それぞれの行き先
ハルの気持ち悪い生態を問い詰めたところで、知りたくもない。
男達の暗黙の了解で華麗にスルーされてしまう。
「金塊産み出す魔術は使えないのか?」
「え?俺男だし。産めないよー。」
腹が立つ。
だいたいこの幻獣が最近している事と言えば昼寝だけだ。
「こいつの見世物小屋を建てたら少しは儲からないかな。」
「脱ぐよ?俺脱いじゃうよー。」
「誰が見たい?」
「…ですなあ。っはー。」
新たな人物が現れていきなり問題解決、などという御都合主義な展開にはならない。
金。かねかねかね。
設けてなんぼの、商人である。
金さえあれば、末席の爵位くらいは買える。
爵位転がしでどこかの後家さんを貰ってもいい。
早く成り上がりたい。成り上がって、早くあの方を!
「焦らなくても大丈夫だよ、シロは。」
「何でそう言えるんだっ。」
「あんまりキャンキャン吠えてると喰うよ?」
びくっと、カリオンが水挿しをひっくり返す。
「うわぁ、ごめんね。喰わないから。カリオンさんは喰いません。安心して?」
「…。」
人狼がこくこくと頷く。
ついに心が折れてしまったのか、やけに可愛らしい仕草だ。
一方で。
迷壁で殴りつけた手前、ハルのぐうたら振りに目を瞑ってはいたが、いよいよ青年の姿でこのふざけた態度である。
俺だけが焦っている、だと。
俺がどんな思いでいるか、俺だけがこんなに大変で。
「ウーさん。貴方はもっと飄然とした人でしょう。上司、じゃなくて主人のあんたがそんなオロオロしてどうすんの。」
「子どものフリをしているあんたに言われたく無い。」
「いや、フリはこちらで本当に子どもなんだけど。代わろうか?」
「何?」
「大変そうだね。代わろうか?」
ウィラードは唖然とする。
この幻獣は何を言っているのだ。
その一言でなりかわれる程、俺の存在は軽いのか。
馬鹿に、するな。
「今さ、お前に俺の代わりが務まるかって思ったでしょ?」
「っ。当たり前だ!あんたは昼寝ばかりじゃないか。」
「あー。俺だけ働いて不公平だと。」
「…。」
「わかっているじゃん。貴方の立ち位置は俺や他には務まらない。貴方以外はまだ余力があると見抜いている。だからサボっている様に見えて腹も立つ。違う?」
「俺はあんたにサボっていると腹を立てているんだが。」
ウィラードはため息をつく。
ハルが獣人達と逃げ出してきた五年前と同じだ。
また、あんたしかいないと丸め込まれる。
「うぇ?そこは勘弁して。メンタル大人でも体力子どもで本当辛たんなんですよ。どう?落ち着いた?」
「うるさい。そもそもそんな話はしてなかった。」
金の話がどうして俺のメンヘラ指摘になるのだ。
横でナーダルがニヤニヤしている。
「店?いいんじゃない。俺は手伝わないけど。」
「あんまり虐めないで欲しいな。僕の立場が無いじゃない。」
ナーダルに苦笑させる。
「あんたという奴は。」
「あ、いや。虐めるとかそういうんじゃなくてね。俺は、」
困ったようにハルは言葉を切る。
「なんだ?」
「この領にも、この国にも。虫酸が走る。また捕まったらと思うとね。…怖いんだ。ナーさん、笑ってるけどねえ。幻獣の寿命は長いんだよ?前は二百年捕まってたんだよ?それでもね?奴隷市場に出回る幻獣はまだ見つけて貰いやすい。焔さんから聴いた話だと、幻獣戦争以降消息不明の幻獣が何人もいるんだって。千年以上。この国は幻獣を隠し捕らえているんだ。」
「とっくに殺されているさ。」
ナーダルが慰めにもならない事を言う。
「とにかく、そういう訳で。俺はこの国で働きたくない。」
「…おい。おい?」
ハルの身の上に同情はするが、それとこれとは話が関係ないのでは?とウィラード。
「働いたら負け。」
「あんた、何しに付いてきた?」
「ルルリンちゃんの追っかけ?」
「こいつ、売れるかな?」
「要らない。ぼくなら買わない。」と、ナーダル。
「不要。」と、ベルド。
勿論カリオンも全力で拒否。
青年の姿で異空間収納を使えるようになったハルと護衛のベルドがイズールにとって返し、ヌコの仕入れた東方の品々を補充、ついでに使えそうな人材をスカウトしてくる。
一方で、ナーダルとカリオンは残り、トト屋にねじ込んでウィラード商会の品を取り扱い売りさばくよう交渉しつつ、ルルリン隊の公演も行って路銀稼ぎ。
ウィラードと煌華は旅を進める。
「一旦解散、が一番手っ取り早いか。」
人間の姿になり多少使える様になったハルを頭数に組み込んで、ウィラードが結論を出す。
「ウーさんだけ、楽してない?」
「嬢ちゃん連れ帰ってくれたらもっと楽できるんだが。」
「モテて辛いね色男。うりうり。」
「っはー。それじゃあ、俺は帝都まで先行する。ナーダル、カリオン。手持ちの品を捌いて、あとの段取りをつけたらなるべく早く合流してくれ。ハル、ベルド。とりあえず一往復してトト屋へ荷を補充してから、商会の品をここまで流通させるようヌコやリュヘルと相談して常用の商隊を組んでくれ。その後は。ハル、あんたがブライデルを旅したくないというなら、イズールの店を任す。リュヘルをかわりに戻せ。」
「あいよ。」
「わかった。…俺も、ちゃんと行くから。」
来た道を足早にとって返す男たちと。
白磁の壺を持って無双をしに行く男と。
とりあえずルルリン達の世話を任された人狼と。
寝汚い若嫁を起こして正座させられる男と。
それぞれの一日が始まった。
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