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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第54話 人気モデルがモブにだけ見せる顔

 その週の金曜の事。

 俺は桜花に招かれるまま、例の撮影現場に足を運んでいた。

 

 学校自体が短縮日程だったこともあり、昼過ぎだが既に放課後である。

 撮影の場所はお洒落なカフェだ。

 陰キャかつ、男の俺が一人で入るにはかなり勇気がいる雰囲気。

 華やか過ぎて居心地が悪いと言えばわかるだろうか。

 あとはアレだ。

 女性客の多い美容室に入ってしまった時の、『あれ、メンズが予約する場所じゃなかった?』系の焦りに似たものを感じる。


 カフェ自体は休業日らしく、今日は貸し切り状態。

 桜花が話を通してくれていたそうで、着いてすぐにマネージャーと思しき女性に優しく案内してもらった。

 今は少し離れた位置で、桜花の撮影を眺めている。

 

 にしてもアイツ、俺の事をなんて説明していたのだろうか。

 やけに生暖かい目で見られたのだが。


 今日の撮影は確か、かなり有名な雑誌に載るらしい。

 俺でも聞いたことがあるような名前だった。

 詳しくはないし読んだこともないのだが、逆に言うとそんな俺ですら名前を知っているほどの知名度があるという事だ。

 そこでコーナーを任せられるとは、やはり流石である。

 SNSでのバズは勿論、『Ouka』がどれだけ人気モデルなのかという事がよくわかった。


 たくさんの大人に囲まれて仕事をする桜花。

 その表情は真剣なものだ。

 クール系で売っているため、学校での弱々しさや、俺に見せる素の粗雑さはどこにもない。

 可愛いというより、綺麗だという印象を受けた。

 なんというか、オーラからして普段とは違う。


 『さくちる』の原作内でも桜花のモデルとしての描写は、あまりされていなかった。

 当然一枚絵のイベントCGもなかったはずだし、こうして仕事中の彼女を見るのは、文字通り初めてと言えるわけだ。

 鑑賞物のような魅力を放つ彼女に、シャッターを切る音が響く。


 新作スイーツの告知も兼ねた撮影であるらしく、桜花はそれを口に運びながらポーズを取った。

 

 ——それにしても、場違いだな、俺。


 最初は店の様子に気圧されていたが。

 撮影が始まったらそれはそれで、今度はプロフェッショナルな雰囲気に肩身の狭さを感じてしまった。

 何故呼ばれたのだろうか。

 今更、俺はそんな事を疑問に思うのだった。





 撮影が終わった後、店の前で桜花と落ち合う。

 感慨に耽っていたところ、桜花が手を上げて近づいてきた。


「もういいのか?」

「うん。撮影終わったし、さっきSNSも更新しといたからもうフリーよ」


 服装は先程とは違う、私服だ。

 一度家に帰って支度をしていたため、制服姿でそのまま来た俺とは違う。

 ハイウエストのタックフレアパンツにオフショルTシャツという、一見ラフな格好ではあるのだが、そのせいで異常にスタイルが良く見えて驚いた。

 あと、アレだ。

 全然気づかなかったが、コイツピアスも空けてたのか。

 イヤリングやピアスが複数個装備され、かなり目立っている。

 元はエロゲ世界だから当然と言えば当然だが、校則等で縛られる学生の耳とはとても思えない。

 

 それに、なんだかメイクもしている様子。

 撮影の時とは微妙に違うところを見ると、自分でやり直したのだろうか。

 さっきのがクール系だとすると、今は可愛い系。

 どちらにも良さはあるが、こっちは何より、俺が生前何度も見てきた桜花の魅力が最大限表現されている気がする。

 なんて、メイクの知識もない俺には詳しい事はわからない。


 普段とは違ってヘアセットもしており、普段邪魔な長い前髪がないから顔の中身がよく見える。


「今日は芋女子に擬態しなくて良いのか?」


 思わず聞くと、桜花はニヤリと笑った。


「馬鹿ねあんた。そんな事したら、学園の陰キャ女子である”白城桜花さん”があんたと遊んでるってバレるじゃない」

「俺と居たところで陰キャ同士でつるんでるって思われるだけだろ。そもそもこの前、二人でカラオケ行ったじゃん」

「……うっさい」

「そんな理不尽な」


 普通に思った事を言っただけなのだが、機嫌を損ねてしまったらしい。

 扱い方が未だによくわからない。

 

「カラオケはいいの。でもこんな街に居たら、背伸びしてるって思われるでしょ? それだけはごめんなの」

「それは確かに分からなくもないな」


 今いるのは電車で少し行ったところにある、若者向けの街だ。

 カフェとか良い感じの料理屋とかサロンとか、陰キャには少し敷居が高い感じの店が多い。

 それに加え、中高生や大学生の若い男女もいるため、近所のカラオケにオタクコンビが入るのとでは訳が違う。

 俺の肩身が狭かったのも、思えばこの駅で降りてからだった。

 苦手なんだよな。


 というか、よく見ると今の桜花はマスクを着けていなかった。

 やけに顔が見やすいとは思っていたが、当然である。

 普段は肌身離さず着けているのに、その下の鼻や口が隠されずにお日様の下にさらされていた。

 勿論、口の下のほくろも。


 彼女がマスクをつける理由は、このほくろがコンプレックスだからだ。

 大嫌いな母親と同じ位置にあるこのほくろが、彼女の過去を思い起こさせる。

 だからそれを嫌って、マスクで隠しているわけだ。

 『さくちる』の中でも何度も描かれた桜花の描写なので、俺もはっきり覚えている。

 だからこそ、わからない。


 何故俺に、それを見せてくれているんだろうか。


 なんて思ったタイミングだった。

 俺がここ最近、ずっと目を背け続けていた疑問をさらにより強くするかのように、桜花は口を開く。

 曰く——。


「あの、さ。今日あたし、帰りたくない」

「——」

「だから……朝まで一緒に居てくれる?」


 俺の空いた口の中に、一瞬蠅が入って来た。


 ……そのくらい、俺は仰天して言葉を失ってしまったいた。

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