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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
西辞浮雲
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シロンとの決別

 黙々と歩く青年一人。

 随分と軽装で、腰に一振りの剣を帯びただけだ。

 時折追い越したりすれ違ったりする旅人が、まるで追い剥ぎにでも遭ったかの如く手ぶらで歩く美貌の青年を心配し、同行したらいいと声をかけてくるのへ丁重に断りを入れる。

 向こうから来る者へは、

「すれ違われたかと思いますが、先に仲間がおりますので。」

 後ろから追い抜かす者へは、

「先に出立いたしましたが、後から仲間が参りますので。」

 そうして、にこりと微笑み。

「ご心配を頂いてありがとうございます。そちら様もどうぞご安全な旅を!」

 爽やかに手を振る。

「この、リア充め。」

 腰の剣がぱしんとシロンの腿をはたく。

「そう言うならハルも歩こうよ。」

「やだ。歩き疲れた。お前の足に合わせんの大変なんだよ!」

「そう?栄養状態が良くなかったから、余り背は伸びてないけど。見て、この華奢な腕。」

 色白で細っそりした、だが中性的な蓮とは違って、やはり男の骨ばった手だ。

「腕立て伏せは一応していたんだけどね。コーカさん、重かったあ。」

「お前っなんつー死亡フラグを!どっかから飛んで来ないか?あの人。」

「大丈夫でしょ?今頃ウィラードさんとリア充爆発してるよ。」

「だなー。お、また来た。」

 昼の街道はそこそこ往来がある。

 またハルは沈黙し、シロンは声かけに挨拶を交わす。

 今のところ追っ手もなく、長閑な道行だ。

「…やっぱり僕がいけなかったんだろうな。」

「何?」

 つい口をついて出たらしいシロンの独り言を聞き流せず、ハルは問う。

「そもそもの発端は現皇帝と辺境伯の不和にあったんだ。他伯に較べて辺境伯領を冷遇している自覚があったんだろうね。恨まれる覚えも。」

 滔々とシロンが語り出す。

 親伯爵の事を辺境伯と呼ぶのを聞いて、ハルの胸は痛む。結局、シロンの口から家名を聞く事は一度も無かった。

「エリム砦の獣人との手打ちにジャムス殿下が絡んだせいでイズーリア本国が出てきただろう。」

「うん。」

「獣人と幻獣を介してイズーリアと辺境伯が手を組んだと疑われたんだ。辺境伯としては濡れ衣もいいところだけどね、潔白を証だてしなければ反逆罪で爵位返上どころか一族郎党処刑の瀬戸際。実際、僕が引き渡されるまで次期伯が人質として拘束されていたくらいブライデル帝の危機感は相当なものだったよ。」

「そうか。」

「元凶だと僕の身柄を差し出された後もかなり辺境伯を疑っていて。独断で交易路を作っただけだと言う僕の言葉を最初は全く信じてくれなくてね。大分、本当の事を言えと痛めつけられた。」

「大変、だったな。」

「うん。宮廷魔術師総がかりで隷属紋をかけられて、魔術も封じられてしまったし。おかげで逃げ出す事も出来なかったよ。その後はハウンゼル公領に身柄をうつされて、魔鉱石作りの為にずっと投獄されていたのは知っての通り。」

「…でも、お前は悪く無いだろ。」

「身体が成長したら力も上がってね。幻獣、神人だっけ?あの人達を千年閉じ込めた牢を、僕は多分破れた。この国の錚々たる魔術師達がかけた魔術封じも、あっさり解けた。…僕は、何なんだろうね?」

 そう言って、沈黙する。

「アホな事言うな。別にお前は悪く無いし、ただの人間だ。それとも不老不死のイケメンか?」

 明るくハルが返してくる。

「なあ、次は何をしようか?獣人奴隷はさ、モナ達ルルリンやヌコの黒猫隊の活躍で随分と立場が良くなってきているんだよ。そりゃあ、直ぐに全員自由民って訳にも、差別が無くなる訳でもないだろうけどさ。流れが出来たのは感じるよ。エリム砦の紛争も、今じゃカリオンさんとナーさんとリュヘルさんがウーさんの下で一緒に働くくらい昔の話になっているし。…シロ?」

「うん。」

「何が、したい?」

 問われても。

 あの狭い牢で何を切望していたのだったか。

「…ハルは?」

 気を盛り上げようと話しかけてくるハルを無下にもできず、問い返す。

「えー?俺はルルリン256のプロデュースとかやっちゃったしなあ。」

 どやあ、とばかりにハルが言う。

「え、そんなに?」

 思わず呟いた言葉にハルが食いつく。

「花組とか月組とかに分けて。えーと、花鳥風月猪鹿蝶雪星宙。しめて十組。」

「節操無いなあ。」

「楽しもうぜ?一度きりの人生だ。あ、一度じゃないかー。」

「そう、だね。…うん。決めた!やりたい事。」

「おう。何だ?」

「ぴんぴんころりの大往生。」

 ぱしん、とハルが腰で跳ねる。

「老人かっ!」

「不老不死じゃないからねえ。」

「イケメンは否定しないんだな。」

「鏡見たことあるし?」

「…うぬぬ。」

 シロンは顔を上げて、颯爽と歩いてゆく。

 宮廷魔術師長に顔を潰された時に辺境伯子息シロンの存在は消されたのだ。

 ここにいるのはただのシロン、いや、シロ。

「やっぱり独り歩きは寂しいな。ハル、頼むよ。」

「仕方ないなあ。変っし、」

「歌でも歌ってくれない?」

「…言ったな?後悔すんなよ?アニソン特ソンメドレーいっちゃうぞー。」

 独り、ではない。

 帝都へ戻って行ったウィラードとの再会があるかは判らぬ。だが、あの男の事だ。何かしら仲間達にシロン、いや、シロの手助けを頼むだろう。

 ハルはきっとシロの生ある限り、付いてきそうだ。おそらく長命種の彼を残して逝く事になるが、同じ幻獣の仲間も出来ているみたいで哀しませこそすれ、闇堕ちさせる不安は無い。

 結局、ヒースにも全て捨てさせて連れ出してしまった。

 気の良い男に同じ虜囚の神人達の方がより懐いて手放してくれず、今もハルの異空間で相手をさせられている。

 大往生までは、まだまだ時間がある。

 ゆっくり世界を見て周りながら、何を成せるか考えよう。

 敬愛すべき人々の住まうこの世界に、シロというただの男の出来る事を。

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