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鈴が鳴るたび戦国へ――滅びを選び続ける男と、それを許さない血の物語  作者: 宮緒葵(旧:ペコラ)
序章・ありふれた地獄

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5・入部

 ――決まっているだろう。……必要だからだ。



(……あ、危ねえっ)



 ノブちゃん焼きスペシャルを取り落としそうになり、透ははっと我に返った。



 必要だから個人情報を洗いざらい吐け。見ず知らずの他人にとんでもないことを命じられ、うっかり『そうか、必要なら教えないとな』と納得するところだった。絶対に納得してはいけないのに。



「……お前なあ。そんなの、教えられるわけないだろ」

「何故だ?」

「何故って、見ず知らずの他人に個人情報を暴露するほど俺は馬鹿じゃないぞ」



 いや、もしかしたらほいほい教える女も男もいるのかもしれないが。



「見ず知らずの他人でなければいいんだな?」

「はっ? ……って、おい!」



 透は目を疑った。要が懐から無造作に取り出したのは、マイナンバーカードだ。要の顔写真が添付されている。個人情報の塊である。初対面の人間に見せるなんて、とんでもない。



「何やってるんだ、お前……」

「足りないか? ならこれも」



 面食らう透がまだ納得できていないと思ったのか、要は高価そうな革ケースに入った運転免許証まで差し出してきた。更なる個人情報の塊に透は青ざめ、ぶんぶんと首を振る。



「いや、だから要らないから! 早くしまえよ、そんなもの!」

「だが、見ず知らずの他人には何も教えられないんだろう?」

「だからって個人情報を丸裸にしたいとまでは言ってないわ!」



 うっかり読み取ってしまわないよう片手で目を隠していると、要はどちらもしまってくれたようだった。

 しかし、安心はできない。長い指先で顎に触れた要は、きっとどうやって透から情報を引き出すか考えている。



(どうして俺なんかのこと、そんなに知りたいんだよ)



 千歳が『大丈夫?』と言いたげな顔を向けてくる。何かトラブルに巻き込まれたのではないかと、心配してくれているのだろう。ドン引きしているだけの山田や高橋とは大違いだ。



「……お前、さっき『まずは連絡先を』って言ってたよな」



 ふと思い出し、透は問うた。



「ああ」

「だったら、歴史文化研究会に入れよ。そうしたらグループLimeに追加してやるから、俺とも連絡が取れるようになるぞ」



 予想外の透の発言に、山田と高橋は『はっ!?』と声を裏返らせ、千歳はぱちぱちと目をしばたたく。



『何言ってんだよ波座! そんなの勧誘するんじゃねえよ!』



 山田と高橋の心の声が聞こえてくる。千歳は何を考えているかわからないが、要みたいな目立つ男に入部されたら面倒しか起きないのは明らか。絶対に避けたいだろうけれど、それでも透は勧誘する。



(だってこいつ、絶対諦めないもん。だったら他人も巻き込んでおいた方がいいだろ)



 もちろん透個人ともLimeでつながってしまうが、歴史文化研究会のメンバーという監視の目があるのとないのとでは大違いだ。目に余るなら無視すればいい。



(何故か俺の個人情報を洗いざらい吐かせたいみたいだけど、俺が知らないところで何かされるよりは、関わりを持っておくべきだろうし)



 このご時世、本人に秘密で個人情報を調べ上げる手段などいくらでもある。要なら金にものを言わせてどうとでもなりそうだ。

 ならば透がコントロールできる状況にしておいた方まだマシである。

 それに……。


「……俺を誘うとは、面白い」



 くつり、と要は喉を鳴らした。



「是非もなし。入部してやる」



 高橋と山田が『ひえっ』と悲鳴を上げ、千歳が綺麗に整えられた眉をひそめた。ほんの少しだけ罪悪感を覚えつつ、透は机の上に置かれていた入部届を指差す。



「じゃあそれ、書いておいて」

「……グループLimeは?」

「あー、ちょっと待って。食っちゃうから」



 透はずっと持ったままだったノブちゃん焼きスペシャルにかぶり付き、急いで食べ終えた。ハンカチで手を拭っていると、要がつっと目を眇める。



「それは何だ」

「何って……ああ、新入生だから知らないか。ノブちゃん焼きスペシャルだよ」

「ノブちゃん、焼き……」



 何故か渋面になる要に構わず、『ほら、早く』と透は急かした。要が入部届を書き終えると、記入漏れがないかチェックして千歳に渡す。



「ようこそ、歴史文化研究会へ」



 透は新たな後輩に笑いかけた。つかの間、要は何かを懐かしむような、それを恥じるようないぶかしむような不思議な顔をして。



「……さっさとグループLimeに追加しろ」



 傲岸不遜に言い放ったのだった。



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