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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第42話 悪夢のち、後輩想いな先輩

—◇―



『ねぇ君さ、私と遊びとどっちが大事なの?』

『……お前だよ』

『何その投げやりな言い方。もう知らないんだから』

『だってこのやり取り、毎日してるじゃないのよ』


 頬を膨らませてこちらを睨んでくる少女。

 見慣れたダークブラウンのショートボブが、さらさら揺れた。

 俺はそれを見て、頬を引きつらせる。


 豊野響太という存在に終焉をもたらす死神――羽崎梓乃李。

 エロゲである『桜散る季節の中で』に出てくる破滅ヒロインであり、俺が学園時代に必死で距離を取ろうとしていた女である。

 がしかし、彼女はアパートの俺の自室に我が物顔で居座っている。

 要するに、俺は敗北したのだ。

 彼女――羽崎梓乃李と、付き合うことになったのだから。


 結局、俺は『さくちる』のシナリオ修正を遂行できず、暁斗と梓乃李のカップリングに失敗した。

 それに飽き足らず、押しに負けて付き合うことになったのだ。

 何故か頭に靄がかかって詳細は思い出せないが、今こうして自室で絡んでくる梓乃李の存在そのものが、俺と彼女の関係を証明している。


 と、彼女は呆れたように俺の肩をペチッと叩く。


『まぁ君がそういう人なのは知ってるけどね』

『そもそも、デートは昨日しただろ』

『今日はしてないけど?』

『付き合ってるとは言え、別に毎日する必要はないでしょうよ? それに、今こうして過ごしてるこの時間を、世間一般では家デートと呼ぶのでは?』

『そりゃ私が無理言って押しかけたからね』

『おい、自分で”無理言って”って言っちゃってるじゃん』


 デジャヴ感のあるやり取りをしつつ、俺は重過ぎる彼女に苦笑した。

 明嶺学園を卒業した今、付き合っている事もあって毎日のように家に遊びに来るのだが、高頻度で連絡も取っているし、勿論デートにも行っている。

 なのに当の本人は足りないようで、こうしてよく文句を言われる。

 もっとも、原因は俺にもあるのだが。


『迷惑だった?』

『まぁアポくらいは欲しいですね』

『でも連絡したら逃げそうじゃん』

『いえいえ、両手を広げてお待ちしておきますよ』

『嘘つき。結局一回も好きって言ってくれてないくせに』


 言われ、俺は頬を掻いた。

 雪海の問題を解決した日であり、梓乃李に一歩踏み込まれたあの日。

 彼女は俺に『好き』と言わせると宣言した。

 しかし、俺はまだ一度もその言葉を発したことがなかった。

 どうも、こいつには素直になれないのだ。


『それはだって……アイシテイマスカラ』


 というわけで、今日も今日とて片言な愛の言葉を冗談めかして返すと、彼女はふっと薄く笑った。

 流石に呆れられただろうか。

 自分でもどうしてこんなに躊躇っているのかわからない。


 と、一人で考えている間に梓乃李は佇まいを直す。


『そっか。じゃあ今日は帰るね』

『送ってくよ』


 なんだかんだで既に時刻は深夜帯。

 他愛無い会話しかしていなかったが、彼女が家に来てから意外に時間が経っていた。

 文脈関係なく、普通に考えてお開きの時間である。

 とは言え、女の子一人を出歩かせるのは忍びない。

 照れ臭くて『好き』と言う言葉は出せないが、それはそれとして送るくらいはしてやりたいものだ。

 そう思って立ち上がろうとすると、彼女は手で制してきた。


『大丈夫だから』

『いや、こんな時間だし危ないだろ』

『家はすぐそこだから心配ないよ。それじゃ――さよなら』

『え、ちょっと待って』


 無表情で言う彼女に、急に俺の中で謎の焦燥感が膨れ上がる。

 まるでそのまま居なくなるんじゃないかと思わせるような凄みを感じ、咄嗟に手を伸ばす。

 がしかし、その手は虚しく中をかいた。

 何故なら、目の前にいたはずの梓乃李が、一瞬にして跡形もなく消え去ったから。


『ッ!?』


 驚愕して仰け反る俺。

 と、今度は耳元で誰かに囁かれた。

 曰く――。


『君の彼女はもう、とっくに死んでるんだよ?』


 唐突に冷えていく頭と共に、そのまま意識が覚醒する――。



―◇―



「う、っうわぁぁぁッ!?」


 絶叫して飛び跳ねると、そのままベッドから転がり落ちた。

 掛け布団が巻き付く様に締め付けて窮屈なせいか、過呼吸だ。

 息を整えながら、今の状況を整理する。


 目の前に居たはずの見慣れた少女はいない。

 それもそのはず、アレは夢だから。

 となると目の前から消えるように去ったのも、最後に耳元で囁かれた意味深な言葉も、全て夢だったのだろう。

 

 焦った。

 さっきの返答のせいで梓乃李が死んだのかと思った。

 やけにリアルな夢だったせいで、現実とリンクしているような錯覚に陥っており、今もまだ鼓動がうるさい。


 それにしても、妙な夢を見たものだ。

 アレは間違いなく、付き合っていた。

 夢の中で羽崎梓乃李が俺の彼女となっていたのだ。

 あり得ない状況である。

 

 それに、問題は内容だ。

 イチャイチャしたと思ったら、その直後に消滅する破滅ヒロイン。

 それはまるで……。


「仮に俺が実際にアイツと付き合ったら、アイツの破滅が確定するかのような予知夢だったな」


 今後の悲惨な展開を暗示するかのような内容に、思わず独り言を漏らした。

 元よりその気はなかったが、夢のせいで一段と気が引き締まる。

 昨日言い寄られたばかりだが、やはりアイツと付き合うという選択肢だけはない。

 

 ふと時計を見ると、既に午前6時52分だった。

 およそいつもの起床時間である。





 大きな事件を解決したと思ったら、続く泥沼に引き摺り込まれるのが俺の常。

 そんな憂鬱な気分の朝。

 俺は校門に着くや否や、待ち構えていた先輩お嬢様に連行された。


 この世には保健室登校と言うものがあるが、このお嬢様は一味違う。

 学園内の私物化されたアトリエがそれにあたるのだ。

 朝礼をパスして作業部屋直行など、どんな身分だ……なんて、本当に身分の高い人に思うのは今更かもしれない。


「暗い顔をしているわね」

「お、気付きますか?」

「また面倒事にでも巻き込まれたのでしょう?」


 足を組んで面白くなさそうな顔で座る雪海。

 一瞬、昨日の季沙とのやり取りを監視していたのかと思ったが、ここは違う角度からご機嫌取りをすることにした。


「いやー、流石全国トップレベルの頭脳の持ち主ですね! ご名答です!」

「あからさまな機嫌取りで不愉快。貴方、そんなに私に殺人前科をつけたいのですか?」

「……」


 と、俺の浅はかな作戦は玉砕。

 遠回しに『殺すぞ』と言われ、流石に顔が引きつった。

 復讐熱は冷めても、根っこのバーサーカー気質は変わらないらしい。

 可哀想に。


 冗談はさて置き、俺は見透かしてくる雪海に笑みを漏らす。


「話、聞いてくれます?」

「元からそのつもりで捕まえたので遠慮しなくて結構よ」

「あ、本当ですか。じゃあ甘えさせてもらいます。実は……」


 相談するのは言うまでもなく昨晩の季沙との邂逅の件。

 雪海も多く関係しているし、今日中には相談するつもりだった。

 こうして朝礼前に場を設けてもらえたのは予想外だったが、都合が良いのでこの際に遠慮なく相談させてもらう。


 俺の話を受けて、雪海は口をへの字に曲げる。


「というわけで、実は彼女も脅されて俺の情報を売っていたらしくて」

「まぁ、そんな事だろうとは思っていたわ」

「あれ、気付いてたんですか?」

「いえ。ただ単に彼女からは、時折値踏みされている気がしていたので」

「へぇ」


 季沙のおかしな行動なんて、つい最近まで気づきもしなかった。

 流石に潜ってきた修羅場の数の差か、雪海は季沙が隠し事をしている事に気付いていたようだ。


「で、ですね。その彼女を襲ったっていう男子はこの学校の一年の茶桐って奴らしくて」

「……え?」


 と、俺がそのまま犯人の名を口にした時だった。

 不意に雪海が驚いたような声を漏らした。


「どうかしましたか?」

「いえ……なんでもありません。少なくとも今は」

「?」

「それよりも、思ったよりもまた複雑そうな騒動に巻き込まれたのね。貴方、どうする気なの?」

「それを聞こうと思って相談してるんですけど」


 煮え切らない反応だったが、雪海が話題を変えるので俺も従う。

 暗躍が得意ではないとここ最近で思い知った俺は、自分の身の振り方について雪海に全投げする形で聞いた。

 彼女は顔を顰める。


「……まぁ、今のところは大きく動くこともできないのではないかしら?」

「ですよね。俺が動いて刺激して、動画をばら撒かれたら元も子もない」


 俺が季沙に協力したとて、結局後手に回っているのは変わらない。

 下手に動くと事態が悪化する可能性もある。

 それにそもそも、季沙に協力すると言っても、俺自身が危険な目に遭う事態は避けたいところだ。

 友達……と呼べるかも微妙な関係になってしまった今。

 どこまで踏み込むべきか、決めかねてしまっている。


 と、俺はそこで雪海の顔を改めて見る。


「っていうか、七ヶ条先輩も疲れた顔をしてますね」


 聞くや否や、彼女はわざとらしくため息を吐いた。

 それを聞いて俺は何となく察する。

 雪海も何かしら、面倒事を抱えているのだろう。

 どうやらこっちが本命だったらしい。


「聞いてくれる?」

「聞いて欲しそうなので俺でよければ」

「一言多いわね、まぁいいわ」


 季沙の件で頭を悩ませている手前、さらに面倒に巻き込まれるのはごめんだ。

 そう思いつつ頷くと、彼女は思わぬ言葉を口にした。


「お見合いよ」

「へ?」

「だから、お見合いの話が来ているの。この七ヶ条雪海に」

「……はぁ?」


 思いもよらぬ言葉が出てきて、思わず聞き返した。

 今この人、なんて言った?

 お見合い?

 っていうと、あの良家のお嬢様とかが家族間のやり取りで結婚相手を決めさせられる、アレ?

 え、おかしくないか、それ。


 なにせ、雪海はエロゲのヒロインだ。

 『さくちる』のシナリオの中でも、当然暁斗以外との交際話なんて出てこなかった。

 お見合いなんて論外である。


 驚きつつ、俺は聞く。


「あ、相手は?」

「地元出身の国会議員、佐山博義の孫息子よ」

「政治、ですか」


 この地域に根差した有名政治家だ。

 元防衛大臣である佐山博義、そしてその息子の佐山雄三は現県知事。

 博義の祖父は総理大臣だったはずだし、要するにそういうお家だ。


 またとんでもない名前が出てきて、俺は唖然とする。


 まぁでもたしかに、当たり前だよな。

 雪海は巨大財閥の令嬢で、見ての通り容姿含めて極めてハイスペック。

 家柄は申し分ない。

 こういうお話が来ても何もおかしくはない。


 それに、俺としても正直願ってもない話だ。

 だってそうだろ?

 ただでさえ梓乃李の件で手一杯なのに、雪海からも好意を向けられると泥沼化する未来しか見えない。

 だから勝手に違う奴とくっ付いてくれる方が助かるのだ。

 しかし。


「あら、随分複雑そうな顔をするのね貴方」

「え?」

「そんなに美人な先輩が他の男に奪われるのがショックだったのかしら?」

「ッ!」


 言われ、すぐに自分の顔を触った。


 違う。

 そうじゃない。

 また面倒臭そうな事になっているなと思っただけなのだ。

 決して俺が嫉妬したからとか、そんなんじゃない。


「か、勘違いしないでくださいよ」

「うふふ、狼狽える顔もなかなかいいものですね。似合っていますよ」

「相変わらずですね」

「それは貴方こそでしょう。それに……何の因果でしょうね。また話が拗れそうな気がするわ」

「?」


 最後によくわからない事を言う雪海。

 しかし、聞き返そうとしたタイミングで朝礼が終わるチャイムが鳴る。

 結局、その意味は聞けず仕舞いのまま、俺達の密談は終わるのであった。

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