世界の秘密
「ハル、何かいい事あった?」
ご機嫌で鼻歌を歌っている友人にシロは聞いた。
待ってましたとばかりに鼻息荒くハルが胸を張る。
「ツキさんの交際リザーブリスト78番目に入れて貰いましたっ。」
「…祝っていいのか慰めた方がいいのか悩ましいね。」
「そこは素直に祝ってくれ。」
後から聞けばツキカゲの隠れ里は幻獣達には有名で、時々うさ耳さん達をモフりにやってくる者も多いんだとか。
双方種族の寿命差は如何ともし難く、結ばれる事は稀で、ましてや混血はツキカゲ独りだ。
その分、幻獣からの交際申し込みはツキカゲが産まれた時から長々としたウェイティングリストが出来るほど多い。
「どのみち子どもだと相手にして貰えないしねー。牛乳飲んで頑張るわ。」
「僕も頑張るよ、牛乳飲んで。」
勧められて一泊世話になった後、ツキカゲの館を辞し街道へ戻り、未だサーリフへの道半ばを歩いていた。
「なあ、シロ。自動車って魔法で作れない?」
「そんな魔法あるの?ちゃんと魔術の勉強した事が無いんだよね。シロキオンの時に仲間が使ってたのを何となく真似てるだけで。」
「じゃあさ、転移魔法とかは?もう歩き疲れたよ。」
「転移魔法か。出来るのかな?この世界では使っている人を見たことがないけど。」
そもそも魔術に触れる事は禁じられていたしね、とシロは寂しそうに笑う。
「それに、転移は場所を思い描けないと行けないと思うよ。シロン領とか辺境伯居城とか、あとはブライデルの地下牢とかハウンゼルの牢塔とか。」
「うへ。遠慮しとく。」
「一応、幻獣の館と獣人の森とエリム砦、イズールのウィラード商会とリデル、ツキカゲさんの館も候補だけど、そんなに長いこと過ごしていないしねえ。」
「魔法なんて、どうせデタラメなんだからもうちょい融通が利いても良さそうなもんだけどな。」
「本当だよ。なまじ科学をかじっているとね、どういう仕組みで成り立つのか余計に分からない。そもそも魔力ってなんなんだろうね。」
「幻獣のかけらじゃ。小煩い奴も居らぬし良いか。この世の秘密を教えてやろう。」
にまあ。
悪魔の笑みにしか見えない微笑を浮かべてハッタが囁いた。
「それは有難いのですが、代償を伺ってからでも良いですか?」
「用心深いの。では、こやつの魂を、…冗談じゃ。」
「笑えません。」
冷ややかに言ってから抜く手も見せずにハッタへ突き付けた剣をすっと下げる。
「洋剣で居合すんなよ。びっくりだわ。」
「短気じゃのう。聞く気が無いならよいわ。」
「あ、俺は聞きたい。この間は蓮さんがブチ切れてウーさんが止めたんだよね。」
「そうじゃったの。アレは面白かった。ウーは此奴と同じ素質がある。」
「シロと?って事は勇者?ウーさんが?」
「破魔の素質だけな。随分ととうが立っておるから今更鍛えても無理じゃろうが。そもそも祓う魔も居らぬしの。」
「シロさんや。非礼を詫びて素直に聞いた方がいいんじゃないか?」
上目遣いでハルが言う。
「ご無礼を致しました。どうか続きをお聞かせください。」
シロの抑揚の無い声にヒースがぎょっとする。
「俺の居ない間になんかあった?」
ハルもひそっとヒースに訊く。
「あれだろうな。あんたを置いて先に行こうってハッタさんが言ったんだよ。シロさん、怒ってるよな?」
「俺どんだけ愛されてんだよ。うふん。シロー、機嫌直せ?」
明るく言ってシロの脇腹をぐりぐりと小突くが冷笑は消えない。
「この世の秘密をご教示下さるんですよね。」
「幻獣は残った世界を引き連れて来た。崩壊した世を切り捨てて、異界渡りをする程彼奴らは強い種じゃ。その分、雑での。ポロポロこぼしよる。それがこの世界に在する魔力じゃ。」
「あなた方も同じなのでは?」
「コレはまた別での。逃げ出すのに余の力を掠めよった。世界の残りを取り込んで来たからの。同じ魔力持ちじゃが、身と切り離すのは不得手じゃ。」
もっと嫌がらせめいた事をするかと思われたハッタだが、何事もなく淡々と語り聞かせる。
「魔力が幻獣に依存するものなら東へ行くと使えなくなりますか?」
「お主ならばさして変わらぬ。じゃが、魔術師は稀よの。我らを神人と崇めるくらいじゃ。」
「では魔力尽きた時に幻獣は、あなた方はどうなりますか。」
「力を失い人と同じようになるか、消え去るか、この世界を取り込んでしまうか。それは余にもわからぬ。いずれにせよお主はその頃にら居らぬゆえ今から気を回すでない。」
「そう、ですね。ありがとうございました、ハッタ様。」
漸く、シロは機嫌が直ったか花の顔でにこりと微笑む。
そのまま足取りも軽く先を急ごうとするのをハッタが待てと呼び止める。
「ここからが本題じゃ。」
「え、まだ何か?」
「あそこを見よ。あの峠の木の辺りじゃ。」
「それが何か?」
シロ達は揃って先を見て首を傾げる。
別になんて事のない風景だ。
「見えるあそこまでなら、転移出来ぬかの?」
「えーと?空間をくっつけるイメージで、出来るかなあ。」
「扉を開けると風呂場的なアレか?」
「うん、そんな感じで…あ、」
「あ?っうわっ?!」
キュインと吸い込まれる感覚に思わずシロは側にいたハルの肩を掴む。
そして。
「出来た。」
「おー、凄え。」
二人は顔を見合わせて笑った。
ずっと向こうに取り残された一行がてくてくと歩いて来るのが見える。
「世界の秘密とか言ってたけど。あれ、ハッタさん歩くのやだったんだな。」
「みたいだね。ハルを探すのに大分歩かせてしまったから。あとでちゃんと謝るよ。」
「機嫌直ったみたいだな。」
「ごめん。なんだか無性にイライラして。体力無いから走り回って発散って訳にもいかくて持て余してる。」
「彼女作れー?」
「煩いよ!七十八番目っ。」




