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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
西辞浮雲
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竜殺し、大地に立つ

「り、龍だ!」

 見張り番をしていたヒースの叫び声に驚愕の反応を返してきたのはウィラードただ一人であった。

 それも、意味合いが少し違う。

「じ、嬢ちゃん。何故ここに?!」

「うわぁ、竜型でも判るんだー。愛だね!」

「愛だねー。」

 ヒースに貼り付いて見張り番をしていた元虜囚の神人達が冷やかす。

「何ごとじゃ。騒がしうて寝ておられんわ。」

「何だ?煌華か、何をしに来た?」

 ハッタと蓮がもっそり起き上がる。他は任せたとばかりに二度寝に戻ってしまう。

「よくも、私を置いて行ったわね!」

 竜型を解いて人型になるのを慌ててウィラードが自分の外套で包む。

「いや、でもな。危険な旅で、」

「あそこに残る方がよっぽど危険よ!彼奴め、」

 ウィラードの顔色が変わる。

「ナーダルに何かされたのかっ?」

 こくり、と涙を浮かべて煌華が頷く。

「酷いのよ!朝御飯も昼御飯も夕御飯も、」

「食わせて貰えなかったのか?!」

 彼奴め、とウィラードは煌華を胸に抱き拳を握りしめる。

「おやつも夜食も、」

「う、うん?」

「好物ばかりなの!」

 はらはらと落涙。

「…はあ。で?」

「追いかける決心がつくのに今までかかったわ!それに、」

 きっ、と煌華が眦を釣り上げる。

「まだ、何か?」

「太ったのよっ。許せない!」

 ハッタと蓮が顔を見合わせる。

「寝るかの。」

「ウィラード、騒がしいからあっちでやってくれ。」

「あー。はい、すんません。」


 明けて翌朝。

 当たり前のようにシロンは魔術で桶に湯を満たして顔を洗い、髭を剃る。

 年頃男子としては、どうにも仕方無い境遇であったとはいえ、ハルに臭いだのむさ苦しいだの言われたのが地味に尾を引いていた。

 ハウンゼルを出るまでに、ハルの異空間で勝手に風呂を作り身を清めたがあの残り湯はどうしたものか。ちょっと洗濯には使い回せそうにもない汚水となったまま、異空間に放置してある。

「あ痛、」

 くだらぬ事を考えていたら、剃り負けてしまった。

「お教えしましょうか?」

 声をかけられて、苦笑する。

 そういえば、小刀で髭を剃るなんてシロキオンの時以来だ。

「覚えているもんだな。」

 思わず素で呟いてから、にこりとシロンに気持ちを切り替えてウィラードに向き直る。

「おはようございます。爽やかな朝、でもなさそうですね。大丈夫ですか?」

 憔悴しきっている。

 元凶は向こうでツヤツヤと髪を梳かしている煌華だろう。

 いい歳なのに、この男は何をもたついているのか。全く世話がやける。

 勿論、もたつかせた原因が自分であると承知した上での感想だ。

 ウィラードがなんとも言えない顔でシロンを眺め続けるので、今度は慎重に髭を剃り終え伸びた髪を梳いて縛る。隷属紋も既に消しており、虜囚の名残は日に当たらず過ごしたゆえの透けるような白い肌とこの長く伸びた髪だけである。

 ハッタ程の神々しさこそ無いが、艶とした美青年がそこに居た。

「見世物じゃ無いんですけどね。」

 どうせ梳かし髪を見るなら彼女を見てやれば良いのに、と意地悪く付けて加える。

「…早くお救い出来ず、申し訳ありませんでした。」

「それは何度も聞いたよ。貴方の所為ではないから、もう、」

「すっかり擦れてしまわれて。」

 嫌味ではなく本気で申し訳ながっているウィラードの言葉に、聞き耳を立てていたハルが爆笑する。

 笑い声に釣られて煌華が寄ってきた。

 シロンを見て臨戦態勢に入る。

「誰、こいつ?」

 ウィラードを取られてなるものか、誰から見ても判るそんな態度だ。

「お久しぶりです、コーカさん。その節は領民を逃して頂いたそうで、ありがとうございました。」

 ぐっ、と近づいて煌華の両手を取る。

 ぴくり、とウィラードの眉が動く。

「本当に、全ては貴女のおかげです。何とお礼を申し上げたらよいか。」

 煌華がつい身を引いたのに合わせて、更にもう一足詰め寄る。

 少しよろめいたのを好機とばかりに、お姫様抱っこで抱き上げて。

「僕をお忘れですか?僕はシロンです。貴女の事はひと時も忘れた事などなかったのに。」

 ハルが笑い死にかけているが、ウィラードは茶番と分かっていても笑えない。

「シロン様、嬢ちゃんが本気にします。」

「僕は本気だよ。」

「あー、女っ気が欲しかったら次の街で探しましょう。」

「彼女がいい。」

「あ、いや、でも。嬢ちゃんが嫌がってます。」

「そう?何で判るの?僕のトラウマは相当美味しいと思いますよ?如何でしょうコーカさん。」

 煌華がどうしましょう、とばかりにシロンとウィラードを見比べるのを見てしまい、ウィラードが肩を落とす。

 そうだよな、しょぼくれたおっさんよりピチピチのイケメンの方がいいに決まってる。ましてや相手はシロン様だ。はー。

「ご本気と仰るなら、まあ、シロン様なら無体なこともなさらないでしょうし。そんな小娘の何処を気に入られたのか理解し難いですが、嬢ちゃんが嫌でないのならば俺は、」

「ウーさん、土下座!」

 反射的に座り込む。

「ファイヤーっ!」


 反省小僧三人。

「調子に乗って揶揄ってごめんなさい。もうしません。」

 と、シロン。

「楽しく爆笑してごめんなさい。何で俺まで?」

 と、ハル。

「あー。小娘と言って、痛。」

「痛っ。ウーさん、それじゃないよー。連帯責任なんだからさっさと謝って!」

 煌華が飛ばしてきた電撃がはじける。

「俺が何をしたと?」

「うわぁ、本気で言ってる?それ。」

「もう。僕が身体を張った意味が無いよ?」

「…余計な世話は要らないです。本当に擦れっからしになってしまわれて、ご苦労されたんですなあシロン様。」

「呑気な事を言ってるなら本気で口説き落とそうかな。可愛いね、コーカさん。」

「うん、可愛いツンデレ。」

「あんたらなあ。大人を揶揄うのもいい加減に、」

 言いかけてシロンの姿に目を止める。

「もう僕は子どもではありませんよ、ウィラードさん。」

「俺もな!」

「え、ハルは子どもだよね。」

「見た目は子ども、中身は…なんだろ?うーん。」

「はあー。」

 盛大にため息をつくとウィラードは立ち上がって脛の土埃を払った。

 きっと眦を吊り上げる煌華の頭をぽんぽんと優しく叩く。

「シロン様、俺は煌華とブライデルに戻ります。いいですか、もうヘマはなさらないで下さいよ?」

「気をつけます。」

「飯もちゃんと食って下さい?俺の背を抜けていないじゃないですか。」

「歯も磨きます。」

「宿題もやるよ!」

「それと、」

「オトーサン!」

 ハルに言われてはあーっともう一度ため息をついてから、煌華に向き直る。

「シロン様にかまけていて悪かった。」

「その名前、聞きたくない。」

「待たせて悪かった。」

「短命種のくせに、待たせすぎ。」

「そうだなあ。直ぐにじいさんだ。だけどもう、離さんぞ。」

 周りからやんややんやの歓声が上がる。

 いつの間にやら全員集合だ。

「ちょ、外野はあっちに行って下さいよ。全く皆んな暇なんだから。」

「自惚れないでよね!よぼよぼのあんたの側になんか居てやらないんだから。」

「そうだな。だが、今は、」

 ウィラードが煌華を抱き上げる。シロンがしたお姫様抱っこだ。結構、重い。

「無理すんな?おっさん。」

「余計な、世話だ。」

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