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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第56話 非モテモブは過去を抉られる

 夕食の場は、学生にはかなりお高めなお肉の店だった。

 コース料理なんて、初めて食べたかもしれない。

 味は勿論良かったが、どちらかと終始緊張している桜花の顔が面白かった。


 そして、問題なのは会計だった。


 一人当たり大体1万円弱だったのだが、流石にそれを奢らせるのは俺の良心が咎めたのである。

 本人は『この前カラオケ奢らせたし』とか訳の分からない理由で払おうとしてくれていたが、金額の規模が違い過ぎる。

 これだからガキが金を持つのはダメなのだ。

 結局俺も自分の分は自分で払ったため、桜花は不満そうだった。


 もっとも、そのやり取りを見ていた店員の女は『あれだけ揉めててお前が全部払うんじゃないんかい』みたいな顔をしていた。

 アレは恐らく男が奢るのが当然と思っているタイプだな。


 外はすっかり暗くなった午後21時過ぎ。

 飲み屋街も近いため、辺りは賑わっている。

 流石に夜は肌寒く、バッグから上着を取り出した。

 桜花も気づけばジャケットを羽織っている。


 にしても、こうして知らない夜の街を見るのは楽しいな。

 少し、前世での事を思い出す。

 大学生だったから、こうして夜に遊びに出る事も多かった。

 何なら、そういうノリが楽しい真っ最中だったわけだし。


 そんな事を考えていると、桜花が俺の進行経路に割り込んできた。


「ね、あんたさ。一応聞いておくけど、彼女とかその……そういう遊び相手とかいないわよね?」

「遊び相手?」

「だから! その……あるでしょ? か、体の関係というか」

「あるように見えるか?」

「いや全く」

「じゃあ何だったんだ今の失礼な質問は」


 あっさり首を振られ、失笑が漏れる。

 その通りではあるが、あまりにも引き際が潔過ぎる気がするのだが。

 とか思って抗議の視線を向けると、桜花も頬を掻きながら気まずそうに言った。


「いやだって、モテそうには見えないし」

「おい、喧嘩売ってるなら買うぞ? 確かにいないけどさ」


 結果、やはり失礼を上塗りしてくるだけであった。

 夕方に好きじゃないと振られたのも納得な評価である。

 そんな桜花を避けて歩き始めると、さらに彼女は横に付いてきながら続けた。


「で、でも羽崎さんは?」

「あー……いや、全然付き合ってないけど」

「ま、まぁあんたには高嶺の花だもんね。あ、あとはその、七ヶ条先輩とか。前にも一緒に勉強会してたとか言ってたし、仲良いんでしょ?」

「仲が良いというか、まぁ……うん」


 聞かれて、自分でもよくわからなくなる。

 あの人と俺って、今はどういう関係なんだろうか。

 梓乃李は幼馴染だし、クラスメイトで、一応仲が良い友達なのも事実だ。

 だけど、雪海は少し違う。

 正直今の俺とあの人って、季沙の件を始めとした裏の暗躍パートナーって感じだしな。

 雪海の復讐を止めた後は、俺が一方的に頼っているだけだがそれはさて置き。

 どのみちどう考えても、気安く仲が良いと言えるような関係性ではない。


「七ヶ条先輩とは、なんか少し距離があるよ」


 そんな事を思って否定したのだが。

 その瞬間、俺の全身に一瞬怖気が走った——ッ!


 まるで真後ろから刺されるかのような殺気に、俺は振り返る。

 背後には……少し離れた位置の通行人しかいない。

 おかしいな。

 つい最近早瀬に刺された時と同じ感覚だったのだが、なんだったんだ。


 ——まさかあの人、この場を監視していたりしないよな?


 一瞬そんな事を思うが、流石にないなと首を振る。

 第一、俺を監視している人がいるとしても、それは七ヶ条の家の者であって雪海本人なわけがない。

 だから、気のせいだ。


「急に周りをきょろきょろしてどうしたの?」

「いや、刺客がいないかと思って」

「何そのオタク特有のキモい妄想」

「お前もオタクだろうが」


 やれやれと鼻で笑ってくる桜花に若干イラっとする。

 普通の人間にとっては嘲笑対象だろうが、俺に限っては洒落にならん危険なのだ。

 実際に一回刺されているし、みんな同じ経験をすればわかるはずなのに。


 と、そんな風に気を抜いていた時だった。

 桜花は流れで、笑いながら聞いてくる。


「じゃあさ、元カノとかは?」

「——」


 聞かれ、俺は足を止めた。

 というより、無意識に立ち止まってしまった。


 急に体温が冷えてくる。

 夜風が頬を撫で、こそばゆい。

 自然と口角が下がってくるのが分かった。


「……いないよ」

「何よ今の間は」

「ただ単に、あまりにもモテな過ぎた半生を思い出して萎えただけだよ」


 笑えるくらい何も浮いた話がない人生だったからな。

 納得していない様子の桜花に、俺はため息を吐く。


「大体、そんな事は梓乃李に聞けばすぐにわかるぞ。アイツとは幼稚園から一緒で、俺がこの年まで誰からもモテてないのを一番知ってるから」


 まぁ知っていると言っても、遠くにチラッと映る背景のモブくらいの認識だっただろうが。

 そもそも幼馴染と言うのも若干微妙な距離感だし、アイツもこの前水族館で『漠然とモテてなかった事しか知らない』みたいなことを言っていた。

 何にせよ要するに、この豊野響太の人生において、元カノだなんて大層なものは存在しないのだ。


 しみじみ思い知らされて悲しい気分になった。

 あまり過去を抉らないで欲しい。

 彼女を作ろうと思った事すらないのは事実だが、他人に言われると少しだけ凹むのだ。


「っていうか、羽崎さんの事は名前呼びなんだ」

「まぁ、本人からそうしろと言われたもんで」


 あれは強制だったからな。

 俺に逃げ場なんてなかったと思う。

 と、俺の返答を受けて桜花はつまらなさそうにムッとした後、そのまま口を開いた。


「じゃあ、あたしの事も名前で呼べって言ったら?」

「……変な勘違いされそうだから断る。アイツとは幼馴染だから誰もツッコんでこないけどさ」

「学校でじゃないわ。二人きりでいる時だけよ。そしたら勘違いされることもないじゃない」


 これは、アレだろうか。

 名字呼びだと距離を感じるって奴だろうか。

 俺は別に名字呼びで打ち解けられている友達もいるし、よくわからない感覚だ。

 でもまぁ、断るのも印象が悪いか。


「だからその、あたしも響太って呼ぶから」

「呼び捨てかよ」

「悪い?」

「好きにしてくれ」


 何故か喧嘩腰な桜花に、俺は乾いた笑みを漏らすのだった。

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