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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第51話 ヒロインの直感と違和感

 重苦しい雰囲気の展望カフェテリア。

 校舎四階、生徒に飲食等の利用目的で自由に開け放たれたそこは、随分と剣呑な雰囲気で満ち満ちている。

 周りの生徒は何事かと目を見開いた。


 と、フィクションにありがちな私立学園の謎施設に、初めて足を踏み入れた俺だが。

 流石に今は満喫する気も起きなかった。

 だってこの雰囲気、俺の隣から発せられてるんだもの。


「随分仲良さそうだけど、どういう関係?」


 席に着くや否や、開口一番に梓乃李は疑いの目を向けてきた。


「ただの友達だけど」

「ふーん、ただの友達にこんな手の込んだお弁当を用意するんだ。変わってるね、白城さん」


 しらを切ると、今度は標的が桜花に移行した。

 テーブルには先程桜花から手渡された弁当箱がある。

 これに触れずに流せというのは、無理があるだろう。


 当然この場に付いて来ている桜花は、照準を定められ佇まいを直す。

 と言っても、姿勢を正したわけではない。

 背筋は曲げ、前髪を弄って器用に顔を隠し、きょろきょろと辺りを見渡す仕草。

 どうやら、梓乃李の前では猫かぶりを貫く気らしい。

 敢えて普段の擬態モードに()()()というわけだ。


「て、手が込んでるだなんて……そんなことないですっ。あ、あの、よかったら羽崎さんも食べてください」


 そう言って、弁当箱の蓋が空けられる。

 するとこれまたびっくり、中身は色どり鮮やかなサンドイッチ弁当であった。

 具材も豊富で、定番の卵サンドにチキンサンドが二種類、BLT、その他フルーツゼリーのデザート付きというお洒落な昼飯だ。

 ずっしり重かったのは保冷剤と、ゼリーの分だったのだろう。


 と、そんな弁当を見ながら俺は内心安堵していた。

 だって、考えてみろ。

 もし仮に中身が、桜でんぶのハート飯だったり、オムライスにケチャ文字で『らぶ』とか書かれていたら……。

 きっと俺はその場から、生ごみとして地面に投棄されていた事だろう。

 そして落下の際、全身の至る所からケチャップを撒き散らすのだ。

 見るも無残な惨死体の完成である。


 しかもここ、地味に学校の最上階だしな。

 なんならカフェテリアの端の位置だから、ガラス張りの窓越しに景色が一望できる特等席だ。

 覗くと、落ちたら確実に死ぬ高低差の位置にコンクリートの地面が見えた。

 うーん。

 強化ガラスを重ねて使用しているはずだから割れる事はないだろうが、目の前に飛び降りエンドの破滅ヒロインが居る事を考えると……おぉ、変な思考はやめよう。

 本気で寒気がしてきた。


 にしても、妙にそわそわする状況だ。

 『さくちる』内でも、キャラ造形的に断トツで他ヒロインと絡みのなかった桜花。

 それが俺というモブのせいで、こうして梓乃李とおかしな接触イベントを発生させてしまったわけである。

 猫かぶりは想定内だが、先程は舌打ちが漏れていたし、どこまで擬態できるだろうか。


「わ……おいしそう」

「……ふん」


 と、素直に驚いている梓乃李に対し、桜花は素で鼻を鳴らしていた。

 どうやらすぐに本性はバレそうだ。

 心配である。


 俺は今一度、隣に座る桜花を見た。

 やけに顔色が悪そうと言うか、目の下にクマがある気もするし、寝不足に見えるその横顔に首を傾げる。

 何なら薄くメイクもしてるし、珍しいことこの上ない。


 実は今、一番俺が気になっているのは、こいつからの好感度である。


 昨日のモデルカミングアウトと言い、撮影現場への招待と言い、続く今日の手作り弁当手渡しと言い……。

 流石にこれは、そういう意味で受け取るしかない気がしてきた。

 そういう意味ってのは、最近妙に縁がある好きとかラブとかって意味のアレだ。

 まぁそこまではいかずとも、かなり仲の良い友達くらいには思われていそうである。

 とは言えやはり、相変わらずモブの領域を超えた絡み方をしてしまっていると、そう言わざるを得ない。


 だが、だ。

 よく考えたら俺は、桜花の裏側を知っている唯一の人間だ。

 偶然の遭遇だったとは言え、彼女も俺にオタクバレしている事は知っている。

 ならば心を開くのも当然ではある……のかもしれない。

 それに、コミュ障で距離感のおかしい子であるのは、原作をプレイした俺もよく知っている。

 友達付き合いをしようとしているが、常識的な距離感が分からなくて暴走していると、そう考える事も可能なはずだ。


 ——いや、そうに違いない。


 やや強引に自分の中で区切りをつけ、深呼吸。

 じゃあ先程の舌打ちは何だとか、色々疑問は残るが、まぁいいだろう。

 勘違いはしません。

 理由は、そのせいで死ぬかもしれないから。

 怖いから。


 と、一人でぶるぶる震えていると、席の雰囲気も怪しくなっていた。

 梓乃李の仏頂面と、桜花の得意げな表情に嫌な予感を覚える。

 あれ。

 何かマズくない?


「もしかして羽崎さん、料理できないんですか?」

「っ!? ……どういう意味? それ」


 いつの間にか火花を散らし始めていた二人。

 明らかに含みの持たせた桜花の物言いに、梓乃李の表情から温度が失われていく。

 その時、俺の耳には確かに『ブチッ』という音が聞こえた。

 梓乃李の中の何かが切れる音だ。


 しかし、桜花はあくまで擬態したまま、されど明確に棘を忍ばせた言葉を放つ。


「そのままの意味ですよ? この程度の料理で驚いていたので、もしかしたらそうなのかな~って」

「仮にそうだとして、あなたに何か関係ある?」

「だから、あたしもただ質問しただけで。もしよかったら、教えてあげましょうか?」

「……遠慮しとくよ」


 間違いなく、先に攻撃したのは梓乃李だ。

 不用意に敵意を撒き散らし過ぎた。

 そして俺達の昼飯に合流してきたのも悪手だった。

 別に俺と桜花がどんな関係性かとかは関係なく、あんな強引とも言える文脈で昼飯に乱入してきたら、誰でも嫌に思うだろう。

 梓乃李側は俺が別の女と絡む事への牽制のつもりだったのかもしれないが、桜花には関係のない事だから。

 とは言え、桜花がここまで反発するとは思わなかったのは俺も同じだ。

 原作でも、ここまで険悪な関係性ではなかったはずだし、予想外である。


 あと、やはりどうも桜花の反応がおかしい。


 俺が他の女と絡むのを梓乃李が嫌う理由はわかる。

 何故なら、好意を既に口に出してくれているから。

 独占欲の強い彼女の事だし、不健全だが理解はできる心理反応だ。

 俺にも好かれてしまう原因はあったし、まだわかる。


 だけど、桜花のこの反応は何だ?

 簡単に考えたら彼女も俺に好意を持ってくれているから、俺を独占しようとしている梓乃李の態度に反発していると考えられるが、コイツに関しては好かれる程接点を持った記憶もない。

 なにせ、まだイベントが起きていないのだ。

 梓乃李も雪海も彼女らのイベントを解決したことが、好感度の上昇に繋がってしまったわけで。

 となると、桜花が俺に好意を寄せる事は、物理的にあり得ない。


 そもそも自慢じゃないが、普通にしていて女にモテるほど、俺は感心すら持たれていないから。

 現に今も、梓乃李や雪海以外からは蚊ほどの興味も持たれていないしな。

 恐らくクラスメイトの半数には、名前すら把握されていないはず。

 先程から彼女の反応が腑に落ちない理由は、まさにこれなのだ。


 なんて考えていた時だった。

 にわかにカフェテリア内が騒がしくなり、俺達は口論をやめて入口の方を見る。

 するとそこには、大声で馬鹿笑いする元気そうな集団が居た。


「サッカー部ね」

「……」


 桜花が呟くのに、俺は無言で頷く。

 連中は七人。

 男子六人とマネージャーと思しき女子が一人だ。

 葵子の姿はない。

 がしかし、あまり遭遇したくない奴の姿は確認できた。


 そいつは俺の姿を見つけると、聞こえるように大きな舌打ちをした。


「あー、うっぜ。人に説教してくる割に、自分だって女侍らせて遊んでんじゃん。ガチきめー」


 余程この前の水族館でのやり取りが気に障っていたのか、そんな暴言を吐かれる。

 俺としては侍らせているつもりはなく、勝手に付いて来られているだけなのだが、言っても仕方ないだろう。

 茶桐叶矢は、俺を睨みつけた後、そのまま友達と一緒に奥の席へと向かった。


 悪口を聞いた後。

 梓乃李は冷めた目を集団に向けていた。


「あの人、評判悪いよね」

「茶桐の事か?」

「そう、その人。この前の事があってから色々聞いたんだよね」

「……」


 水族館事件の当事者だからか、梓乃李も情報を集めてくれたらしい。

 俺としてはそれより、梓乃李が他人と普通に会話できるくらいまで、人間関係を回復させたことに少し感動したのだが、一旦置いておき。

 俺達の会話を聞いて桜花も口を挟む。


「まぁ、サッカー部自体が変な雰囲気有りますし」

「え」


 茶桐だけを指したわけではない言葉に、俺は思わず首を傾げる。

 茶桐の件は季沙と葵子の話で知っているが、他は知らない。

 と、桜花はマネージャーの女子を指して言う。


「なんか距離感がおかしいのよ、あのマネージャー。普通男子とあんな距離で笑ったりする? なんか気持ち悪いわ」

「あ、ちょっとわかる気がするかも。気を許し過ぎというか」

「そうそれ、それです」


 器用に猫かぶりと本音を使い分けながら、桜花は梓乃李に同意した。

 何故か、先程よりも仲が良さそうに見える。


 そして俺も、確かに言われてみればスキンシップが多い気はした。

 だがしかし、微妙なところだ。

 俺に女の態度の違いは判らないし、あのくらい気心の知れた仲間内ならあり得そうな気もする。

 それに、桜花が言う『変な雰囲気』の正体もわからない。

 

 だが、俺にはスルーしてはいけない直感のように思えてしまった。

 何故なら。


 ――じゃあ葵子は、一体どうなんだ?


 マネージャーと部員の距離感がおかしかったとして。

 同じくサッカー部の女子マネージャーである葵子は、普段部員とどうやって接しているのだろうか。

 俺はひそかに、不安を抱くのであった。

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