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鈴が鳴るたび戦国へ――滅びを選び続ける男と、それを許さない血の物語  作者: 宮緒葵
序章・ありふれた地獄

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4/8

4・懐かしい男

「九条くん、待って! 本気でこんなサークルに入るつもりなの!?」

「こんなとこ入ったって何のメリットもないぞ。ただのお喋りサークルなんだから」

「そうそう、その点うちのサークルは有名人やインフルエンサーも呼んで……」



(……『こんなとこ』で悪かったな)



 ぴき、と透はこめかみを引きつらせる。高橋と山田も同じような顔だし、千歳もいつものやわらかい笑みを消している。



「おい、お前ら……」



 腹に据えかねた山田が注意しようとした時、要が薄い唇を開いた。



「――散れ」



 ぞく、と背筋が震えた。



 心臓を鷲掴みにされ、揺さぶられるような声だった。恫喝の響きはおろか、ひとかけらの感情すら滲んでいないのに、無条件に従わなければならないと思わされる。



(こいつ、武将だったら出世しそうだな)



 透はぼんやりと思った。



 良い武将の条件の一つは、よく通る声だと言われる。戦場で指示が通りやすいからだが、兵士とはいえ、生きた人間を死地へ向かわせるのだ。その声には死の恐怖すら麻痺させる、魔力的な何かがあるに違いない。



「っ……、申し訳、ありませんでしたぁっ!」



 学生たちは震え上がり、脚をもつれさせながら駆け去っていった。がたん、ばたん、と激しい物音が続く。何人か転んだのかもしれない。



「えっと、入部希望なのかしら?」



 真っ先に問いかけた千歳は勇者だった。少なくとも青ざめたまま動けない高橋や山田、ぼんやりしている透よりは。



 千歳のような美女に一瞥もくれず、要は古びた狭い室内を見回した。何かを探すように。



 ……リィ、ン……。



 胸元で澄んだ音が響き、透は息を呑んだ。その時だ。獲物を見つけた鷹のような目で、要が透を射貫いたのは。



「――名前は?」



 何を問われているのか、最初はわからなかった。ノブちゃん焼きスペシャルを持ったまま、透は問い返す。



「ひょっとして、俺に聞いてる?」

「……あんた以外に誰がいるんだよ」



 猛禽めいた目つきがほんの少しだけ和らいだ。いや、高橋も山田も久我先輩もいるけど……と心の中で突っ込みつつ、透は答える。



「俺は波座なぐら透。社会学部の二年生」

「ナグラ……」

「あ、名の倉のナグラじゃなくて波の座って書いてナグラだから間違えるなよ」

「おっ……、おい、波座!」



 山田が血相を変えるが、名字は透のささやかなコンプレックスなのだ。ナグラと名乗るとほぼ『名倉』あるいは『奈倉』と変換されてしまい、いちいち訂正するはめになる。ならば最初から言っておいた方がいい。



「波座……沖の高波か」



 要の呟きに、へえ、と透は感心した。波座の意味を知っている人間に遭遇したのは、身内以外では初めてかもしれない。資産運用だけに特化した頭脳ではないようだ。



「俺は九条要。経済学部の一年生だ」

「ああ、知ってる」



 頷く透に山田と高橋が『嘘つけ』と口パクで突っ込むが、教えられたのがついさっきだろうと知っていることに変わりはない。



「で、九条は入部希望なわけ? うちは歴史好きがゆるく語り合うだけのサークルだけど」

「違う。あんたに会いに来た」

「俺ぇ?」



 ざざ、と山田と高橋が後ずさる。千歳が緊張した表情で進み出た。



「九条くん、どういうことかな。波座くんのお友達なの?」

「……お前は?」

「私は久我千歳。三年生よ。部長から今日のことは任されているから、責任があるの」

「三年生、……ねえ」



 ゆるりと剣呑に眇められる要の瞳を、千歳は震えもせず受け止める。絵に描いたような美男美女なのに、漂うのは一触即発の危うい空気だ。



「お前に用はない。用があるのはそいつだけだ」

「……それはわかったけど、波座くんに何の用なの? 責任者としては、そこを確かめないわけにはいかないのよ」



 辛抱強く問いを重ねられ、要は少し考え込んだ。



(おいおい、用があるって言ってたのに、何も考えてなかったのか?)



 心の中で突っ込んでいると、要がゆっくり口を開く。



「……まずは、連絡先を」

「はっ?」

「それから取っている講義と一週間のタイムスケジュール、バイト先、住所、通学手段……」

「お……、おいっ!」



 要に圧倒されていた高橋が、さすがに声を上げる。



「それって個人情報を洗いざらいぶちまけろってことじゃないか!」

「そ、そうだ! どうして波座がそんなことしなきゃならないんだよ」



 山田が同調し、千歳も頷く。

 透は無意識に胸元に触れつつ戸惑った。要とは今日が初対面のはずだ。こんな印象的な男と会ったことがあれば、忘れるわけがないのに。



 何故、……懐かしいのだろう?

 それにさっき、確かに鈴のが……。



「『どうして』?」



 要の唇が皮肉の色を帯びる。



「決まっているだろう。……必要だからだ」



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