↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/151

救出作戦

「相変わらずここは陰気だな。」

 ハウンゼルの牢番詰所に戻り、ヒースはそっと額の汗を拭った。

 外は木枯らしが吹いているのだが、緊張からか暑さすら感じる。

「おう、お帰り。ブライデルはどうだった?」

「まあ、凄かった。」

 色々な、意味で。

 つい、腹を押さえてしまう。

「生ルルリンは可愛かったか?」

「え?ああ、うん。可愛かったよ。」

 一瞬見た招き猫娘も確かルルリンの一人だと聞いた筈だ。

「いいなぁ。そうかー。あんな、招待状を受け取るなんて、お前一体幾ら注ぎ込んでるんだよ!」

「割と、全部、かな。」

 人生の、だ。

「そうかー。全部かー。うーん。独り身はそれが出来ちゃうかー。」

 悩ましげな同僚に、ヒースは苦笑する。

「こっちは変わりなかったかい?」

「変わらずだ。トンさんは遂に明かりとりまで登りきったぞ。他の二匹は冬眠に入るのか動かなくなってきた。」

「そうか。外も今日は風が冷たいよ。さて、交代しよう。雲も出ていたし、雨が落ちる前に帰った方がいい。」

「おお、そうするわ。また今度非番の時にゆっくりルルリンの話を聞かせてくれ。」

「おう。またな。」

 同僚を見送り、安堵の息を吐く。

 城門も詰所前の検問も、無事通過出来た。

 あとは、朝まで邪魔は入らない筈だ。

「行こう。」

 誰も居ない部屋でヒースが呟いく。

「行って。びっくり大作戦。」

 腰の剣がもぞ、と返事を返す。

 見た目不気味な妖剣の柄を粘土で覆ってみたり削ってみたり、なんとか普通の剣に見せかけて持ち込んで来た。

 駄剣、ハルである。

 見た目よりも、時折喋ろうとするのに一番はらはらさせられた。



「と、言うわけでこの人の身体に賢者の石が隠されている。これを使って、シロを逃がせと言う事だよね?」

 と言うわけで、の前が随分と長かった。

 商会主館の玄関で倒れたハルだが、居間に運ばれて気付に酒を渡されるとコスパがいいとか呟いてわざわざ幻獣に戻り一気に飲む。

 子ども姿だったので今まで誰も勧めなかったがどうやらいける口らしく、まだ気付が必要とかぶつぶつ言いながら結局三杯飲み干した。

 結果、ほろ酔いで冗舌も絶好調の長語りに入る。

 ヒースという人物の紹介、ヒースから聞き出したシロンの状況、男爵邸で起きた諸々。

 ウィラードにはほぼ初耳な話ではあったのだが、それにハルの主観やら幻獣達の自由な質問やらが混じり、とにかく長かった。

 元々体調が万全とは言えないウィラードとヒースは更にげっそりと椅子に倒れ込んでいる。

「で、みんなはどうする?俺はシロを助けに行くよ。」

 ほっておくと今すぐ出発しかねない。

 無論、シロンの消息を聞いた今、直ぐにでも助けに行きたいのはウィラードも同じである。

「勿論行くつもりだが、下手に動いて足手まといになっては本末転倒だ。ヒースさん、その賢者の石は必ずシロン様に届けられるのだろうな?」

「看守、といっても彼処は普通の牢ではないので仕事といえば飯の運搬係みたいなもので。ハウンゼルに戻れば、いくらでも機会はあります。俺の身体が保てば、ですが。これ、結構ずっしり重いんですが、大丈夫なんですかね?」

「大丈夫じゃないと思うよ。大き目の石三つ詰め込んだから、飯も食えないんじゃないかな。」

「ちょっと思い出させないでよ、ナーさん。」

 ハルが慌てて四杯目を注ぎ出す。

「こら、秘蔵の酒をガブガブ飲むな。で、シロン様は魔力を取られて魔術が使えない、でしたな?では、その腹の石でどれほどの魔術が使えるんでしょうか?」

「さあ、俺に聞かれても。」

「嬢ちゃん、判るか?」

「…。」

 無視。

 ちなみに、帰宅したウィラードが煌華に掛けた第一声がこれである。

 とりあえず煌華の機嫌とりはスルーしておくが後を考えると頭が痛い、大失態だ。

「あー、蓮さんなら判りますか?」

「さっきハルが話していただろう。黒衣の魔術師とやらが石一つで部分欠損も回復させたと。一夜街道を作った程の大技は出来ないだろうが牢を破るくらいは容易いのではないか?」

「どうじゃ、ムイ?」

「判りかねます。ハッタ様から見れば我々も龍も原住民も同じ『人』なのでしょうが、我々からすると、彼らは異質すぎます。それよりも、不思議に思うのですが。」

 ムイが言葉を切ると、隣でヨンも頷く。

「何ですか?」

「幻獣がついていってやれば済む事だろう?」

「あ、」

 余計な事を、と蓮が睨む。

「どういう事ですか?」

「魔力の源は、彼ら幻獣だ。…何故そう睨む?」

「ひとの秘密をぺらぺらと、よくも。水無ですら黙っていた我らの、」

「禁則事項です?」

 くすくすと、ハル。

「笑い事では済まないようだが?」

 ベルドとカリオンが蓮の殺気に剣を抜く。

「双方収めて下さい。さっきの質問は撤回します。蓮さん、ハッタさん。」

「余は何もしておらんぞ。抜き身の剣を構えておるのはお主の手飼いじゃが?」

「そう、なんですが。いや、でも何かしようとしてましたよね?」

「濡れ衣じゃ。」

 涼しい顔でハッタが言う。

「…焔が尻尾を巻いて戻ってきたのを不思議に思っていたが。煌華、お前はなかなか目利きだな。」

「ふん。」

 まだウィラードを許す気は無いようだが、蓮に褒められて煌華が嬉しそうににやけた。

 流石にその顔を見てしまうと、シロン様の件が済んだらそろそろ腹をくくるかとウィラードはため息をつく。

「ええと、何の話だったか。」

「幻獣を連れて行けば石要らず。」

 ナーダルが、聞かなかった事に、をぶち壊す。

「いえ、あそこは幻獣の力も吸い取ります。それにそもそも連れ込めませんし。」

「外から破壊じゃ、駄目なのか?」

「そこに幻獣が居るのか?」

「ええと、」

 ナーダルとヨンから聞かれてヒースが言い淀む。

「外から、壊す?簡単だわ、そうしましょう。」

 機嫌良く、煌華が張り切る。

「ちょっと、シロを生き埋めにしないでよ?」

「その、魔力を吸い出す所だけでも破壊すれば?」

「牢塔が崩れます。ちょっと俺では外から何処にシロン様が居るかなどは分からないし。ええと、他の幻獣、も連れ出しますか?」

「やはり居るか。」

「はあ。二ひ、いえ、お二人。ガメラ種が。」

 際奥に繋がれている幻獣を思い出して、身震いする。

 飯碗を運ぶ度に手首をわしと掴んできて何をするでもなく数瞬で離しはするのだが、その間、にまあとヒースを眺めては舌舐めずりをしている。

 まだ年若い見習い兵だった頃に恐ろしさのあまり気絶してしまった事があったのだが、以来ずっと気に入られてしまったようで、時折話しかけてきたりもするが、とにかく怖いのですぐ逃げ帰るようにしている。

 出来るなら、閉じ込めたままにしておいて欲しい。


 結局。

「へーんしーんっ!」

 ハルが調子良く駄剣モードに変身する。

「これで、俺も連れて行って!」

 抜き身のままぴょんぴょん跳ねる。

「な、なんですか?!」

「まあ、驚くわな。どうです?持ち込めそうですか?」

「幻獣はそんな事も、」

「出来ません。」

「出来ぬな。というより、あやつはあれが本体じゃろうな。魂とブレが無くなった。」

「はあ。…剣、なら持ち込めるとは思いますが…ちょっとコレは、業物過ぎます。」

 見た目だけ妖剣。兵が持つには過剰な装飾なのを、

「やーめーてー。あーれー。お婿に行けなくなるー。」

 木屑を混ぜた泥で覆い隠し、はみ出たところはナーダルが容赦なく削りおとす。

「痛い!お肌が、玉のお肌がー。てか、待って待って。俺が異空間収納していけば、石も人も連れ込み放題じゃん!」

「……これ、要らなかったですか?」

 ヒースが腹を指す。

「えーと、非常用?」

 目の前が真っ暗になった。



「そうだ。他の方達を出さないんですか?」

「今変身したら、お化粧とれちゃうじゃん。シロにすぐ俺だってばれるもん。このまま行こうぜ。」

「じゃあ。」

 ヒースはハルを握りしめて駆け出した。

 さあ、シロンが待っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。