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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
西辞浮雲
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ウィラード商会本店

「へえ、東方の酒は変わった味がするっすねー。」

 店先ですっかり寛いで商売物の酒甕から勝手に盃へ移しては干す。

 その盃も、売り物だ。

「あのう。困りますー。」

 店番の獣人娘が恐る恐る注意しようとすると、取り巻きがざっと動く。

「ひっ!」

「その人はいいから好きにさせておけ。」

 奥から出てきた男が手を振って取り巻きと娘を散らす。

「番頭さん!いいんですか?本当に。」

「昨日割った壺代と今日の飲み代、盃一つでしめて金貨十枚。」

「ケチな事言わないで下さいっすよー。」

「ケチだと?うろうろと日参しやがって。他の客が寄り付かん。」

 自分もどかりと座り、同じように売り物の盃で売り物の酒を飲み出す。

 番頭と呼ばれた男はウィラードの留守を預かるリュヘル。冷酷と渾名されていたエリム砦の武将で、剣豪を数多排出する武術国家サーリフの貴族様だ。

 一方、護衛を引き連れた客。

 こちらもエリム砦の武将。今では総司令となり、常態ミルガルムを配下においている。ただし二つ名は軽薄殿下。

 渾名通りエリム砦を領域に持つ都市国家リデルの王位継承者だ。

 本来ならどこぞの城の晩餐で顔を合わせているべき身分の御仁達だが、今は大店とはいえ商家の軒先に座り手酌で酒盛りである。

「こんな所で油売りとは暇そうだな。」

「人を行商人みたく言わないで下さいよー。暇なわけないじゃないっすか。今回だって表口さんとの折衝で駆り出されたんすよー。」

 ブライデルとの表口、暁街道起点の商都イズールと、裏口、一夜街道起点のエリム砦の課税折衝である。

「お前にそんな腹芸が出来るのか?」

 リュヘルが胡乱な目で言う。

「ちょーめんどくさいっす。ウィラードさんはいつ戻って来ますかね?リュヘルさん、そろそろこっちも手伝って下さいよー。」

 待ってましたとばかりにジャムスが身を乗り出し、懇願する。

「面倒くさいんだろう?絶対断る。」

 リュヘルはにべもない。

「そんな事を言わないで頼みますよー。あ、姐さん、何かツマミないっすか?」

「残飯でも出してやれ。おい、そこの奴らも座れ。でかい図体が目障りだ。」

「ああ、いいよ。言う通りにそちらで座って待っていてくれ。これでも大分間引いて来たんっすけどねー。」

「昨日の行列は酷かったな。」

「リュヘルさんも酷かったっすよー。壺一つ落としただけで蹴り出すんですもん。まあ、例によって身辺キナ臭くって、あ、どうも。こりゃあご馳走、ではなくて本当に残飯っすねー。」

「毒味が必要か?」

「大丈夫っす。ここまで手が回ってたら諦めるっす。」

 へらへらとした軽薄な物言いと態度だが、王位継承に問題を抱えたリデルの王宮で長らく暗殺の手をかいくぐり、失脚も幽閉の憂目にも合わず生きながらえて来ただけの事はある。

「で、用はなんだ。表で話せる事なのか?」

「別に用という程の事でもないっすよ。たまたま、イズールに居たんで覗きに来ただけっす。」

「何を、覗きに来たんだ?」

 リュヘルが襟を正す。

 軽薄は素だが、暇が無いというのも身辺キナ臭いというのも本当の事だろう。

 そんな中、わざわざ壺やら酒やらの為には来る筈がない。

 別に卑下する訳ではないが、リュヘルの手を借りたいと言ってきたのも序での話だろう。

 一体、何を覗きに来たのか。

「非道の旦那からちょっとした物を買ってるんですけどねー、」

「ブライデルの情報か。」

「話が早いっすね。ぶっちゃけ、それっす。で、いよいよウィラードさんが動くみたいっす。」

「…。」

「なんだ、ちゃんと情報来てるんっすね。じゃあ、何とか聞かないで下さいよー。ここにはきっと立ち寄るでしょう?アレは今、何にも紐付いて無いっすよね。リュヘルさんがダメならアレを譲ってくれませんかね。」

「アレが何だか知らんが、店に無けりゃ、無い。それを食ってさっさと帰れ。」

 しっしと手を払う。

「そりゃないっすよー。随分ナーダルさんに名前を使われたんっすよ?賄賂の一つも無いのにこの商会の後ろ盾をさせられて。」

 喋りながら無作法に残飯をかっこみ酒で流し込む。

 他国貴族との会食を毒味させる訳にもいかず朝から啄ばむ程度しか食べていない。

「そういや支払いもないのに、砦へ酒やら食い物やら届けさせられたな。」

「またまた。返品しづらい生ものばかり届けてきておいて恩を着せないで下さいよ。」

 どっちもどっちだ。

「御大はどうしてる?」

「しょっ中爆発してるっす。」

「お前の配下じゃ、そうだろうな。あの人もよくよく運がない。」

「そうですかね?斬首のところを助命されて、奴隷落ちどころかまだ将の位ですよ?充分だと思いますけどね?」

「そりゃあ、殿下が、」

 ぐい、と盃をあける。

「采配なさったからだろうが。」

「ま、そりゃそうなんすが。だって、ミルガルムさんには残って貰わないとオレ一人で働くんすよ?姐さん、茶を下さい。あと、お代わり。」

 厚かましくも所在無げに控えている獣人娘に声をかける。

「全く。ナーダルさんは金塊積んで来るし、サーリフは外からも中からも殺気立つし。ベルドさんの剣魄見せられたらちょっとリュヘルさんの首は飛ばせないっしょ?」

「まあ、一応俺が主筋だからなあ。」

「何がエリム砦で冷や飯食いですか。まだサーリフからは復位嘆願が届いてますよ。それこそこんな所で油売りしていないで国に戻ったらどうっすか?」

「それでリデルのお前の懐剣か?冗談じゃない。飯食ったら帰れよ。」

「みんなオレに厳しいっすー。せめて、直接本人に会わせてくれませんかねえ?」

「知らん知らん。アレだかソレだか知らんが、諦めろ。」

「ふうん。あ、どーも。また残飯のお代わりだ。」

 嬉しそうにかっこむ。

 何を出したんだとリュヘルが覗くと焼きたての卵に炙ったハムも載っている。庶民の飯では充分ご馳走だ。

「あー、旨かった。まあ、そう警戒しないで砦を通る時は酒でも出すから寄るよう伝えて下さい。」

「酒は飲めないだろう。まだ子どもだ。」

「あれ?まだ本当に到着してないんすね。もう随分青年の姿だと聞いてますよ。なんだ、無駄足か。」

「どこまで間者を潜らせているんだ。」

「見直しました?オレの事。リュヘルさんもいつでも歓迎しますからねー。じゃあ、ご馳走様!」

「金貨十一枚。」

「一枚増えてませんか?」

「飯のお代わり分だ。」

「すっかり商売人っすね。手持ちが無いんでリデルにつけといて下さい。」

 しれっと食い逃げ態勢の殿下を苦笑して追い出す。

「土産。持っていけ。」

「随分軽いっすねー。」

「獣人の森の薬草、毒消しだ。阿呆が死ぬのは構わんが、こっちに尻拭いが来るのは迷惑。」

「またまた。素直に可愛い後輩が心配だと言って下さいよー。」

「俺の媚はな、高いぞ?」

「退散します。御大に言伝ありますか?」

「…壊した物の補充は是非ウィラード商会に御用命を。」

 ニタリ、と揉み手を添える。

 ジャムスは逃げた。

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