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土産

「お土産あるよー。変身っ!」

 構って貰えて嬉しかったのか、涙目のまま何やらビシッとポーズをつけて、小男になる。

「は…何ですか、アレは?」

 トト屋の番頭ことイサーフが立ち上がる。

「いけね。お客さん居た?」

 変化を見られてハルは首をすくめた。

「あれ、この人なんで居るの?番頭さんだよね?」

「ええと?お目にかかった事がございましたか?」

 こんな変な奴なら絶対に覚えているんだが、と声には出さずとも丸わかりの顔で首を傾げる。

「忙しくてかなわないから、白磁の代わりに貰ってきたよ。」

 イサーフの頭をぺちぺち叩きながらナーダル。

「なっ。まともな商いをしてお父上に認めて頂きたいと、そう仰るからフェーラ様も絆されて私を遣わしたのではないですか。」

 二度と会いたくないと言った翌々日。壺を持って現れたナーダルに、言いくるめられたんだか恐喝脅迫されたんだかで引き抜かれてきた気の毒なイサーフである。

 ナーダルの矛先を半分担当して貰えたウィラードは番頭仕事以上に大変ありがたく、トト屋に返すつもりは無い。

「イサーフさん。これは幻獣奴隷のハルという者です。目を離すと直ぐにサボる仕方のない奴ですが、下働きにこき使ってやって下さい。」

「うぇ?その紹介はあんまりだよ、ウーさん。」

「どこをほっつき歩いていたんですか、あんたは。ひと月前には合流の筈じゃあなかったのか。」

「オトーサン、俺も大変だったんだよ?」

「誰がおとーさんだ、誰が。ベルドの旦那が付いているから大丈夫だとは思ったが。…心配したんだぞ。」

「あ、うん。そうそう、そんなオトーサンに、」

「うっさいわ。」

「じゃじゃーん。お土産でーす。みなさーん、出てきて下さい!」

 異空間を開けると。

「忘れられたかと思ったわ。」

「あと半チャンを繰り返したあげく、煩いって怒鳴ってましたが?」

「…蓮が腹減らして倒れた。ほれ。」

「竜は柔いのう。」

「うぬれ、亀め。」

 本来は青い蒼龍の目が血走っている。どうやら一人負けしたようだ。

 全員が薄汚くもっさりしているのはさておき。

 他の三人も神人と呼ばれるだけあり、その姿はどこか常人ばなれしている。

 多分艶やかな緋色の髪の、多分切れ長の瞳の、多分美人とおぼしき、ぼりぼり腹を掻いている女幻獣。

 髭面の幻獣。剛力の持ち主のようで蓮を外へ放り出した幻獣だ。一番長身のウィラードと較べても頭一つ分抜いている筋骨隆々の男である。

 そして今ひとり。

 前髪が伸びすぎて顔が見えない上に猫背気味。声は若いが言葉は年寄り臭い。中性的で年齢不詳の美形幻獣、蓮とはまた違った方向で正体不明な幻獣、多分男。

「ムイさんヨンさんハッタさん、それに蓮さんです。」

「幻獣、の方々なんですね。」

 飯がわりに早速ひっつかれているウィラードが、げんなりと言った。

「亀型の人達は、ツノ生えて無いんだよ。人間ぽいでしょ?」

 髪の下から猫背の幻獣の壮絶な美形ぷりを垣間見たウィラードはただ、はあ、としか言えない。


 夜も大分更けた頃。

 かちゃり、と扉の開く音に机から目をあげた。

「まだ、起きていたんですか。」

「昼寝をしたからか、目が覚めた。ウーさんは、まだ仕事?」

「おかげで商会の名も売れてきまして。有難いんですが、寝む間がありません。」

「手伝おうか?」

 するりと膝に上り込む。

「おっさんを膝に乗せる趣味は無いんだが。」

「やだなあ、子どもだって言ってるじゃん。はー、この椅子硬いけど癒されるー。」

「そら、どうも。」

 つい、頭を撫でくりしてしまう。

 気持ち良さそうに撫でられたまま、ハルは卓上の書類を眺め、いきなり突っ伏す。

「痛っ。角が当たりましたよ、気をつけて下さい。」

「ごめん。あのさ、…これ、何て書いてあんの?」

「え?晩餐の招待状への返信を書いていたんですが。まさかハル殿は字が読めないんですか?」

「習字やってたし、書ける、よ?」

「ちょ。そこに書かんで下さい!」

「はー。」

 自分が今更文盲だったと気付いて落ち込む。

「ハル殿は奴隷上がりでしたな。意外ではありますが仕方ないでしょう。」

「うぐぐ。これでも公立大卒なのに!」

 残念ながら転生サバイバルに学歴は関係ないようだ。

「もう少しで終わりますからそっちでお絵描きでもしていて下さい。」

「うぐ。子ども扱いしないでよう。傷つくわー。」

「面倒くさい奴だな。」

 とりあえず無視して、小一時間ほどで仕事を終わらせる。

 飽きてどこかへ行くかと思った幻獣は、まだ床でゴロゴロしているので仕方なく声をかける。

「で。ご自分はひと月も遅れた癖に、夜中に押しかけて来る程の重要な話は何ですか?」

「辛辣だなあ。俺だって遊んでいたんじゃ無いよ。で、シロの消息、何か分かった?」

「っはー。五年前に帝都に連れ込まれたらしいのはわかりました。宮廷魔術師の団体さんが辺境伯領を往復したのが目撃されていまして。シロン様ほどの術者を拘束するには、総出だったのかと。宿場の下働きから何かを運んでいたとの証言も得られましたし、ほぼ確定だと思います。」

「その後は?」

「その後、ハウンゼル公領へも幾度か宮廷魔術師長が術者を連れて行っているようですが、こちらは御身内ということもありシロン様絡みの確証はありません。ただ、一夜街道のおかげで得られた賢者の石の材が全てハウンゼルに集められています。それと、昨今、入領は変わらないが出領がやたら厳しくなったと評判です。何かあるのは、確実でしょうなあ。」

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