校則という名の冷徹なシステム
だが、甘かった。
俺たちの「秘密の文芸同好会」の結成に浸っていたのも束の間、現実という名の冷徹なシステムが、容赦なく俺たちの首根っこを掴みにきたのだ。
翌日の放課後。
再び図書準備室に集まった俺たちに、篠原が冷や汗を流しながら突きつけた現実。それは、高校という組織の絶対不可避なルールだった。
「……あの、ちょっと待ってください。私たちすっかり忘れてるんですけど」
「なんですか、篠原さん。そんな青い顔をして」
「この学校で新しい部活――いや、同好会を立ち上げてこの準備室を拠点にするためには、『顧問の先生』を一名置かなきゃいけないっていう生徒会規約があるんですよね……」
その言葉に、室内の空気がピタリと凍りついた。
顧問。
つまり、三人の怪しいオタク活動を管理・監督し、万が一の時には学校側に言い訳をしてくれる「大人の免罪符」が必要不可欠だということだ。
しかし、考えてもみてほしい。この学校の教員の中で、誰が俺たちの「推し語り」や「ラノベ・少女漫画談義」を温かい目で見守ってくれるというのか。
「む、無理だよ……! 私が去年の現代文の先生にお願いしようなんてものなら、秒で説教部屋行き。ていうか、あの先生、『最近の若い者は活字離れが〜』が口癖だから、私がラノベを愛読していると知ったらショック死しちゃう……!」
羽沢が頭を抱えてガタガタと震え出す。篠原も「私の担任の数学の鬼ティーチャーなんて絶対に無理……!」と頭を抱えて絶望に染まっていた。
(……詰んだな、これ)
なにせ篠原の担任=俺の担任だ。俺もあの人には頼めない。
俺が頭の中でそんなことを思いながら二人を見ていると、ふと、頭の中に一人の人物がよぎった。
商店街を抜けた先、実家のすぐ近所に住んでいる、あの「幼馴染のお姉さん」。
年齢は確か二十代半ば。この学校で教師をやっているはずだが……。
「……一人だけ、心当たりはあるが」
俺がぽつりと言い放つと、篠原と羽沢が「えっ!? 本当に!?」と一斉に飛びついてきた。
「誰です!? どんな先生です!? 優しくて、 話が分かる人ですか!?」
「いや、優しいかって言われると、かなり微妙だな……」
俺が苦笑いしながら名前を告げる。
「我が校の英語科教師で、俺の近所の幼馴染でもある……妙蓮寺 蓮華だ」
妙蓮寺蓮華。
切れ長の目に、黒に近い瞳。普段から誰かを少し睨んでいるように見えるものだから、生徒の間では「あの先生、怒ると絶対怖い」「目を合わせただけで単位が落ちる」と勝手に恐れられている若手教師だ。本人自身は、周囲が勝手に怯えていることに対して「めんどくさいなぁ」くらいにしか思っていないマイペースな性格だったりする。
俺には彼女は顧問を引き受けざる得ないとなんとなく分かっていた。なぜなら俺には秘策があるからだ。




