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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
西辞浮雲
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商都イズール

 商都イズール。

 暁街道の起点であり、東西交易の要でもあるこの世界随一の大都市である。

 ブライデル帝国の千年都市やホジカ神国の水都と並び称され、特にイズール商人の羽振りは小領の貴族を時に上回る。

 かつてはその有利な土地柄をブライデルとイズーリア両国が配下に置かんと、度々血で血を洗う戦乱の場となっていた。

 緋色に染まったという都の壁は最後の戦いの後は建て直されず、旧市街と新市街の間を通る広い馬車道として今では整備されている。

 旧市街側はイズール統治府を最奥に貴族館が配され、新市街側には通り沿いをイズール商人の大店が並び都下へ向かうにつれ小商いの商店が連なってゆく。

 他の都なら城門で関があり、そこで入都の沙汰や税が課せられるのだがイズールに限っては都市が広がり隣接の街々まで連なってしまった為、街道に直接関が設けられている。

 それも通行が多い為に一の関から五の関まで分けられて、一の関では通行証を持たぬ平民を、二と三の関では通行証を持つ者、イズール商人でも小商いの者が調べを受け、四の関で大店と召喚状の無い他領貴族、五の関で召喚状を持つ貴族達と、イズールの統治府に属する者達が迎え入れられる。

 シロ達の様に街道を通らず密かに入都をする事は比較的容易いが、通行証に印の無い者は表立っての商い取引は許されず、裏に回っても信用が無いため碌な商売にならない。

 その上、検問に引っかかり身の証だてが出来なければ良くて追放、下手をうてば縛り首である。

 よほど脛に傷を持つ身でもなければ不益の方が勝る為、試みる者は少ない、事になっている。

「番頭さーん。…リュヘルさあん。お客さんですー。」

 素性を詳しく聞かされていないヒースが、だらけた格好で書を読んでいるリュヘルを店から声掛けだけで呼び出す。

 暇なら読み書きを教えてよと言ったばかりに、朝から正座で砂盤に字を書かされていたハルがやったと歓声をあげた。

「商店に客が来るのは当たり前だ。いちいち呼ぶな。」

 リュヘルは微動だにせず、返事だけ返す。

 それもやる気の無い声なので店までは到底聞こえるはずもない。

「そう仰らずに行ってさしあげて下さい。」

 シロが横に寝転がったまま、口添えする。

 直ぐにでもサーリフへ腕試しに行きたがったシロだったが、ハッタにもう少し体力をつけてからにしろと戒められて、それもそうかと目下先ずは食べては寝るを繰り返している。

 リュヘルにはなんとも理想的な生活で余計に邪魔者扱いをされているが、シロにとっては病でも無いのにごろごろ昼から横になるのは苦行でしかない。

 力士を目指せ?とやはりごろごろ上等のハルからも揶揄されているが、肉の付きにくい体質らしく半月経った今で、ようやく頬に薔薇色の血色が戻った程度である。

 ただし、その分また背は伸びた。

 それはともかく。

「リュヘルさああん!」

 声が切迫詰まっている。

 それでもキリの良い所まで書を読んでからリュヘルが立つ。

 なんだかんだ言いつつも面倒見の良い人だとシロは思ったが、そこそこ付き合いの長くなったハルはコール二つで立つ本当の理由を知っている。

 出て行かねば何度も呼ばれて都度読書を邪魔された挙句、後で何で出てきてくれなかったかと問い詰められる、それが面倒なだけだ。


「はいはい、御用の向きは何で御座いましょうか。」

 剣呑な気配を察して商売人の体で奥の間から店へ出る。

 冷酷リュヘルの気で出て行けばよほど鈍感な者とそれなりに心得のある者以外は逃げてしまう。

 それでは商売にならない。そもそもいちいち気を張るのは、疲れる。

 剣呑、ではあるがこの程度ならトロくさいヒースにキレている只の客だろう。

 と、思ったら。

「耳付きでない新人が店番をしているから何かと思いましたよ。」

 剣呑な客達がヒースに突きつけていた短剣を懐に戻す。

 人間と幻獣の二人連れ、ウィラード商会密輸担当のマルと(タン)だ。

 実のところ、大店は多かれ少なかれ彼らのような密輸人を抱えている。

「何者ですか?リュヘル様。」

 マルがまだヒースを警戒して言った。

 エリム砦での元部下である。兵役を終えた後は何が嬉しいのかまたリュヘルの手駒としてこき使われている。

「奥が随分賑やかだが、まさか長老様が戻っておられるのか?」

 炭が声を潜める。

「面倒な奴らが居着いている。まとめてどっかに売り払うぞ。手を貸せ。」

「何を、」

 ヒースが顔色を変えてリュヘルに詰め寄ろうとするのをマルもまた険しい顔で止める。

「ヒース、マル。気が合いそうだなあ、お前たち。二人で客の呼び込みでもして来い。」

 リュヘルとしては双方取りなしてやっているつもりで、二人を追い出す。

「あんた何なんだよ?」

「俺はここの店主代行だ。リュヘルより偉いんだぞ?」

「は?正気か?」

「だってあの人がそう言うんだよ。大体あの人何者なんですか?もう、俺、どうしていいんだか…。」

「お前、あのお方はなぁ。よく呼び捨てになんか出来るな、命知らずめ。」

 とかなんとか、二人の声が遠ざかる。


「煩い奴らだ。タン、貴様は逃げるな。ブツを出して行け。」

「ああ、そうだった。ここに広げて良いのか?」

「…裏には連中が居るが。嵩はどれほどだ?」

「そう多くはない。エリムで常態に捕まって大分抜かれた。」

「まだクソ真面目に働いているのか、御大は。」

 通行料だやむ終えない、と続けながら次は何を送りつけてやろうかと思案する。

 あの男の嫌いな食い物が良い。下賤の癖に舌の肥えた偏食家なので食えない物は山程ある。

「魔香が二籠と薬草が毒消しと滋養それぞれ三束、虫除け草が十二束。獣人の里で売り込まれた薬水も少しあるな。」

「タヌキめ、また売りつけて来たか。薬水は日持ちしないから買うなと言っておいただろう。」

「いやあ、でもポルコスさん達が一生懸命に、」

 炭が獣人達が如何に頑張っているかを熱く語り出す。

「わかったわかった、全く幻獣という奴は。石はどうした?」

「地下通路を掘り抜いたからな。こんなちみちみ運ばなくても山程あるが?」

「値崩れするから細工した分だけでいい。今回はまともな細工物だろうな?」

「大丈夫だ。今回は水無様の作は無い。魔力も込めていないが良かったのか?私ではそう込められないが。」

「エリム砦にそこまでサービスしてやる必要も無いしな。大体、ヒマな奴らが居るから魔力などいくらでも詰められるだろう?」

 奥を指す。

「そうだった。見つからないうちに退散しよう。」

「いや、待て。奴らを追い出すから残ってくれ。なに、石に魔力を込めさせたら必ず追い出すから。ヒースではやはり店番にならん。」

「…よくよくこき使ってくれるな、リュヘル。」

「退屈はしないだろう?」

「ああ。面白い。」

「それは重畳。俺は退屈でいたい。幻獣はあんたくらい並の奴が一番だ。」

「…。」

「褒めたんだぞ?」

「分かっている。分かっているが、…もう少し言いようがあるだろう?」

「…いや、無いな。」

 リュヘルは冷淡に言い捨てた。

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