目覚め
「えーと?」
剣になるとハルの時間感覚は曖昧になる。
人格のある者、特別なモノと扱われると、自分がハルというなんだか分からない生き物だという事を思い出すのだが、そんな相手が居ないと意識もふんわりと遠のいて、ただの剣になってしまう、ようだ。
ようだ、と曖昧なのはただの剣である時にはただの剣でしかなくそんな認識も出来ない為だ。
辺境伯領でウィラードの帯剣として伯爵邸に連れて行かれ武器庫に預かられた筈が、次に気づいた時には宿の彼の部屋でいきなり床に落とされた時に初めてあれ?と思った。
今も何故か目の前にシロがいて激怒している。
「聞こえなかった?ハル。」
美青年が握りしめた剣に向かってにこにこどす黒いオーラを垂れ流しながら再び言った。
「シュールだ。」
ハルが思わず呟くとその笑顔は一層ひろがる。
「何?」
「っはい、ごめんなさい。」
めっちゃ怖い。
反射的に謝ったのを見透かされてまた睨まれる。
「君ねえ。いい歳なんだから迷子ってあり得ないでしょう?」
「はい、すみません。」
「皆んなどれだけ心配したと思っているのかな?」
「はい、ご心配をおかけしました。」
あんまり皆んなは心配していなかったけどな、と横で聞いているヒースは生暖かい目を神人にむける。
「他所様にもご迷惑をかけて。」
「大変、ご迷惑をおかけしました。」
「あげくに自分は昼寝?」
「誠に遺憾であります。えーと、ヒースさん?そろそろ助けてよー。何これ?」
切っ尖がふるふる動くのでシロの顔を傷つけてしまわないかはらはらする。
「ほんと、面白い剣だ。」
シロの手からすっとハルが抜かれる。
「あれ、誰か居る?初めまして、俺、ハルと言います。」
「私はツキカゲ。」
「せ、先生!」
ハルがピシッと背?を伸ばす。
「お知り合いだった?」
シロが訝しむ。
「いや、初対面です。はい、誰も知らないネタ振りしてごめんなさい。」
右に左にぺこぺこ剣先がお辞儀する。
だがピシッとしていたのはそこまでだった。器用にくたぁと緩む。
「ねー、シロ。俺さあ、結構疲れてんだけど。見つけてくれたのは有り難いし心配かけたのは悪かったけど、説教まだ続く?また今度にしない?で、ここ何処よ?ツキカゲさん、さわさわ撫でないで、うふん。」
ひく、とシロのこめかみがひくつく。
「君はねえ、森で剣になってぐうぐう寝ているところをこちらの方に拾われたんだよ。」
「うちの者が見つけてね、迷い人の落し物だと思ったけど子ども達が怪我をしてもいけないから拾ってきた。…なんか剣に話すのはシュールだな。」
「あ、お子さんもいらっしゃるんですねー。もっとお若いかと思ってました。下に置いて貰えます?」
「この集落の幼子達の事だ。私は独り身だよ。」
「おー、それは勿体ない。俺、立候補しちゃおうかな。」
「薪割りの斧なら足りているぞ。」
「え?違いますよー。ツキさんの彼氏!」
ツキカゲの手から抜け出してヒースの背に隠れてからぽんっと幻獣ショタバージョンへ変身する。
くい、と袖を引かれて仕方なくヒースはすっぽんぽんのハルへ上着を脱いで渡す。
「同族ですよね?」
「違う。」
嬉しそうに角を指して聞いたハルにツキカゲは即、引導を渡す。
「はうっ。そりゃ、俺はね変わり者だけど。」
ツキカゲはハルの好みどストライクの声をしていた。
勿論容姿も幻獣だけあり可愛らしい。
態度も言葉使いもドライなのに、見た目と声がふわんとしているなんて反則でしょう。
神様ありがとう。俺、頑張ります。
「ちょっと、そりゃあ幻獣離れしてるけどね。蓮さんも仲間って言ってくれたし。だから、」
「蓮?あー。長老の知り合いか。」
ツキカゲが参ったなと髪をかきあげる。
「そうか。…私も幻獣離れしているからな。同族といえば同族か。」
「ですです。同族。ツキさん付き合って。あ、ダジャレじゃないよ?」
「うんうん、可愛い、とはお世辞にも言えないが、可愛いな。ありがとう。」
わしわしと頭を撫でられる。
完全にお子様扱いだ。
「まあ、久しぶりの来客だ。せっかくだから上がっていきたまえ。」
「やった。お邪魔しまーす。あれ?もうお邪魔していたんだっけ?ツキさん、俺諦めないよ?せめて、俺とお喋りして?」
ヒースがつと、肘でシロを小突く。
「何、あのテンション?」
「ハルはねえ、声フェチなんだよ。彼女の声は彼の好みのトーンだね、物凄く。」
「シビアな物言いに随分舌ったらずな喋り方で倒錯的じゃの。」
ハッタも参考になるの、と感想を付け加えつつくすぐるような声色で真似る。
「ユアとかぶるー。」
可愛いくユアが小首を傾げつつ、どさくさに紛れてヒースに抱きつく。
あなた方の本性は真っ黒だよね?とヒースは涙目で思う。




