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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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Ep.44 噛み合わなかった歯車






父上は、それまでの不実を詫びるかのように、彼女に寄り添うようになったという。



母上が存命の際は、義務としてドレスや宝飾品を贈ることはあったが、そのほとんどは母上に強請られた物で、父上が自ら選んだことはなかった。



だが彼女には、父上が唸りながら悩み抜いて作らせた指輪を贈った。


それも渡す土壇場で何を言えばいいか分からなくなり、無理やり押し付けて逃げるように去ってしまったらしい……



後でそのことを彼女から聞いたウォルターに、父上は酷く叱られたそうだ。



周囲は、そんな父上の姿を、信じられないものを見るような目で眺めていたという。




だが、彼女が迎え入れられてから二月(ふたつき)が経っても、王家から婚姻の承認が下りることはなかった。



不審に思った父上は、当時の国王陛下⸺先代国王陛下へ直接お伺いを立てる為に王都へ向かった。




そこで告げられたのは、「セキトフの娘を正妻として認めるわけにはいかない」という非情な通告だった。




侵略行為を繰り返してきた新興国の娘を、国境の要であるトレヴァント家に入れるわけにはいかない。


王家は、彼女との間に子が生まれ、その子がいつかヴォルガルド公国へ帰順し、トレヴァント家を乗っ取ることを危惧していた。



父上が「ならば、子は作らない」と訴えても、陛下は「後継の子が一人しかいないのは心もとない為、正妻を別に娶り、彼女は愛妾にすればいい」と突き放し、最後まで『妻』としての籍を許さなかった。



父上は陛下が勧める縁談をすべて拒み、結局籍を入れられぬまま、『協定の証』だと押し通して彼女を傍に置いた。


屋敷の者には彼女を『妻』として紹介し、それに準ずる待遇をするように命じたのだが……




「……先代国王陛下があの方を拒絶された原因は、奥様の件で暇を出された、あのメイド長にありました」




メイド長は元々、亡き母上が実家から連れて来た侍女で、母上の代わりに俺の面倒を見てくれていた。


母上が亡くなり、父上が後妻を迎える気がないと知ったメイド長はホッとしていたそうだ。



だが父上が彼女に心を寄せたのを知り、メイド長はそれを主への裏切りと感じたのか。


あるいは俺の地位を脅かす危険分子だと判断したのか……




理由は定かではないが、メイド長は、亡き母上の姉である王太子妃殿下へ密告の手紙を送ったのだ。




『蛮族の娘が辺境伯閣下を籠絡し、トレヴァント家を乗っ取ろうとしている』


『このままでは、嫡男である俺もどうなるか分からない』、と⸺⸺




母上の生家も、俺の継承権を揺るがす事態は看過出来なかった。


こうして王家の懸念に拍車がかかり、彼女は日陰から出ることが叶わなかったのだ。




「貴族籍がない以上、あの方を『辺境伯夫人』と呼ぶことは許されません。籍を持たない者が貴族を騙れば大罪となります。その為、彼女は屋敷の端……奥様が最初に与えられたあの部屋で、ひっそりと暮らすことになったそうです」






ハンスの言葉に、ヒュッと息を呑んだ。



⸺⸺そうだ、思い出した。




初めてセシリアの部屋を訪ねた際、『こんな所に部屋があったことすら忘れていた』と思った。



なぜ、そんな風に感じたのか。


いつから、この部屋の存在を知っていたのか。


今まで抜け落ちていた記憶が甦った。




幼い頃、忙しい父上に構って欲しくて、たまたま見かけた後ろ姿を必死に追いかけたのだ。


だが父上の歩く速さについていけず、あの部屋付近で見失ってメイド長に泣きついたことがあった。



その時、メイド長は俺にこう言ったのだ⸺⸺。




「坊っちゃま……あそこへ近づいてはなりません。あそこには、恐ろしい魔獣がいるのです」




あまりに凄惨な顔で言われ、俺は恐怖のあまりあの場所を避け、やがて存在自体を忘却した。



更にメイド長は、父上とウォルターに直談判までしていたという。




「旦那様、嫡男である坊っちゃまと過ごす時間をお作りください。トレヴァントの屋敷の中で血の繋がる家族は旦那様お一人なのです」




それは暗に『女にうつつを抜かすな』という警告だった。



父上も、2歳の幼子が寂しがっていると言われれば、父親としての義務を優先せざるを得なかった。


ウォルターもまた、彼女の境遇に注視するあまり、幼い俺への配慮が欠けていたと反省し、彼女と俺を引き合わせる機会を先延ばしにしてしまった。




「……ここまでは、私が執事になってからウォルター殿に聞いた話です」




ハンスは辺境伯騎士団の副団長として父上の側近だったが協定が締結された二年後、魔獣討伐の際に負った怪我のせいで退団を余儀なくされた。


騎士として戦うことは難しくても、引き続き仕えて欲しいという父上の希望で執事となったが、それ以前の屋敷の中のことまでは深く知らなかったのだ。



俺が4歳になった頃、長年の戦のせいで慢性的な人材不足だったことも影響し、父上は魔獣討伐や領地運営などで多忙を極めていた。


ウォルターやハンスもまた、父上の代わりとして方々を飛び回り、屋敷を留守にすることが増えていた。



父上と俺の時間が減ると同時に、彼女と過ごす時間も、削られてしまっていた。






そして、ある日⸺⸺。



彼女は、忽然とトレヴァントの屋敷から姿を消した。






⸺⸺⸺






「奥様と違い、ヴォルガルドの者は魔力を持っておりません。その為、あの方が姿を消した痕跡はすぐに見つかりました」




その頃、体調を崩すことが多かった彼女は、ベッドの上に横になりながら、専属侍女に「一人にして欲しい」と告げ、半日ほど目を離していたそうだ。



調べた結果、外部から侵入した形跡もなかった。



その日は要塞内の食糧の搬入日で、その荷馬車の一つに紛れて逃走したと推測され、足取りを追った時には、彼女は既に国境を越えていた。




「あの方がいなくなり、使用人たちから聞き取りを行いました。すると……メイド長の指示で、避妊薬を定期的に盛られていたことが分かりました。他にも、嫌がらせのようなこともあったようです」





使用人の多くはトレヴァントの領民だ。



大切な人を戦で失った者たちの心の傷が癒えるには、時間があまりに足りなかった。


ましてや、彼女が屋敷に来たのは『不可侵協定』が締結されて間もない時期だ。



そんな悪意の塊の中に放り込まれ、静かに暮らすだけで疎まれ、唯一の支えである父上さえも多忙で足が遠退いた。



そんな絶望の果てに、彼女は故郷へ逃げ帰ったのだろうか?




「閣下は当時のセキトフ辺境伯に、あの方の帰還を請いましたが、拒否されました。『本人が戻りたくないと言っている』と……」






父上は、愛した彼女から捨てられたのだと思い込み、それ以来、二度と彼女のことを口にすることはなかったという⸺⸺。








誤字報告ありがとうございます┏○ペコッ

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― 新着の感想 ―
聞き取りしてメイド長がやってた事分かったのにそのまま雇い続けてたんか。 そら反省せずに同じ愚行をやるわけだ。
こいつらの血の色って青いのかな? 貴い血統をブルーブラッドともいうし。 まあ、血の色が青いのは基本的に甲殻類だそうなんで遠回しに「アンタらは人間ではない!姿カタチの似た人間のようなものだ!」と罵倒して…
辺境伯家の妻として認めないってことは、戦を継続して、辺境伯家の人員を消耗させ続けるってことなのに… 国王としてその判断はどうなんだ… ※協定を結ばないと言っているのもおなじですからねぇ…
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