スタンド使いはスタンド使いとひかれあうとは言うけれど。
今回は短めです。次回少し長くなると思います。
「――って、待って」
さっきまで情けなく涙目になっていた羽沢が、ふと何かを思い出したようにぴたりと動きを止めた。
潤んだ瞳の奥に、急に不気味なまでの知性が宿る。
「東白くん。今、あなた『つい最近、まったく同じような光景を見た』って言いましたよね?」
「……は? いや、べつに何も」
汗が止まらない。俺の完璧なポーカーフェイスが崩れそうな勢いで汗が止まらない。
「嘘だ! その不自然な濁し方、絶対に私以外の誰かとここで同じ密会……もとい、秘密のオタク活動をしている者の影がチラつくよ!」
ぐいっと間合いを詰めてくる羽沢の勢いに、俺は思わず一歩引いた。
見れば見るほど、このおっとり系アイドル、顔はまさしく美少女だな。それにこいつ、推し活やラブコメに関する嗅覚だけは犬並みに鋭い。
「い、いや、別に誰も……」
「隠しても無駄だよ! あ、違った、隠しても無駄だぜ! この旧校舎の図書準備室、微かに甘いラブコメの余韻というか、明らかに女の子のシャンプーの香りがまだ残っているんだぜ! つまり、この聖域には私以外の侵入者がいる……!」
おかしな喋り方をしているが、これはきっとちょっとした探偵ごっこだろう。オタクというものと厨二病は、 ツンデレヒロインにお約束の『勘違いしないでよね!』や、異世界転生と、とりあえずのチート能力のようにセットであり、切っても切れない関係なのだ。
「お前な、言っとくがここは学校の共有スペースだからな。侵入者もクソも……」
「いいえ! 許せません!」
羽沢は両手をぎゅっと握りしめ、なぜか一人で勝手に熱を帯び始めた。
「私以外の誰かが、この最高に湿度が高くてエモい空間で、東白くんとラブコメ談義を繰り広げているだなんて……そんなの、本棚の裏から全巻回収して火をくべたくなるくらいの背徳行為だよ! いったい誰なの?、その女は! 私にその名前と、好きなラノベのジャンルを吐きなさい!」
興奮冷めやらぬ様子である。
「落ち着けって。だいたい、お前がなんでそんなにキレて――」
好きなラノベのジャンルを吐けって、どんなディストピアの特高警察だ。そんなことを思いながら羽沢を落ち着かせようとしたその時。
静まり返った図書準備室の引き戸が、ガチャリと音を立てて開いた。
「――ちょっと、東白くん! お待たせしました。前の分の続きを……って、あれ?」
声の主は、両手に新しい少女漫画の束を抱えた篠原翠だった。
いつも通りの完璧な美少女の表情のまま、目の前で鬼気迫る形相で俺に詰め寄っている羽沢と、冷や汗を流している俺を交互に見つめ、見事にフリーズする。
静寂が訪れた。
羽沢が「はっ」と振り返り、篠原が「……え?」と目をパチクリさせる。
クラスのカーストの頂点に君臨する華やかなアイドルと、クラスの隅でひっそり暮らすおっとり系アイドル。
その二人が、よりによってこんな旧校舎のとある教室で、地味男子を挟んで対峙するという地獄絵図が完成した瞬間だった。




