自由への遁走
「シロがいない!いないじゃないかよおっっ。」
空の牢獄を見て、ハルが絶叫する。
「ハルさん、落ち着いて。」
止める間もなく、鞘から抜け出て牢に入り込む。
「ハル?!どいてっ。」
驚いて手を滑らしたシロンが上から降って来た。
「ちょっと、ハルテシオで串刺しとかもう嫌なんだけど。ひとんちに来るなら鞘ぐらい着てきたら?」
「お前、シロなのか?」
ハルが青年になったシロンを見上げる。
「そうだよ。久しぶり。何か君も変な格好をしているねえ。」
そっと駄剣を取り上げて、粘土を毟り取る。
「ただいま、トンさん。遂に明り採りまで登れるようになったんだって?外は見えた?」
「おかえりなさい、ヒースさん。残念ながら壁が厚くてあまり見えなかったよ。帝都はどうだった?この様子だと随分とご苦労をかけたんじゃない?」
「まあ、何というか。ハルさん、何がびっくり大作戦だよ。自分が驚いてどうするのさ。ほら、さっさと変身して?土産を出そうよ。」
「ラジャー!だーい、変っ身っ!」
剣からの春人バージョン、ただし素っ裸。
「また懐かしい姿だねえ。変身というか、変質者?」
「そういう突っ込みするなら帰るぞ!あ、待ってムイさん。出てくる前に服を取ってー。」
狭い牢の中に人が溢れかえる。
「あのさ、ハル。」
「紹介するね!神人の、」
「うん、でもその前に。僕もその異空間に入れない?で、剣に戻って一緒に連れ出して貰えると嬉しいんだけど。」
「「「!!!」」」
一同、その発想は無かった、という顔だ。
「これ、賢者の石も要らなくね?」
「俺、結構身体張ってるんだけど。」
ヒースがものすごく悲痛な表情で言った。
「私達は仲間を探しに行きたいのだけど。間抜けね。なんで牢の中に私達を出すのよ。これじゃあ、」
「壊すしか無いな。」
「待って、」
止める間など無く、牢の中から外へ、つまりはヒースに向かって破壊の魔術がぶち込まれる。
「石一つで、こんな程度か。大した事ないですね。」
爽やかに蓮が言う。
「おーい、ヒースさん?生きてるかい?」
「な、なんとか。それより、今の音は流石に外まで聞こえましたよ?兵が来る前に逃げましょう!」
「囚われの幻獣の所へ案内しろ!」
「お、俺がですか?」
「お主以外に誰が案内できるのじゃ?」
「はあ、それは、そうですが。こちらです。…冬眠中って起こして良かったんだっけ…。」
ヨンに引っ立てられてヒースが幻獣達を先導する。
「ハル、僕にも賢者の石ある?」
「あー。蓮さんが全部持ってる。」
「そう。じゃあ、はぐれないようにしないと。おっと、忘れ物。」
シロンが隠し持っていた賢者の石を握る。
「何それ、賢者の石?」
「うん。」
「…お前、もしかして独りで逃げ出せた?」
「これじゃあ壁を破るのが精一杯だよ。」
「でも、表に出たら無双だよな?」
「え。いや、でもね?壁の向こうが屋外とは限らないし、そもそも魔力が溜まったのだって最近だし。だから、助けに来てくれて嬉しかったよ?」
ハルはぽりぽり頭をかく。
「あのさー、シロさんよ?」
「何?」
「それ、ヒーさんやウーさんには内緒にしとけよ?詳しくは後でゆっくり話すけど、ほんとあの人達命がけだったからな?絶対絶命の所を助けられたって顔しておけ?」
「昨年の夏には本当にピンチだったんだけどねえ。」
シロンは苦笑する。が、真顔のハルを見てこくと頷いた。
「もちろん今もそこまで余裕がある訳じゃなかったし、救けをずっと待ってもいたよ。それに。君達の無事を知れなかったら、僕はいつまでも此処に居るしかなかった。だから、動いてくれて本当に助かった。ハル、ありがとう。ルルリンの歌なんて良く広めようと考えたね。」
「この人誑しめ。俺じゃなくて、他の奴らな?ほれ、行くぞシロ。走りたかったんだろ!」
「うん。行こうハル!」
「あー、兵が上がって来てる。」
先に走って行ってたシロンが戻って来る。
「まじか。」
「仕方ない。出でよ妖剣ハルテシオ!」
ハルに手を出す。
「え?俺?」
きょとんとハル。
「他に剣ある?」
「無い、けど。でも、ちょ、怖いんだけど、」
「早く!あー、リュシナール持って転生すれば良かった。」
「うぇ?それ、言っちゃう?くそー。俺の本気を見せてやる!駄剣モード!」
「自分で駄剣て言っちゃうんだ。」
笑いながらハルを拾い構える。
「うるへー。間違えたんだよ!」
「ほら来るよ。少し黙って。」
「ば、化け物め!」
ばしっと手刀で一撃、気絶させる。
「ほらー。喋るから化け物扱いだよ?」
「俺に言ったんじゃないと思う…。はー。あと一人?」
「ああ、彼は、」
ヒースと交代して帰った筈の看守である。
「話があるから、服でも着てきて。」
「うぇーい。大丈夫?」
「大丈夫だから。」
脱げた服に向かって剣を投げてやる。
「トンさん、」
「ああ。やっぱり運動不足だ。息が切れた。」
剣を構えたままの男の前で膝に手をつき無防備に首を晒す。
男ははっとしてから、手中の剣をシロンに差し出した。
「アレよりはマシだろう。」
「ありがとう。でもそれより。飴ちゃん持っていませんか?お腹空いた。」
「は、あははは。あるぞ。いつも食い掛けで悪かったな、ああでもしないと持ち込めなくて。ほら、今日は帰りがけだったから…。」
ポケットから沢山の菓子を出してくる。
「あの時は飢えていたから本当に助かりました。うわ、サラミクッキーだ。」
「トンさんに肉を食べさせてやりたくて作った奴。俺、この甘じょっぱいのにはまっちゃってさあ。で、…ヒースが手引きしたんだろ?おかしいと思ったんだ。いきなりルルリンと握手だなんて。あれは仲間との符丁に使ってたんだな。」
「ふふふ。」
と。轟音とともに床が揺れた。
「やりたい放題だな。ハル、あの方達はみんな幻獣?」
「そうそう。神人さん。」
「ヒースさんでは歯止め出来ないか。手を貸して下さい。塔が壊される前にこの方達を連れ出します。」
足元で伸びている偵察の兵達を抱えあげる。
「ハルも手伝って。」
「はー。そういう事は服着る前に言って。へーんしんっ剣からのー。ドラゴン!」
また剣に戻って服から這い出ると、今度はどちらかといえば河馬っぽい竜に変身する。
「背中に積んでー。あ、服持ってきてね。」
「ば、化け物!」
「ほら!やっぱり僕じゃなかった。化けドラ君、頑張って!」
「ううう。くっさいもさもさの髭面なのにイケメンって、チート過ぎるわ!」
「なんか、ごめん?」
「うわー。腹立つ。体臭まで麝香系なんて卑怯だろ。リア充爆発しろ。」
どかーんっ!
塔が揺れた。びしっと壁にひびが入る。
三人は顔を引きつらせて逃げ出した。




