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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第47話 イベントキャンセルで前途多難に戻るモブ

 中間考査も終わり、ついに六月に突入した。

 梅雨時期な事もあり、個人的には嫌いな季節だ。

 今日も朝から曇り模様。

 まるで俺の心を表すよう……なんてポエミーなことを言おうものなら、知り合い全員から腹を抱えて笑われるだろう。

 俺の最近の扱いがわかるというものだ。


 と、そんな事はさて置き。

 ここから、また俺は『さくちる』のイベント回収という任務を控えている。

 雪海のイベントを解決して約半月。

 今度はあの猫かぶり擬態地味っ子を襲う悲劇を、暁斗の代わりにどうにかしなければならない。


 前に少し言ったが、桜花のイベントはズバリSNSでの炎上だ。

 『さくちる』のシナリオ通りだとして、実は彼女は現在、毎日熱心に裏垢でアンチとレスバしている。

 ……のだが、これを六月上旬のある日、間違えて本垢でリプしてしまって正体バレしてしまう。

 すると当然、アンチは水を得た魚のように暴れるわけで。

 加えて、連日自身の顔や言動が晒されるという状況に心を病んでしまうという、梓乃李や雪海の時とは少し味変された鬱展開が待っている。


 知っての通り口が悪い彼女だ。

 裏垢バレで大幅にイメージが下がるのは言うまでもないだろう。

 いかにもインフルエンサーキャラにありがちな騒動である。


 と、これをどうにか助けるというのが原作の流れ。

 主人公である暁斗がそんな彼女に寄り添い、支えになる事でフラグを立てるという王道展開なのだ。

 が、しかし――。


「ふふん。今回のテスト、ワンチャンあたしが一位かも」

「……随分上機嫌だな」

「中間テストの出来が良かったんだから当然よ」


 そう言えば秀才設定だったな……なんて思い出しつつ、俺は隣にいる美少女というには地味過ぎる女子に困惑していた。


 6月9日水曜日。

 俺の記憶では、既に桜花の炎上イベントは、起きていなければおかしい時期だ。

 原作内で詳しい日時が出てきた記憶はないが、もう一週間以上経っているし、流石におかしい。

 アカウントの確認は毎日しているし、SNSのトレンドニュースもチェックしている。

 だがしかし、依然それらしきトピックはない。


 何より、このご機嫌さだ。

 これは……あれだな。


「安心しなさい? 心配しなくても、あんたに赤点があったらあたしが教えてあげるから」

「勝手に俺を成績不振者にするな。毎回トップ5には入ってる」

「え、意外」

「……そりゃどうも」


 失礼な桜花に言いながら、俺はため息を吐く。


 脱線しかけたところで、話を戻そう。

 どうやら、想定外の事態が起こっているようだ。


 今まで、梓乃李の件で暁斗がイベント解決に参加しなかったり、雪海と暁斗の出会いイベントがそもそもスキップされる事はあった。

 とは言え、それでも肝心のメインイベント自体は起きた。

 原作と同じような流れで、あくまで本来主人公に向かうはずだった選択肢が、俺というモブに与えられるように捻じれただけだった。

 要するに。


 ――こうして事件そのものがキャンセルされるのは、初めてなのである。


 どうしたものか。

 何も起きないのは平和で結構なのだが、嫌な予感がするのは俺だけだろうか。


 目の前でイベントが起こってくれたら解決してやれるが、俺の知らないところで複雑化したさらに厄介な事件が起きたらそれこそお手上げだ。

 ヒロインは救えないし、目標である共通ルートの完遂も断念させられることになる。

 しかも、その影響で梓乃李も順当に破滅に進み始めるかもしれない。

 となると俺もそれに巻き込まれて――死ぬ。


 なんて、最悪のケースを考えていると頭が痛くなってきた。

 一旦切り替えよう。


 ちなみにこの時期は、テスト後という事で球技大会を控えている。

 学生らしい行事ラッシュに懐かしさを覚えているところだ。

 そして今は、丁度その練習中。

 バスケ選択をしていたところ、偶然同じ選択だった桜花と遭遇したわけである。

 座って休んでいると、その隣にぺたりと並んできた。


 ここで一応言っておくが、現在、どこぞの破滅ヒロインは外でソフトボールをしているため、この談笑が見つかって殺される心配はない。

 ……今後、暁斗や右治谷辺りがチクらなければな。


「っていうか、あんたって案外運動できるのね」

「まぁな。幼少期からスポーツでは色々と活躍してたんだよ」


 褒められ、苦笑しつつ昔の事を思い出した。


 友達は居なかったが、小学校時代には人数合わせで、サッカーのクラブチームに参加したこともある。

 その試合で大人げなく、初心者なのに相手の小学生をボコボコにして顰蹙を買ったくらいには、球技は得意だ。

 しかも、前世で少しかじった事があるため、それなりに体術の心得もある。

 まぁ要するに、もやしっこという訳ではなかった。

 再三運動ができると言ってきたが、転生する前からかなりできる部類だったのだ。


 と、俺の言葉に桜花はにやりと笑う。


「カッコいい所もあるじゃない」

「絶対褒めてないよな、それ」


 一見褒め言葉だが、”も”という表現がミソだ。

 逆に普段はカッコ悪いと言われているようなものなので、顔が引きつった。

 桜花が思ったことをすぐ口に出すタイプなのは知っていたが、なんだか胸に刺さる。

 もっとも、初対面時から陰キャ扱いをされていたから、別に今に始まった事ではないのだが。


 にしても、やはり徹底している。

 俺は改めて彼女の風貌を見て感心した。

 運動中というのに、今も当然のようにマスクを着用している。

 絶対息苦しいだろうに、顔だけは断固として隠すつもりらしい。


 と、そんな時だった。

 桜花が俺の膝を指で突いてくる。


「ね、あんたさ。活動してる女の彼氏所持率ってどのくらいだと思う?」

「いきなり妙な話題だな。あと活動って何だよ」

「だから、ネット配信者とかVtuberとかアイドルとか声優とか女優とか……モデルとか。まぁその系の芸能人とかよ」

「あぁそういう。……って、彼氏が居る事を所持って言うな」


 まるで物のような言い回しにツッコみつつ、俺は考える。

 あまり考えた事がない事だ。

 生憎、推しなどという存在には無縁の生活だからな。

 興味があるのはどちらかと言うと二次元のみだ。


 なんて、元最推しヒロインから聞かれる奇妙さに、少し面白おかしく思いつつ、悩んでいたのだが。

 桜花は俺の答えを待たずして、勝手に語り始めた。


「あたしはね、ほぼ100%だと思ってる」

「……その心は?」

「だってそうじゃない? 承認欲が満たされないから表に出てくるのに、その表の人脈で本来なら届きようのない立場の男から、言い寄られるようになって……逆に靡かないと思う?」

「うーん。極論な気もするが、一理はあるような?」


 言わんとすることはわかる。

 だが、そんな事を言ったらコンテンツが不味くなる。

 急にどうしたのかと思って苦笑していると、桜花はつまらなそうな顔をしながら立ち上がった。


「……結局あたしも、そっち側だったのかしら」

「?」


 最後、何かをボソッと呟いていたが、ブザーの音に阻まれてかき消されてしまった。

 そしてすぐに聞き返そうとするも――。


「おーい豊野。次試合だぞー」

「あ、はい」


 丁度声をかけに来た右治谷に止められた。

 その隙に桜花はすたすたと歩き去っていく。

 小さくなる彼女の背中を見ながら、右治谷と横に居た暁斗がジト目を向けてきた。


「また違う女子に唾つけてたのか? えーっと、あれは確か……」

「白城さんだよ。隣のクラスの」

「あー、そんな奴もいたっけな」

「僕は去年同じクラスだったからね」


 失礼な事を言われているが、それよりも。


 普段の他愛無い会話の中、少し寂しさを覚えるような事を口にする暁斗。

 本来、アイツだって暁斗の女だったわけだ。

 少し複雑な気分になりつつ、俺はそのまま二人と合流した。


 結局、彼女が何を言おうとしていたのか、俺に知る由はなかった。

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