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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
再会と邂逅
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大きくもない森の小さくもない館

 上がって、と言われて一行は館の主人らしい少女に続く。

「それにしてもびっくりしたよ。掴みかかられたのは初めてだ。」

「襲われたの?そんな危ない奴が森にいるのかー。じゃ、シロ達がツキさんを助けたの?」

 ぶほっとヨンとムイが笑いをこらえる。

「…も、申し訳ありません。」

 真っ赤な顔で謝ったのはシロだった。

「え?まさか、まーさーかー?シロ、お前、女の子に手を挙げたのか?」

「まさか、そんな事はしないよ!ただ、ちょっと逃げられたら困るなって…。」

「これ、見て。」

 ツキカゲの手首に赤い跡がくっきり残っていた。

「ヒール。…あの、本当にすみませんでした。」

 ハルの目が点になる。

 ほとんど性差別の域に達したフェミニストを貫いてきたシロが女性の肌に跡が残る程乱暴に掴みかかった?あり得ない。

「何があった?」

「あんたを探していたんだよ。館を見つけて彼女に知らないかと聞いたら、そんな子どもは見かけていないって。」

「うん。」

「その時点で不信感いっぱいだったシロさんだけどね、一応引き退ってこの辺りをまた探していたんだ。」

「うん。」

「そしたら、彼女がまた現れて薪小屋から剣のあんたを取り出して館に持って入ろうとしたのが見えて。」

「シロキレた。」

「怖かったねー。」

 つまりはツキカゲが知らないと言っていたのは嘘で隙を見て剣を館に隠そうとしていた、と勘違いしてキレ気味に奪い返したらしい。

「気味の悪い剣だったから小屋に置いてたんだ。でも、鍵もかからないし子どもがうろついているなら危ないだろうと様子見がてら仕舞いに行ったら凄い剣幕で。」

「凄い剣幕で奪い返した剣がね、」

 ジト目でヒースに見られてハルは首をかしげる。

「いびきかいてのん気に寝てた。」

「仕方ないだろ、疲れていたんだよ。それであの説教か。」

 振り上げてしまった手の降ろしどころ、つまりは八つ当たりに近い。

「シロさんはよっぽどハルが大事なんだな。」

「まあ、大事にはされてるかなあ。折れても研ぎ直して使ってたみたいだし。いや、大事にはしてないか。折れてるんだから。」

 うーむ、とヒースにはよくわからない事を呟きながら考え込む。


 居間に通されてツキカゲがあちこちから椅子をかき集め、お茶を配る。

 ハルには剣の側にあったという脱ぎ捨てた服を渡す。

 突然の無礼な訪問者を気にする事なく手際よくもてなす姿にハルの目は釘付けだ。

「改めてようこそ我が家へ。私はツキカゲ。長老と知り合いだそうだから最初に知らせておくけど、獣人との混血だ。」

 言うと長い上着の裾をめくって、ちょんと付いている可愛らしい尻尾を見せる。

「け、結婚して下さい!」

 ハルが色々すっとばしてプロポーズした。

「うんうん、ありがとうね。それであなた達は?」

 華麗にスルー。

「先程は大変失礼をいたしました。私はシロと申します。迷子になっていた仲間のハルを探してこちらにたどり着きました。海が綺麗だったので寄り道をしただけで、隠れ里を暴くつもりも、晒すつもりもありません。どうか御信用頂けますようお願いいたします。」

 シロが深々と頭を下げた。

「そうして頂けると助かるな。人間には野蛮な連中も居るからね。」

 気負うでもなく告げるツキカゲに、再びシロは頭を下げる。

「ヒースです。シロさんの、…仲間です。」

 ハルの手前、従者とは名乗りたくなくて口ごもりながら仲間を自称する。

「余はハッタじゃ。」

「ムイです。こちらはヨンとコウとユア。私達は東で神人と呼ばれている者です。」

「俺はハルです。ツキさん、獣人ハーフって、そのう、」

 カリオンですら幻獣には尻尾が垂れてしまうのに。

 いやいやいや、駄目でしょう。獣人さんに手を出したら。

 ハルの無言の問い掛けを察してツキカゲが顔を顰める。

「他の里の獣人は幻獣を恐れるらしいね。」

「ここにも獣人さんが居るの?」

「沢山居るよ。皆、客人は珍しいからそわそわしている。」

 ちら、とシロを見ると気配を感じているのか落ち着かない風に手がわきわきと動いている。剣へ手を伸ばさないだけの自制はしているようだ。

「涎垂らして撫でまくらないなら呼ぶけど?」

「涎垂らして撫でまくった奴がいるのか?」

 ヒースが無邪気に聞く。

「いや。むしろ撫でまくらなかった奴がいない。」

 少し遠い目でツキカゲが言う。

 さっき蓮の名をだしたら知古だったようだが…。

 ハルは蓮の涎顔を想像しかけて止める。世の中には知らなくて良い事もある。麻雀にはまって血走った目のむさ苦しい蓮さんだけで充分だ。

「我々は幻獣ほど獣人には執着していないですからね。ぜひお会いしたいわ。」

 ムイがなんの気なさそうに言うが、目がきらっきらだ。

「仕方ないな。入っておいで。」

 扉に声をかけるなり。

 うさ耳の団体がなだれ込んできた。

 皆んな垂れ耳。

「うわあ、ロップさんがいっぱい…。あのさ、人買いに捕まった身内っている?」

「よせと言うのに里を出て行った子はいたが。どこかで見たのかい?」

「多分。ブライデルの帝都で俺たちの仲間が保護しているよ。」

「そうか、無事なら良かった。ところで、」

「涎垂らしてないよー。」

「撫でてるだけ!」

 ユアとコウがそれぞれうさ耳さん達に抱っこされて恍惚と耳を撫でまくっている。

 逆にムイとヨンは膝に乗せた可愛らしい子供達から珍しそうに撫でまくられている。

「撫でてません。」

「涎だけです。」

 猫カフェならぬ垂れ耳カフェ状態だ。

 シロは苦笑し、ヒースはドン引きしている。

「ハル、君はアウトだね。」

「あ、そんな御無体な。もふらせてー。涎拭くからモフモフさせてー。あれ、ハッタさんは?」

「年寄りにはキツイと言いながら消えたよ。」

「ふえ、本当に?」

「二人ほど連れて。」

「あかん、あかん奴それ。ヒーさん、ハッタさん回収!シロは手を離して。もふらせてー。」


 勝手に館をうろつくのもどうかと思ったが、ツキカゲが構わないと言うのでヒースはハッタを探しにゆく。

 微かに聞こえた声を辿ると裏口が開いていて、外に人の気配がした。

「ハッタさん?」

「なんじゃ、ヒースか。中の騒ぎは収まったかの?」

「いえ、まだ…。何をしているんですか?」

「菜園を見せてもろおてただけじゃ。風が冷とうなってきたの。お主らはお戻り。」

「わかった。ハッタ、後で人参食べてね!」

「楽しみにしとるの。」

 二人は獣人達を帰してから館の周りを散策する。

「ヒースよ。コウとユアを許してやってくれないか。」

「…。」

 名を聞いて、ヒースがびくりと肩を震わせた。

「お主が牢番になるまでは子どもの形になるほど身喰いするしか生き繋ぐ術が無かったそうじゃ。形はおろか、知性までおも喰らってしまい今はお主にまともに謝る事も叶わぬ。だがの。あやつらはお主を怯えさせた事を済まぬと思っておるし、お主を好いておる。」

「…俺は身寄りを無くしてから幼いうちに牢番見習いであの塔に入りました。あの子達もシロさんも子どもで、内と外との違いはあったけどあそこに居るしかないのは同じで…。だからシロさんは出してやりたいな、助けられないかなとずっと思っていたんだけど。」

 またぶると身を震わせる。

「あの子達の事はただ怖くて。あんまり怖くて、食事を届けずに食べなかったと持ち帰ってしまった事もあるんです。だから、許して貰わなくちゃならないのは俺の方なんです。」

 でも、とヒースは俯く。

「あんな小さな子どもなのに、俺恐ろしくて。虫のいい話ですが、ハッタさんから俺が謝っていたと伝えて貰えませんか?」

「無理もない。始めの頃はお主がちびって気絶するくらい怖がらせ続けたらしいからの。」

「う。…それ、シロさんには内緒にして下さいよ。」

「勿論じゃ。そんな事がバレたら余らが成敗されてしまうわ。それにしてもヘタレよのう。本当にちびったのか。」

「こ、子ども頃の事ですよ!」

 薄暗い牢の奥から細く青白い手がぬっと伸びてきて手首を掴まれずると引かれた。

 四本の手はきりと肉に食い込むほど強く掴み離さず、ぎらぎらとした眼差しは恐怖に泣き叫ぶヒースを見てうっすらと嗤っていた。

 思い出すだけで冷や汗が出る。

「詫びに子々孫々見守ると言うてるのでの。永らく世話になると思うが良しなにな。」

「…お気持ちだけで、充分です。ってか取り憑かないで下さいよ。」

「諦めよ。余に取りなしを頼んでくるほどには好かれておる。」

 にんまりとハッタ。

 退屈しのぎに楽しんでいる顔だった。

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