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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第55話 自意識過剰モブは人気モデルの前に散る

「……あの」

「何よ」

「どういう意味です?」


 流石に聞き流せない言葉があったため、問う俺。

 すると桜花は明らかに焦り始めた。

 顔は真っ赤に染まり、手をぶんぶん振って口を震わせる。


「べ、べべべべべべ別に深い意味はないわよ!? ただ、せっかく遠くまで遊びに来たんだし? 長く遊びたいじゃない!」

「マイクの音量設定ミスってますよお嬢さん」


 爆音で喚くもんだから、周囲の人が何事かとチラ見してくる。

 コイツは目立ちたくないんじゃなかったのか。

 俺のツッコミに、桜花は今度はイライラしたように眉を吊り上げた。


「だ、大体あんた一人暮らしでしょ? 帰らなくても良いじゃん」

「まぁ確かに。でもそれと夜通し遊び続ける事は繋がらなくないか? そもそもお前は父親が待ってるんじゃないのか」

「はぁ? あたしらもう高2だよ? わざわざどこ行ってたのかとか、聞いてくるわけないじゃん。だからどこにでも行き放題っていうか、バレないっていうか」

「いや別に、俺はやましい事はないので、事実を全て話してもらって大丈夫なんですけどね」


 何故言えないところに行く前提なのだろうか。

 何をする気なんだコイツは。

 鳥肌が立ってきたぞ。


 俺のやんわりとした拒絶に、桜花は顔を顰めた。


 にしても、本当にまずいな。

 やはりコイツ、アレなのか……?

 じんわりと冷や汗がシャツを濡らしていく不快感を覚えつつ、俺は頭を抱える。


 何度も言っているが、俺が梓乃李や雪海から好意を寄せられたのは、あくまで二人の悩みを解決し、イベントを達成してしまったから。

 原作でもそうだ。

 暁斗はヒロインを救う事でフラグを立て、好感度を得ていくのである。

 逆に言うと、ヒロインのイベントを回収していない時期や、回収し損ねた世界線だと、何があろうと好意を向けられることはない。


 だから、あり得ないのだ。

 俺が桜花に好意を向けられているのは、構造的におかしい。

 だがしかし、この世界はゲームの中ではない。

 生前にプレイしたエロゲの世界がベースであっても、生きている俺達が生身の人間であり、コントロールできないのもまた事実。


 俺は別に女好きでもなければ、いたずらに色んな子に手を出したいわけでもない。

 どちらかと言うと、曖昧な関係のまま一緒に居るのは極力避けたい性分だ。

 今自身が置かれている境遇的にも、猶更な。


 俺は少し考えた後、覚悟を決める。

 恥を承知で、恐る恐る聞いた。


「白城ってさ」

「な、なに?」

「俺の事、好きなの?」

「——ッ!?!?!?」


 もう正面を切って聞くことしかできなかった。

 自意識過剰なのは承知の上だ。

 だがこれが手っ取り早い。


 危うい橋は渡らず、目の前で引き返すのが俺のモットー。

 フラグを叩き折るべく、俺は勇気を振り絞ってついに踏み込んだのである。

 そして——。


「——ば」

「ば?」


 わなわなと震える口から漏れた言葉に首を傾げると、次の瞬間鼓膜を破られた。


「ばっかじゃないのッ!? そんなわけ、あ、あああああるわけないじゃないッ!」

「……」

「あり得ないんですけど? 普通そんな事聞く? 自意識過剰過ぎて引くわー」

「……ですよね」


 うん。

 まぁ、ソーダヨネ。


 俺はクールに微笑をたたえつつ、内心で頷く。


 よかった。

 助かった。

 鼓膜と自尊心と男としての尊厳と他諸々の自信を代償に、俺は身の安全を確保したのだ。

 好かれてたら大変だからな。

 これ以上多くのヒロインに迫られたら、本気で洒落にならない。

 だから勘違いだとわかって良かったのだ。

 多少恥をかいても、杞憂だったと確認出来たならそれで構わない。


 いやいや。

 なーに、安いもんだよ。

 ははははははは……。


 笑いながら、俺の口角は無意識に急降下した。


「ぅぅぅ……」


 ごめんなさい。

 嘘をつきました。

 ヤバいです。

 苦しいです。

 この場からいなくなりたいです。


 恥ずかし過ぎて、絶望のあまり口から呻き声が漏れてしまった。

 最近は色んな子から好意を向けられることが多かったせいで、少し勘違いしてしまっていたかもしれない。

 あくまで確認したかっただけだが、流石に我ながらキモ過ぎる。

 やらかした。

 そして、所詮俺は存在すら認知されないキモ陰キャであると、思い出させてもらった。


「……そ、そんなにショック受けないでよ。あたしから好きって言われたかったの?」

「いやそれは全く」


 気を遣ってくれたのか、桜花に聞かれたところで、真顔に戻る。


 一瞬羞恥心で気が狂いかけたが、今の桜花の回答になんら困る点はなかった。

 なんならありがたいくらいだ。

 だって別に、好かれたいわけではないから。

 あくまで、自分に好意が向けられていたら困るから、その確認を手っ取り早く確実に済ませるため、直接聞きたかっただけなのだ。

 好きじゃないと明言されたとて、なーんにも困る事なんかない。


 なので即座に答えると、今度は彼女が顔を背けて蹲った。

 やはりコイツも陰キャだからか、よくわからない反応をする奴だ。

 余程嬉しかったのだろう。


「ふぅ」


 よし、落ち着いてきた。


 勿論、前に言った通り桜花は俺の『さくちる』内最推しヒロインである。

 実際に関わって、少し思ったのと違う面もあったが、それでも好きな事に変わりはない。

 とは言え、やはり付き合おうとは微塵も思わなかった。


 そもそも、交際という可能性が頭に浮かぶたび、最近は見慣れたショートボブの女が脳裏をよぎってくる。

 そいつが俺の中の選択肢を潰すように、引き留めてくるのだ。

 元より破滅ヒロインの巻き添えエンドなんて関係なく、最初から恋愛なんて特に求めてもいなかったのだが、それに輪をかけて今はストップがかかっている。

 相手が推しでも、それは変わらないのだ。


 と、そこで俺はスマホを見た。

 今は午後4時前。

 まだ何をするにも早い時間だ。

 夜ならまだしも、この時間から『帰りたくない』なんて言われても、それはそれで困る。


「どうするんだ? 遊ぶなら遊ぶでもいいし、帰ってもいいけど」

「あんた、マジでなんなの?」

「それは俺のセリフだけど」

「ちっ。あながち否定できない自分がウザ過ぎ。……にしても、切り替え早過ぎてムカつくんだけど。こんなに動揺したあたしがバカみたい」


 流石に自分が奇行に走っている自覚があるのか、桜花は歯痒そうにそんな事を言った。

 その後半、小声で何やらこぼしていたが、よく聞こえなかったので放置していいだろう。


 と、彼女はややあった後、髪を直しながら呟く。


「と、とりあえず夜までは時間潰すわよ」

「何か予定でもあるのか?」

「……ご飯よ」

「え?」

「だから、ご飯の予約してるのよ、もう」

「……」


 コイツはやっぱり、おかしいんじゃないだろうか。


「それを先に言えよ。勘違いするだろ」

「う、うるさいわね。スマートじゃないじゃない」

「そんな事気にする年じゃないだろ」


 そもそもそういう格好付けは、男の仕事だと思っていた。

 予想斜め上の事情に、俺はここまでのやり取り含めて気が抜けて笑ってしまった。

 てっきり、この後襲われるのかと思っていたため、安堵で胸がいっぱいである。

 俺の貞操は守られたのだ。


「っていうかあんた、そう言えば中間テストは何位だったの?」

「3位」

「……負けた」


 その後、世間話をしつつ、俺達は辺りを散策するのであった。

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