街道を行かない
暁街道。
それは、ブライデル帝国内の最主要街道である。
宿場町も水場も充分に整備されており、徒歩の旅でも日に二回は通り抜ける。
よほど事情がなければ街道脇で野宿をするような物好きはいない。
「もういい加減、宿で休みたいよ!皆んなしっかり歩こうよ。」
「ハルにだけは、言われたくない。」
悔しそうにシロが言う。
健脚自慢だったのに体力不足は回復魔法で補えず未だ半日歩き通すのがせいぜいであった。
コウとユア、二人の神人に至ってはヒースにべったり張り付くか冬眠しているかのどちらかで全く歩く気は無いようだ。
無理からぬ事、ではあった。
長すぎる幽閉の間に萎えた足はシロの回復魔法をもってしても立つのもやっとの有り様であった。
齢千を超えている筈の二人だが、形はハルよりも更に幼い。
不思議に思ってハルが尋ねたら二人は何がおかしいのだがケラケラ笑った。
「身喰いしたからねー。」
「お腹すいてねー。」
「本当はヨンちゃんよりお兄ちゃんなんだよ?」
「うんうん、ムイちゃんよりお姉ちゃんなんだよー。」
「お腹空いたねー。」
「ヒーちゃん、食べさせてー。」
「喰わせてー。」
ヒースが思わず蓮の背に隠れるが人選ミスである。
溢れる魔力を使われるぐらいなら構わないが、よほど飢えていたのかぐいぐい魔力を奪ってくる。
蓮が睨むと止めるのだが、油断するとまたつままれる。
神人達は素知らぬ振りだ。
子ども相手に怒鳴りつけるのも大人気ないと我慢をしていたが、そろそろ限界である。
ヒースを双子に突き出しながら、
「身喰い出来るのならそこの神人達から分けてもらいなさい。次、私のを吸い取ったら。」
「怒る?」
「泣く?」
「帰ります!」
ハルに対してもだが、基本子どもに甘い。
そんなやり取りを聞いてヒースの震えは止まらない。
「わーい、ヒーちゃん美味しそう!」
「まだ怖い?何にもしないよう。ちょっと食べるだけだよ。」
「は、は、ハルさん、助けて!」
腰を抜かしたままハルに手を伸ばす。
「あ、だめ、今触られたら、俺もう我慢が、うふん。」
「ハル。遊んでないで薪を集めて来てよ。それに君は満腹の筈だよ?あんなにベタベタ触ってきて気づいていないとでも思っていた?」
「な、なんの事かなー?薪を探してくるわ。」
「蓮さんもですよ。双子さんにお説教なさっていらっしゃいますが、貴方も僕をつまみ食いなさっていたでしょう。」
「…。」
「牌を混ぜる時に人の手を触りすぎです。」
「…薪を集めてくる。」
蓮だけでなく神人達もそわそわと薪集めに行ってしまった。
今夜は巨大なキャンプファイアが出来そうだ。
背後でヒースの悲鳴が上がった。
見ればついに双子にひっつかれている。
恐怖の感情を喰われて一瞬ほうっとするも、また神人にのしかかられているのに気付き恐怖する。
中々効率の良い自家発電っぷりだ。
やれやれ、とヒースの上から双子を抱き上げる。
「だめですよ。ヒースさん、嫌がっていらっしゃるじゃないですか。」
「邪魔、するの?」
「喰わせてくれない、の?」
ぞわっと魔の気配。
「ひぃぃぃ。」
腰が抜けたまま、ヒースが剣を抜く。
薪を拾いに行った先からは双子とシロを注視する視線。
「シロ、相手は子どもだぞー!」
ハルに言われて苦笑する。
「こちらは大丈夫ですから薪を早く集めて下さい!」
幻獣達に叫んで返す。
「ヒースさんも剣を仕舞って下さい。コウさんユアさん、僕なら食べてもいいですよ。だからヒースさんにはちゃんと謝りましょうね?」
「なんでー?」
「食べただけだよ?」
「泣くほど怖がらせていますよ?嫌われてもいいんですか?」
双子は少し考えてから、
「うん、やだ。」
と、コウ。
「ヒーちゃん、泣くと美味しいのに、だめ?」
と、諦め悪くユア。上目遣いが確信犯だ。
「だめです。全く、一体何を彼にしてきたんですか。ヒースさん、立てますか?剣を仕舞って下さい。蓮さんがキレかかっています。」
子ども神人に剣を向けるとは何事だと、すっかり魔族オーラを纏っている。
コウやユアの可愛らしい魔と違い、流石にシロも落ち着かない。
昼間ヨンが手慰みに射った鳥を捌き火で炙る。
「狩は得意なのだが、この辺りには獣が全くいない。」
「これだけの往来ですからね。物見遊山で街道を来ましたが、どうせ野宿が続くのならそろそろ道を外れましょうか。」
「うへぇ。この上ブッシュウォーキング?勘弁してよ。」
大して歩いてもいないのに、シロに湯を張らせて足湯をしているハルが文句を言う。
「大丈夫。流石にまだ僕も無理だしね。飛んで行くよ。忘れてる?僕のチート魔術。」
「おう、そうか。ん?待て待て?ハウンゼル出る時にさ、」
「うん。」
「『轟、と、倒壊する塔を稲光が照らす。その中からカッコいい剣を携えた一人の魔術師が舞い上がった。集まってきた兵達の持つ剣が、稲妻を受けて煌めく。だが、空を征く男には届かず。雷雨の中を悠々と彼は彼方へと飛んでいくのだった。』でも、良かったって事?これなら幻獣が関わっているのバレなくない?」
「なんか一部描写がおかしいね。」
「シロさんや?」
「出来なくはなかったけど。絶体絶命のピンチを助けられた、って顔しとけとハルが言ったんだよ?」
「それ、絶対ウーさんとヒーさんには言うな?」
ヒースは肩を落とした。
「聞いてますから。ここに俺、いますし。」
「あー。シロもヒーちゃん泣かしてるー。」
「ヒーちゃんいじめる奴は許さないけどありがとう?おーいーしーそう。本当に、食べちゃ駄目?」
「ひぃぃぃっ。」
夜はかしましく更けてゆく―――。




