推測の扉
茶を飲み終わると暇になった。
ここはひとつ、何故こんな所へ招かれたか考えてみよう。
そんな提案をしてくるのは大抵シロの役目なのだが。
「シロさんや。お前は何やってんの?」
「腹筋。」
「ヌコさんまだ泣いてますが?迷惑かけたんだから、謝るとか労うとか無いの?流石に、不憫なんですが?」
「もう、やった。ハルが来る前に。」
器用に腹筋しながら答える。
「シロ土下座!」
「土下座して、よしよししてた。」
「それでお腹触ってた。」
「背中も触ってた。」
ハルの脳内で黒猫がシロを肉球でぱしぱししたり、耳を撫でられてゴロゴロしたり、背中やお腹をモフられたり大変な事になっている。
「待って。キュン死ぬ。ってか、コウちゃん、ユアちゃんは何してんのかな?」
壁際でぷるぷるしている獣人達を撫でくり回している。
「シロの真似!」
「いいこいいこ!」
チラ見するとムイとヨンも鼻息荒く自制中。
うん、収拾がつかない。
「シロさんや?止めたれ?腹筋よりこの後どうする、とか、話もしません?」
シロが体を起こしたまま、止まる。
「僕はね、さっき馬車に乗る前に逃げようかなと思ったんだよ。」
ハルの目を、シロは見ない。
「それなのに君は兵士と仲良く喋りながらどっか行っちゃうし。」
「ヒースさん、」
「はい?」
「ここに来たらヌコはいるし。」
「シロはさ、もしかして。」
「あられもない格好で酷い目に遭わされたのかと思って診たけど怪我ひとつなくて、賭け事で負けただけだというし。」
「…怒ってる?」
「怒っているというよりも、癇癪を起こしているみたいな。」
「頭の上で、人の事を詮索しないで下さい。」
むっとした顔で二人を睨んで、また腹筋に戻る。
「ほおって置け。それより、これからどうするつもりの?」
「…いや、そんな寛ぎモードで言われても。」
ハッタは奥の部屋から枕を取って来て既にごろ寝だ。
「えーと?茶も美味いし、飯も期待できそう。宿代わりに丁度いい?」
「飯は美味いであります!」
「黒猫さん達が良ければ、いいのかな?ヌコ、幻獣一緒でお泊り大丈夫そう?」
部屋の隅でいじけていたヌコが名を呼ばれてやってくる。
「問題にゃい。俺の部下達は幻獣如きに怯えるようにゃ奴らではにゃい!」
壁際でめっさぷるぷるしている獣人達が涙目でうんうんと頷く。
「一晩英気を養ったら、明日にはシロン様をイズールにお連れするのにゃ!俺達の商会を見て貰うのにゃ!」
「うん、ごめん。だらだらしすぎてリュヘルさんに追い出されて来た。」
「!!!うぬれ、番頭の分際で!」
「本人の前では言わないでね?俺、もうとりなしてやれないから。」
「うにゃ。」
目がクロールしている。
「全く話はかわるけど。裸よりツッコミ所の多いその服はどうした?月組の衣装コスじゃないか。しかもこれ、本物の唐布だろ?」
ルルリン月組の舞台映えばっちりな衣装の男装版だ。
「も、貰ったんだ。俺の好みじゃにゃい!」
目がバタフライ。
なるほど。シロに再会する前に証拠隠滅しておきたかったのか。
取り返して悪い事をしたな、とハルは思いそれ以上の突っ込みはスルーしようとする。
「先日タンが着せて行きましたであります!」
「ルルリン像もくれたであります!」
「アレはあの人の作か…。ん?タンさんに会ったって?」
「タンさんは貴方がたがここに居ると知っていたのですか?」
シロが腹筋をやめて話に加わる。
「経緯を初めから説明してくれる?」
「はい。俺達は半月ほど前に南方から入領したのですが、止められてここへ連れて来られたんです。獣人隊にゃので良くある事にゃんですが、リデルは毎回通るので最近はお咎めを受ける事もにゃく油断してました。それで仕方にゃく番頭さんへ身請けの使いを出して貰おうとしていたら、マルさんタンさんがエリムで捕まってやってきて。」
「ここで会ったの?」
「嫌がる隊長の服をファイヤーして行ったであります!」
「替わりの服もグッジョブで、あります!」
「そうかー。嫌がるネコさんの服を着せかえたかー。」
「猫じゃにゃい!ヌコだっ。」
「ハルはほっといて、続きを。」
「あ、はい。会ったのは一瞬にゃんですが、ここにいればシロン様に会えるからと、マルさんが。」
「そうじゃないかとは思っていたけど、やはり軽薄殿下の差し金だね。」
シロがふっと息を吐く。
「なんか分かった?」
「多分、イズールで僕にコンタクト出来なかったから代わりにリデル領を通るウィラード商会の者を留めたんだよ。隊商が途絶えればリュヘルさんが動くだろうとね。」
「それで追い出されたのか。」
「マルさんがリデルでヌコに会ったなら確定情報でしょう?即出発させられる訳だ。」
「マルさん達は連絡係として先に解放されたのか。」
「と、言うよりそれを買って出たんだろうね。リュヘルさんもマルさん達も僕らに説明無しだもの。僕達をこちらへ送るからウィラード商会は見逃せ。そんな取り引きが出来ていると思いますよ?」
「にゃ?!じゃあ俺達は。」
「ウィラード商会の人質。もう、解放して差し上げて下さい、いいでしょう?」
シロはゆっくり扉を開けて立ち番の兵に言った。
「―――ミルガルムさん。」




