モデル『Ouka』だったなんて」

「確かに驚きましたね」

「しかも、響太君もやけにデレデレしてるし。私にはあんな顔見せた事ないのに……」

「ふふ、付き合ってもいないのに、何の被害者面?」

「……」


 昼に撮影現場を見た時は、流石に二人共言葉を失ったものだ。

 まさか、あの陰気な少女がインフルエンサーだとは思わなかった。

 と同時に、雪海はどこか少し納得した。

 あの響太が、ただの女子生徒と親しくするはずがないのである。

 本人が知れば全力で抗議してきそうな評価だが、仕方ない。

 そして勿論、それは梓乃李も同じで。


「本当に面食いだよね、あの人」

「あら、まるで彼に構ってもらっている自分の顔も、間接的に自慢しているように聞こえますが?」

「……本当に性格悪いですね。それを言ったら先輩も同じじゃん」

「それは勿論」

「あと別に、私は可愛くないし。所詮高校デビューだし」

「……ふふっ」


 急にしおらしくなる梓乃李に、雪海は少し思う。

 彼女がいじめられていたのは響太の身辺調査の際に把握していたため、なんとなく今の発言が、その時に周りから言われた嫌味のせいなのかと、推察できてしまった。

 と、そこに嗜虐心が湧くのが雪海である。

 

 とは言え、なんだかんだこうして関わっているのは気に入っているからなので、雪海は肩を竦めて笑った。


 なんて風に話しているうちに店から二人が出てくる。

 どうやら夕食は終わったようだ。


「つけるわよ」

「あ、はい……。でも会計しないと」

「カードで済ませておくので、先に出て見失わないようにしておいてください」

「ありがとうございます」


 一切金の心配をしない雪海に、梓乃李は感嘆の声を漏らした。

 

 その後、ややあって雪海達は二人の背後を追う。

 どうもお開きムードなようで、桜花が必死に話題を振って繋ぎ止めていた。

 響太はそれを受け、いつものようにのらりくらりと躱している。


 ——相変わらず、人の好意に応えない人ね。


 何度と見た響太の姿だが、今日は少し違和感を覚えた。

 

 そして話題は、徐々に響太の現在の女性関係について流れていく。


『で、でも羽崎さんは?』

『あー……いや、全然付き合ってないけど』

『ま、まぁあんたには高嶺の花だもんね。あ、あとはその、七ヶ条先輩とか。前にも一緒に勉強会してたとか言ってたし、仲良いんでしょ?』

『仲が良いというか、まぁ……うん』


 あっさりと関係を否定された梓乃李が横で殺気立つのに、雪海は優越感を覚えた。

 こうしてつけ回しているから避けられるのだと、鼻で笑いたいくらいだ。

 だがしかし、次の瞬間雪海は全身の毛が逆立ったかと錯覚した。

 曰く——。


『七ヶ条先輩とは、なんか少し距離があるよ』


 梓乃李以上に淡白な言い回しをされ、雪海のフラストレーションゲージは一瞬でオーバーした。


 ——よし、今すぐにあの男を殺そう。


 これまで散々、自身のプライベートエリアであるアトリエに入れてあげ、相談にも乗り、普段なら絶対にしない手間を顧みない協力までしてあげているというのに……。

 そうか、この男にとって、私はまだただの”先輩”なのね。

 気づいてすぐに、殺意が膨れ上がってしまった。

 

 気配に気づいたのか、響太がすぐに振り返ってくる。

 寸でのところで梓乃李が雪海を上手く物陰に引っ張り、事なきを得た。


「き、気付かれますって」

「はぁ、はぁ……ごめんなさい。私としたことが、少し取り乱してしまったようです」

「少し?」

「何か言いましたか?」

「あ、いえ。……あはは、でも意外です。七ヶ条先輩も、そんな顔するんですね」

「……」


 側面にある店のガラスには、自分の顔が反射していた。

 そこには普段冷静沈着な七ヶ条の財閥令嬢とは似つかわない、頭の悪そうな思春期少女が写っている。


「……ふぅ。それにしても、妙に敏感な男ね」

「響太君はアレですよ。ちょっとおかしいので、何もなくてもたまに辺りをきょろきょろ見渡したりするんです。他にも、白目を剥いてフリーズしたりとか」

「それは大丈夫なのかしら?」

「多分?」


 梓乃李から語られる異常な生態に戦慄しつつ、雪海は再び尾行に戻る。

 このミッションもいよいよ佳境だ。

 ここからは帰るだけ。

 それを見送れば、晴れて完遂である。


 のだが……。

 いつの間にか雰囲気がおかしくなっている二人に、雪海は聞き耳を立てた。


『じゃあさ、元カノとかは?』

『——』


 それまですぐに軽い返答をしていた響太に、明らかなラグがあった。

 その後否定していたものの、どうにも引っかかる。

 

 雪海は隣に居た彼の幼馴染に尋ねた。


「彼、元カノが居るんですか?」

「え? いや、絶対にないと思いますけど。幼稚園とか小学校の頃はまだしも、中学以降は女子と話してるとこすら見た事ないですし」

「……本当に?」

「本人もモテなかったってよく自虐してるし、多分」


 確かに、仮に元カノが居ようものなら、この梓乃李が気づくに決まっている。

 この激重女ですら察せないのだから、本当に居ないのだろう。

 実際、前に家の力で響太の事を調べさせた時も、交際相手に関する情報はなかった。

 なんなら交友関係全般における情報がなかった。

 同情して気まずくなったのを覚えている。


 二人が歩いて離れていくが、雪海は追う気分にはなれなかった。

 ただ何かに引っかかり、その正体を確かめようと思考を巡らせるだけ。


「……」


 つい先日、柊季沙の件で響太と会った。

 あの日の帰り際も、妙に含みのある事を言っていた。

 もしかすると、彼は。


「元カレがいるという線は?」

「……ないでしょ。どう考えても女体好きですよ、響太君は。えっちだし」

「ですよね」


 一応確かめようと思って口に出すも、即座に梓乃李に半笑いで否定された。


 ……しかし、雪海が納得する事はなかった。

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