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ファリザート帝国皇女との出会い

 カイルディーンは、レガート公爵家の次男として生まれた。

 曾祖母がファリザート帝国の皇女だった為か、カイルディーンは、銀髪蒼眼と帝国皇家の色を持ち、魔力量にも恵まれていた。

 だが、このベルン王国で王家に近い者は、燃えるような赤い髪に翡翠色の瞳を持ち、男性は筋肉に恵まれ堂々とした体躯の者が多く、女性は豊満な曲線を持つ者が魅力的とされていた。

 また、魔力を持つ者はそれなりにいるが、魔法を武力の補助的なモノとして使う事が多いため、カイルディーンのようなどちらかというと細身で魔法を主体に研究する男性は、上位貴族では殆どいなかった。

 ベルン王国は、武を重んじる傾向があり、男性優位社会だ。

 レガート公爵家の当主や長男もやはり体格に恵まれ、赤髪に翡翠色の瞳を持っており、それぞれ軍の要職に就いていた。

 それでも、家族仲は良く、1人違う色を持ち魔法使いの素養があるカイルディーンのことを、気にかけながらも可愛がってくれ、彼の思うように進路を選ばせてくれた。

 高位貴族の中では若干浮いていたカイルディーンは、学校を卒業すると軍人や文官ではなく、王国の魔法使い達を集めた研究機関へ就職し、魔法の研究を続けていた。

 そんな彼が入所して半年ほど過ぎたある日、国王から呼び出しを受けた。

 そして、「ファリザート帝国から、筆頭魔法使いの補佐役で優秀な魔法使いが、治癒魔法の共同研究という名目で派遣されてくるから、出来るだけ帝国の魔法技術を盗み取れ(意訳)」

 と命令されたのだった。


 ベルン王国にとって、ファリザート帝国は非常にやりにくい相手だ。

 帝国の代々の皇帝は、(はかりごと)に長けており、帝国の魔法使い達は、高い魔法技術を持ち優れた魔法具も数多く開発している。

 過去に何度か帝国に攻め込み、それらを手にしようとしたが、そうなる前に上手く躱されたり、潰されたりしてしまう。

 ここしばらくは、互いに旨味のある条約を結びつつ、それなりに交流を持ってきたが、今回とうとう帝国の魔法使いを派遣してくることになったのだ。

 かなり優秀な魔法使いらしいので、婚姻でも結ばせて取り込んで、軍で使える魔法具でも作らせるつもりだったが、相手は養女ながらも皇女の身分を持つ者だった。

 近衛も付いており、思い通りに行きそうにない。

 そこで、公爵家の次男であり、魔法使いとしても優秀なカイルディーンに、先の命令が下されたのだった。




 そして今日、帝国の魔法使いである皇女が到着し、国王との謁見も済ませたとの知らせを受け、カイルディーンは王宮の応接室の一つにやってきたのだった。

 今日は、兄であるザイデルフォルトも護衛という名目で付き添ってくれている。

 相手は皇女だ。

 二人は部屋に招かれ、視線を落としたまま片足を引き、最敬礼を取る。


「皇女殿下、この度は我がベルン王国へようこそいらっしゃいました。この度殿下との研究を共に進めさせていただきます、魔法使いのカイルディーン・フォン・レガードと申します。どうぞよろしくお願い致します」


「顔を上げてくださいませ、レガート公子。

 初めてお目にかかります。

 私、ファリザート帝国の筆頭魔法使いであるセシル義兄上の補佐を務めております、コーデリア・ル・ファリザートと申します。

 これから半年の間、貴国との治癒魔法共同研究者として、どうぞよろしくお願い致します」


 許されて顔を上げると、そこには息を呑むほど美しい女が立っていた。

 艷やかに真っ直ぐに伸びた黒髪、陶器のような白い滑らかな肌、小さい顔に印象的に輝く紫紺の瞳。年の頃は、カイルディーンよりも少々上、兄と同年代くらいか?

 華奢な肢体は、ベルン王国では貧相とも言われてしまいそうだが、カイルディーンにとっては好ましく、そして、その声はどこか懐かしさを覚えさせた。

 どこかで聞いたことがあるような?と考えた瞬間、激しい頭痛がカイルディーンを襲う。


「レガート公子?」


 思わずこめかみに手をやり痛みを逃したが、顰めた表情に心配そうな声が掛かった。


「失礼しました。時々起こる頭痛です。おさまりましたので、ご心配なく」


 つい素っ気ない物言いになってしまったが、カイルディーンには、皇女を気遣う余裕が無かった。

 一瞬、傷付いたように紫紺の瞳を翳らせたコーデリアに気付くことなく、彼は続ける。


「それでは私はこれで失礼致しますが、ゆっくりお休みください。明日は研究所でお待ちしております」


「はい。ではまた明日」


 カイルディーンは再び深く礼をすると、兄と共に部屋を後にした。


 揃って廊下を歩き始めると、ザイデルフォルトがカイルディーンの肩に手を伸ばし、顔を覗き込んできた。


「カイル、お前大丈夫か?」


「いつもの頭痛です、兄上。もう治りましたよ」


 心配要らないというように笑って答えたカイルディーンに、ザイデルフォルトもほっとして姿勢を正す。


「なら良いんだが。それにしても、綺麗な女性だったな」


 珍しく女性を綺麗だと評した兄に、カイルディーンは首を傾げる。


「? 兄上の好みからは外れるのでは?」


「いや、深窓のお姫様みたいでいいじゃないか。あ、みたいじゃなくて、本物か。それよりお前こそ、これから半年間も大丈夫なのか?」


「何がです?」


「だって、結構冷たい物言いだったから、嫌なのかと思って。さっさと出てきたし」


「いえ、そんなつもりは……ちょっと痛みが強かったので、余裕が無くて」


「そうか、じゃあ、お前も早く休んだ方がいいな。俺は一度軍に戻るわ」


「そうですね……ありがとうございました」


 ザイデルフォルトは、弟の肩を軽く叩いて、職場へと戻って行く。

 それを眺めながら、カイルディーンは落ち込む気持ちを止められなかった。

 彼女を嫌だなんて、微塵にも思わなかった。

 むしろ彼女を知りたくなった。声を聞いて、なんだか懐かしささえ覚えて……だけどその瞬間、いつもよりも激しく感じる頭痛に襲われ、余裕を無くしていた。


(明日、会ったら失礼を謝ろう)


 そう決めて、カイルディーンは家路についた。


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