番頭さんが冷酷なので、日も暮れましたがサーリフへ出発しようと思います
半月待ったがウィラードもヌコも戻る様子が無い。
マル達が来た途端にリュヘルの追い出しが厳しくなり、流石のハッタも重い腰を上げた。
「前に通った時はこやつが急かしおっての。ろくに見物も出来ぬままであったから、もう少しのんびりと行きたいのじゃが。」
「魔力も使えぬ無駄飯喰らいを飼う余裕は無い。」
「世知辛いの。じゃからせめて添い寝てやろうと言うとるに。」
前髪をたくって、にたありと笑う。
勿論、目を合わすリュヘルではない。一度魅入られて醜態を晒してしまったのは、無かった事になっている。
物凄く突っ込みたい顔をして背後で葛藤中のハルに振り返りもせず手元の石を投げつける。
「ハッタ様、おふざけが過ぎます。」
「しかしの。余は本当に力が無いのじゃ。そろそろ年貢の納め期、死にゆく前に世界を見て回りたかった。役立たずが手間をかけたの。」
「ハッタさん…。そんなに弱っていたんだ。ごめん、俺。」
ハルが驚いて、唇を噛む。
「よいよい。残り僅か数千年の命よ、笑うて暮らしたい。余の望みはそれだけぞ。」
「うん?余命長いね?」
「少な目に言ってみたが長いかの?」
「少な目に言ったんだ。」
「力が無いのは本当じゃ。お主らが死んでも転生などさせてやれぬから悔いなく生きよ。」
「すんごい神さまっぽい台詞だけど、それ、俺にも言える奴だよね。」
「ハル、亀。手が止まってますが。」
山と積まれた賢者の石に魔力を込めながら蓮が文句をつける。
「全く密輸品に名前書くなよな。」
うんざりとハルが言い、ヤスリがけに戻る。
せっかくの細工だが、中にいくつか怪作が混じっている。
石像、というよりフギュアだ。
萌えにディフォルメされた獣人娘が絶対領域をきちんと守ってポージングしている。
それ自体は、とても、いい。
まさにグッジョブだ。
だけど、一体一体にウィラード商会謹製の刻印がしてある。
仕方なく魔力込めが出来ないハルとハッタでヤスリがけをしているのだ。
「石に詰めるなら食べさせてよー。」
「魔力ちょうだい?」
コウとユアが込める端からつまみ食いをして魔力込めも中々捗らない。
リュヘルの苛々がもう少しで怠惰を上回りそうだ。
「むかしむかし、ナーダルという男がいた。」
「今もブライデルに居るよー。」
「その男は三度の飯より残虐非道を凝らすのが好きな奴でなあ。」
「いや、飯は食ってたよ?」
ハルに石を投げつける。
「特に子どもや幻獣や奴隷を嬲るのは容赦なかった。」
「あー。ピンポイントで俺の事ね。」
子ども幻獣の身分奴隷である。
「酷い目に遭ったの?」
シロがこっそり聞く。
ブライデルで再会していないシロにとっては、エリム砦でウィラードを吊るしていたナーダルの記憶しかない。
「昼寝していたらな。おでこに、肉って書かれた。」
「それ…ハルが先にやったでしょ?」
「それはそうなんだけど。なにも釘で引っ掻く事ないじゃん。」
おでこを出して見せるとうっすら傷跡が残っている。
「ヒール」
「お、ありがとう。」
二人がリュヘルの話へ聞き戻ると悪い子の所へは夜中にナーダルが包丁持ってやって来る、という話になっていた。
「ナマハゲ?」
「似たような伝承があるのかな。」
続きを聞いていると、悪い子がナーダルになます切りにされて終わった。中々壮絶な事になっている。
コウとユアがぷるぷる震えて、つまみ食いした石に魔力を込め始めた。
「それはいいから、あっちでヒースと遊んでいなさい。」
蓮が優しく言う。
「はあい。ヒーちゃん抱っこー。」
「ユアも抱っこー。」
「…。」
リュヘルに睨まれてヒースは涙目で双子を抱き上げる。
最後の一つに魔力を込める。
仕事が、無くなった。
「これをやる。」
リュヘルが封のされた三通の書簡を渡してきた。
「軽薄に書かせたリデルでの免状と俺が書いたサーリフの通行願いだ。それと、」
「やった!温泉宿。」
「もう定宿があるだろう?これは、剣術指南の依頼書だ。一見で行くと彼処は面倒だからな。」
「この門をくぐりたければ、俺を倒して行け!って奴?」
「まあ、中には頭のおかしな奴もいるが。入門手続きに十日はかかるんだよ。」
「長っ。」
「冷やかしを追い払う為と、温泉宿に金を落とさせる為にな。ベルドの奴、あれで中々そつなかっただろう?」
「うん。心付けとか袖の下とか渡すのめちゃくちゃ上手かった。」
「そういうスキルも育つぐらい、真っ向からだと色々面倒な所だ。さあ、餞別にこれをやるからとっとと出て行け。」
「ありがとうございます。旅装を整えたら明日にでも、」
言いかけたシロを遮り、リュヘルは隣の間へ誘う。
そこには。
「用意周到ですね。」
リュヘルの本気、見せてみた。
「り、り、リュヘル!俺もシロさんに付いて行くからな!」
「分かりました、元店主代行様。それとなあ。俺の名は貴様如きに呼び捨てられる程安くは、ねえ。」
悪ふざけなのだろう。別に言葉と気迫だけで詰め寄るでも、武器を構えるわけでもない。
だが、それでも。
腰を抜かしたヒースの肩をぽんぽんとハルが叩く。
「だからあの人の冗談は兇悪なんだってば。大丈夫?目が虚ろだけど。」
「自分が呼び捨てにしろって言ったのに…。俺も、連れて行って下さいね?置いて行かないで下さいよ?!」
ハルにしがみつく。
「ヒーちゃんて、なんか可愛いね。最近ヌコさんがマッチョになっちゃったから懐かしい感じだわ。」
「…ヌコがマッチョ??」
性格の事をハルは言ったのだが、シロはムキムキになった黒猫青年を想像して密かに対抗心を燃やした。




