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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第53話 モブはTrueルートに存在し得ない

 お食事が終わった後。

 解散となったは良いが、俺は夜の街を雪海と二人きりで歩いていた。


「二人っきりね」

「柊さんが変な気を回したせいです」


 例に漏れず、俺を誰かとくっ付けるのが好きな奴だからな。

 普段はあれほど『しのりんが~』とか言っているくせに、こういう時はちゃっかり雪海とくっ付けてくる。

 とりあえず引っ搔き回しておかなければ気が済まないらしい。


 渋い顔をしている俺に、雪海はニヤニヤと笑いかけてきた。


「うふふ、不満なの?」

「ウフフ、どうでしょう」


 揶揄われてばかりも嫌なので真似して返してやると、『うっ』と心底嫌そうな声を漏らしつつ距離を取られた。

 効果は抜群だったようで何よりだ。

 とかなんとかやりつつも、あまりふざける気にはなれなかった。

 流石に先程の会話の内容が重すぎて、まだ気が沈んでいる。


「責任を感じているの?」

「……いやまぁ、もう少し、親身になって寄り添ってあげられたかなと思って」

「本当にお人好しなのね」

「そうですかね」

「そうでしょう。だって貴方、部外者じゃない。なんなら巻き込まれている被害者よ?」

「……」


 そう言って切り離せるほど、俺はドライではなかったらしい。

 というより、違うな。

 思ったより、季沙の事が好きになっていたんだと思う。

 大切な友達だから、他人事にはできないのだ。

 あんな事が合った手前、自分でも不思議なものである。


「というか、わざわざありがとうございました」


 俺は立ち止まり、今一度雪海に頭を下げた。

 今日の席は、俺が頼んで作った場ではない。

 確かに相談はしたが、自ら動いて話を進めてくれたのは雪海だったのだ。


 彼女は、驚いたように頬を掻きながら顔を背ける。


「……貴方に一度は助けられた身ですから。そこまで恩知らずではないのよ」

「この間俺が茶桐の名前を出した時、引っかかってたのは彼の事を知ってたからなんですね」

「そうね。あの場で話すべきだとは思わなかったから濁したの。怒っている?」

「まさか。正しい判断だったと思いますよ。……でも、どうしたものですかね」


 結局、解決策は定まっていない。

 突破口は見つかったが、弱みを握られているという状況は変わらないのだ。

 茶桐叶矢という人間に不用意に近づくのは得策ではないし、アイツの人間性的に、暴走して何をしでかすかはわからない。

 今はまだ、起点がないのだ。

 きっかけを作らなければ、話は進まない。


「そうですね。レイプの件を警察に言おうものなら動画を拡散するぞ~なんて、本来はただのハッタリですし、最初から通報していれば強姦と薬物使用ですぐに捕まえられていた話なんでしょうけれど。……相手が厄介な権力者だったこともあって、今回は耐え抜いた柊さんの動きが正解だった気もしますね」

「揉み消されていただけだと?」

「最悪の場合、それに加えて口封じもあり得たわね」

「警察よりも佐山家と直接交渉した方がマシって事か」

「それも難しいでしょう。どのみち口封じされるだけな気がします。そうなると、もっと生きづらくなる可能性すらある」


 結論はどれも同じだ。

 警察に通報すれば、金と権力で揉み消されて口封じ。

 本家と交渉しようとしても、口封じ。

 茶桐本人に家の件を公にするぞと脅しをかけても、相手は何をするかわからない。

 最悪の場合、本当に動画が拡散される。

 幸い今のところ、動画が出回っている様子は確認されていない。

 もしかしたら本人が個人的に保存しているだけという説もある。

 ならば下手に動けない。

 堂々巡りだ。


 しかし、悩む俺の思考を雪海は軽い口調で打ち破った。


「だけれど、私なら交渉できる」

「……何をする気なんですか?」

「お見合いの件もありますし、佐山家とは大きなパイプがあります。柊さんのような一般女子高生が性被害を訴えても無視されかねませんが——訴えるのが私ならば話が変わる。孫息子の見合い相手であり、今の私は佐山博義にとって孫娘兼重要な取引相手。それは言うまでもなく、茶桐叶矢という邪悪の存在を秘匿する事よりも、優先すべき事項になるでしょう」


 それは雪海が自ら、佐山家に突撃するという作戦に他ならなかった。


「そんな事して……先輩の身が危険に晒される可能性は?」


 当たり前の話だが。

 基本的に危険には首を突っ込まない方が良い。

 自分の事なら仕方ないが、他人の騒動の巻き添えなんか自分から喰らいに行く必要がない。

 俺はこの身をもって、その事を知っている。

 そしてそれは勿論、雪海だって同じだ。


「こんな事を言うのはアイツに悪いけど、俺は七ヶ条先輩が危険を冒してまで、この件に関与する必要はないと思ってますよ。先輩が言うように俺達は部外者だし、アイツからは少なからず害を被ってるし」


 どんな理由であれ、季沙が作戦の中で雪海を陥れようとした事実は変わらない。

 俺は事情も相まって怒ってはいないが、かと言って許そうとも思っていない。

 そしてさらに、友達の俺が季沙を心配するのは当然だが、雪海はどうなのだろうか。

 俺にはその必然性があるとは、思えなかった。


 と、そこで雪海は微かに笑った。


「貴方は?」

「え?」

「左腕の傷、まだ跡が残っていますよね」

「……」


 今着ているのは制服だが、衣替えも済ませて半袖のシャツを着用している。

 そのため、左腕が露出されているわけだが、確かに以前刺された傷は、まだそれなりにハッキリ残っていた。

 痛みはない。

 だがしかし、視界に入る度に思い出すのも事実だ。


「貴方だって、彼女を助ける義理はないと思いますが?」

「それはそうかもしれませんけど……。でも、俺は違うから。アイツを放置できない理由があるから」


 訝しげに眉を顰めるので、俺はため息を吐いて苦笑する。


「ほら、柊さんって数少ない梓乃李の友達でしょ? そんな奴が傷ついたままで、俺達の関係自体もギスってる今の現状を、放置できるわけないじゃないですか」


 梓乃李がこの件を知ったら、どうなるだろうか。

 今はグループとしてつるむことは減ったが、それでも梓乃李と季沙はたまに話している。

 そこそこ仲が良い友達の距離感だ。

 でもそこに、季沙が過去に暴行されていたという話や、俺が刺された事件に敵側として関与していたと知ったら。

 確実に亀裂が入るだろう。

 ショックを受けて、せっかく培った距離感が台無しになりそうだ。


 季沙は俺に口止めをしてこなかったが、俺だってこんな事をいつ話せば良いのかわからない。

 正直、季沙のタイミングに委ねている。

 そうしかできないから。


 それに、だ。

 何よりそのカミングアウトのせいで、梓乃李から季沙という友達が消滅してしまったら。

 その時のアイツのメンタルは、どうなるだろうか。

 せっかくできた一番の友達。

 そんな奴と、最悪の形で縁が歪む。

 仮にそのせいで病んで、生きる事に希望が見いだせなくなってしまったら——。


 もう何度とシミュレーションした、梓乃李の破滅エンドである。

 そしてそれは、俺の最期でもある。

 そんなのごめんだ。

 

 目指す道のりが変わったとは言え、ゴールは変わらない。

 俺は自分の死を回避する事だけ、考えなければならない。


 と、俺の言葉を聞いて、雪海は困ったように笑った。


「そこまで羽崎さんが大切なら、さっさと気持ちに応えてあげればいいのに」

「……俺がアイツと付き合えって? 冗談じゃない」


 勘違いしている雪海に、自分でも驚くくらい冷たい声が出た。

 胸の底からこみ上げる空気が、鼻から笑いと共に漏れ出す。

 

「それが最適解じゃないと知っているのに、それがTrueルートじゃないと知ってるのに——選べるわけがないんだよ」


 誰に言うでもない独り言だ。

 普段は抑えているのに、何故か止まらずに口をついて出てしまった。

 

「……」


 雪海は、そんな俺の横顔をじっと見つめていた。

 その日はもう、彼女は何も余計な事は言わなかった。

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