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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第52話 高級料亭にて、夜の密会

 ここ数日、気の抜けるような平和な日々が流れていた。

 相変わらず破滅ヒロインの恐怖に晒され続けていたのは変わらないが、かと言って大きな事件が起こるわけでもなく。

 昨日の昼、桜花と梓乃李が接触した際には一瞬肝が冷えたが、その程度。

 なんならあれ以降、梓乃李からの重すぎる絡みは若干減ったし、結果的に見れば良かったのかもしれない。

 もっとも、その分視線の圧が体感で三割くらい増した気もするが。


 と、そんな中で。

 裏ではもう一つ、例の件に関する動きが始まっていた。


「お久しぶりですね。柊季沙さん」

「……その節は、ホントにすみませんでした」

「ふふ、別に私は直接被害を被っていないので、謝らなくてもいいですよ?」


 先日の早瀬と亜実達の騒動。

 明確に攻撃を受けたのは俺だったが、雪海も関係はしている。

 そもそも、俺をだしにして雪海をおびき寄せ、身代金を搔っ攫うという作戦なら、彼女も被害者なわけで。

 しかし、雪海は笑うだけだった。


「もう終わった話です。それに、貴方如きが一人加勢していたところで、結末は変わらなかったので安心してください」

「……うーわ、辛辣~」


 相変わらずな物言いに、季沙は苦笑する。

 やはりうちの頼れる先輩は、どこか嫌味を含まなければ気が済まないらしい。


 と、別にこの場は雪海が季沙を虐めるために用意されたわけではない。

 何なら真逆だ。

 季沙のための、第一回作戦会議なのだから。


 平日の夜。

 学校終わりに俺は、季沙と雪海と共に食事場にやってきていた。

 完全個室の和食料理屋で、メニューも雰囲気も高級感が漂っている。

 店を選んだのは当然雪海だ。

 流石のセンスと言いたいところだが、かえって俺は肩身が狭くて仕方ない。

 そして恐らく季沙も同じ。

 店に入った後、何度も目を合わせて『ヤバくね?』という庶民的アイコンタクトを交わした。

 もうその数すらわからなくなるくらいに。


「既に察しているとは思いますが、今回お呼びしたのは例の後輩男子生徒の件です」


 雪海の言葉を受け、季沙の表情にピリッとした緊張の色が乗った。

 普段はお茶らけた奴だが、流石にそういうわけにもいかないだろう。

 俺も気を引き締めよう。


 だがしかし、その前に。


「柊さん、ちょっと先輩と話があるんだけどいいかな」

「え? あ、うん。うちも丁度緊張しててトイレ行きたかったし、行ってくるね~」


 俺は一度季沙に部屋を出るように促した。

 彼女がトイレのために席を立ち、雪海と部屋に二人になる。


 完全に彼女の足音が通路から聞こえなくなったところで聞いた。


「あの、まさか殺すとか言い出しませんよね?」


 まず第一に確かめておきたい事項だった。

 そういう路線の解決策なら、俺は断固として止めなければならない。

 前の件もそうだが、雪海にはそれを可能にする力があるから。

 そして、この手の話を今の季沙に聞かせるわけにもいかないと思った。

 その気にさせるのはあまりにもマズい。

 

 と、雪海は呆れたようにジト目を向けてきた。


「はぁ、何を言い出すかと思えば、そんな事ですか?」

「そんな事って事はないでしょ」

「そもそも手を汚すなと私に説教してきたのは貴方でしょう? 今更直接的な手段は提案しないわよ」

「それならいいんですけど、一応ね」

「てっきり愛の告白でもしてくるのかと思って、心の準備をしていたというのに」

「ご冗談を」


 真顔でおかしなことを言うのはやめて欲しい。

 今はそういう時間じゃないだろう。


「っていうか、だって前回とは事情が違うじゃないですか。俺が止めたのはあくまで先輩の復讐なわけだし、他人事な今回は別かと思って」

「まぁ確かに、今回は手を回すと言っても、私が直接手を汚すわけではないですし、感情に任せて利己的に動くわけでもないのはそうですね。確かに、殺してしまうのが一番手っ取り早いし、私好みの方法とも言えるわ。他人の権利を踏み躙る存在に、生かす価値なんてないのだもの」

「ほら」

「だけれど違うのよ。今回の件は、貴方が思っているよりかなり複雑なの」

「……?」


 首を傾げると、雪海が手で制してくる。

 丁度季沙の足音が近づいてくるところであり、俺も察して黙った。

 重要な話は全員で聞いた方が良いだろう。


 がらりと扉が開き、季沙が戻ってきた。

 と、彼女はきょとんとした顔で俺を見つめ、隣に座りながら聞いてくる。


「……二人きりの時間は足りた? うち、もう少し外してた方が良かった?」

「何か勘違いしてない?」

「乳繰り合ってたんじゃないの?」

「……そういうのじゃないから安心してくれ」

「ふーん」


 外の空気を吸って落ち着いたのか、季沙はいつも通りだった。

 こっちの調子が狂う。


 すっかり雰囲気も一つ落ち着いたところで、本題に戻るべく雪海は口を開いた。


「柊さん。去年貴方を襲ったのは茶桐叶矢で間違いないのですね?」

「はい」

「では私から重要な事を伝えておきます」


 前置きをすると、雪海は深呼吸する。

 そして珍しく困ったような笑みを浮かべると、続きを語り始めた。


「彼の事はとある事情で前から知っていました。だから彼の家庭的な事情等も把握しているのですが……彼、茶桐叶矢は——政治家の家の人間です」

「……え?」


 予想していなかった角度の真相に、俺は思わず聞き返していた。

 季沙も何が何だかわからないようで、目をぱちくりさせている。


「彼の母親の旧姓は佐山と言います。この地域に住んでいる人間なら誰でも知っている、あの佐山です。現国会議員や県知事、過去には総理大臣も輩出している名門ですね」

「佐山って……あの男が?」

「ふふ、そう思うのも仕方ありませんね。ですが、あくまで彼の母親は家から出て他の家に嫁いだので、茶桐叶矢氏自体が佐山家の人間というわけではないのですよ」


 あくまで親戚であり、それ以上の関係はないと。

 何やら複雑そうな言い回しをする雪海だった。

 そして俺は、もう一つ気になる事があった。


 世襲政治家一家の佐山……それはつい最近聞いた名前だ。

 それこそ、以前雪海が見合いの話をしてきた際、相手だと言っていたのがその名前なのだから。

 しかもさらに、待てよ?

 雪海はあの日、見合いの相手は現国会議員である佐山博義の孫息子と言ってた。

 そして茶桐叶矢の母親は佐山の人間であるらしい。

 要するに、その佐山博義の娘である可能性が高い。

 となるとつまり……?


 季沙がいる前で躊躇われたが、聞かずにはいられなかったため口が開く。


「七ヶ条先輩が、この前言ってた相手も佐山博義の孫息子って言ってたけど……」

「ああいえ、それは別人です。茶桐叶矢も孫息子に相当しますが、例の件の相手はまた別の方ですよ」

「あぁ、そうですか」


 びっくりした。

 てっきり茶桐叶矢が雪海の見合い相手なのかと、勘違いするところだった。

 違うと聞き、とりあえず心底安心する。

 となると見合い相手自体は恐らく本家の中の、それこそ現県知事の息子とかだろうか。

 なんにせよ、アイツじゃないのであれば良かった。


 と、やや季沙を置いてけぼりにして話を進めてしまっていた。

 俺は咳払いし、佇まいを直す。


「っていうか、そんな名家の孫がアレ?」


 俺も思っていたツッコミを季沙が入れてくれた。

 あまりにも俗な言い回しに、少しその場に苦笑が漏れる。


「それは母親の結婚相手が、そもそも素行が悪い庶民だったせいでしょう。佐山家のコネで就職させるまで、茶桐氏は無職だった聞きますし」

「うわ、ヒモって事?」

「連日酒に溺れてギャンブル三昧、女癖も悪く、手が付けられなかったとか」


 聞けば聞くほど最悪である。

 茶桐叶矢自体もクズの中のクズだが、どうやら遺伝らしい。

 というか、そんな家庭環境だからあんな風に育ったとも考えられるか。

 道理で素行が悪いわけだ。


「にしても、佐山家はよくそんな男との結婚を許しましたね」

「駆け落ちだったらしいので、止めようもなかったのでしょう。まぁ結局、すぐに茶桐氏の借金問題で佐山家に泣きついたらしいですが。そんな関係なので、佐山家としては茶桐の存在は極力表沙汰にしたくないようですね」

「だから誰も学校で噂してなかったんだ……」


 納得したように言う季沙に、俺も確かにと思う。

 そんな名家と繋がりがあるなら、本来学校でも噂されまくるだろうに、そう言えば一切聞いたことがなかった。

 本人も本人だ。

 あれだけ勝手気ままに振る舞っている奴だ。

 口も軽そうだし、自慢できるネタになるんだから、自分から言い触らしそうなものなのに。

 それがないという事は、余程圧力がかかっているか、口封じをされているのか。

 どのみち家庭環境は複雑そうである。


 俺はともかく、交友関係の広い季沙ですら初耳というのが肝だ。

 コイツのゴシップ網を潜り抜けるってのは、全ての情報を隠匿していなければ無理だろうし。


「というわけなので、茶桐叶矢に一矢報いようとするなら、それなりの荒事を覚悟しないといけないのよ」


 雪海は最後にそう締め括った。


 なるほど。

 だからいつもみたいにすぐ消すと明言しなかったのか。


 だがしかし、それでは困る。

 俺はすぐ、横に座る季沙の顔を見た。

 彼女は、乾いた笑みを漏らしつつ、呟いた。


「そっか……。ま、そだよね。じゃあ動画の件は結局泣き寝入りしかないって事かぁ——あはは、まぁ別に今更なんだけどね。二人に助け求めるのもどの面下げて?って感じだし、既に十分図々しい、的なさ」


 それは諦めの言葉である。

 相手が悪かったと言わんばかりの雰囲気に、季沙はもう笑うしかない。

 この前、過去を打ち明けてくれた時と同じ表情だった。

 

 あぁもう、なんでだろうな。

 こういう顔を見ると、神経がささくれる。

 少しでも『被害者とは言え、裏切って俺の事捕まえようと仕向けた奴だしな』なんて思った事がある過去の自分に罪悪感が湧いた。

 でも、どうしようもない。

 流石にこの手の事情相手では、俺の小賢しい策などたかが知れている。

 俺が助けてやりたいと思ったところで、何ができるんだろうか。

 所詮、モブなんて無力で矮小な存在の一つに過ぎない。


 と、思っていた時だった。

 目の前の雪海が意地悪く口の端を歪めた。


「そうとも限りません」

「「――え?」」


 俺と季沙の声が見事にハモり、顔を見合わせる。


「考えてみてください。相手がそれだけ大物という事は、それだけ世間が注目しているという事。要するに、事を大きくして荒立てたくないのです。世の中の揉み消し事案は、危険を冒してでも揉み消さなければいけない人間の間でしか起きない。そうでしょう?」

「……要するに、柊さんの件をネタに揺すれば、案外すぐに要件を飲ませられるかもしれない、か」

「うふふ、流石ね。理解が早くて助かるわ」


 簡単な話だ。

 それこそ茶桐という義息子家族の存在すら、本家から切り離して隠蔽しているような家である。

 そして俺達はその繋がりも、彼の悪行も把握しているわけで。


「え、なにこれ。もしかして、ワンチャン出てきた系?」


 季沙の心なしか浮ついた言葉が、個室に静かに響くのだった。

【ごちゃごちゃしたから人物整理】


・茶桐叶矢→季沙を暴行して、葵子の事も狙ってる人。明嶺学園の一年でサッカー部


・佐山博義→現国会議員の偉い人。叶矢の母方の祖父

・佐山雄三→現県知事の偉い人。博義の息子。叶矢の母方の叔父


・茶桐母→元佐山家の人間。博義の娘で、雄三の妹

・茶桐父→素行不良のヤバい人

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