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一夜街道

 いよいよ、帝都にむけて出発の準備が整った。

 シロンが発案し、主にウィラードが命がけで通り抜けた一夜街道ことニコニコ街道を遡る。


 年に幾度かは通る馴染みの街道となった今でも、ここを訪れる度にキュッと胃の縮まる思いのウィラードであった。

 もう安全だと頭では理解しているのだが、すぐ傍でナーダルが与太を飛ばしている声を聞くと一層冷や汗が出る。

 煌華が寄ってきて手を繋ぐ。

 焔まで手を繋いでくるのは勘弁して欲しい。

「美味。」

 感情とやらをまた喰われているようだ。甦りかけた恐怖が霧散してゆく。

 かつてウィラードの主人は激昂していたが、別段害もないので好きにさせている。

 まあお手手繋ぎはどうかと思うが、それくらいで幻獣達が満足するなら甘んじておくしかない。

「あ、二人だけずるい!コーカさん太りますよ?」

 ハルまで背におぶさってくる。

「ハル殿まで、いい加減にしてくれ。」

「えー。足疲れたよー、おんぶー。」

「あんた、中身おっさんでしょうが。言っていて恥ずかしく無いんですか?」

 五年経っても全く姿の変わらないハルを流石にもう子ども扱いする事は無い。

 煌華は背伸びして大人に張り合うお嬢ちゃんな可愛げもあり、見た目通りにメンタルも長命種の幻獣においては若い娘なのだろう。

 しかし、背に張り付いている子どもの格好をした奴は太々しさといい絶対に精神は大人であるはずだ。

「おじちゃん、怖いよう。」

「うっさい。食ったら降りて下さいよ?こっちは見た目もおっさんの腰痛持ちなんですから。」

「ほっほー。」

 意味有りげにニヤニヤするハルをぶら下げたまま、ウィラードは歩を進める。


 楽な旅だ。

 幻獣達のおかげで荷運びに労を割く必要もない。

 エリム砦も魔の森も幻獣の棲も顔パスである。

 更に。

 ウィラード自身もリュヘルの故国で剣の腕を磨き多少の使い手になったが、それ以上にナーダルや実は剣術師範の実力者だった諧謔のベルド、息子に代替わりして暇を持て余した獣人カリオンなど護衛陣も過剰戦力となっている。

 この面子では旅は楽だがむさ苦しく胡散臭さ過ぎるので、モナ率いるルルリン隊が華を添えている。

 巷では握手権が金貨一枚で売れるという美少女達である。

 若い嫁さんに相手にされないウィラードの妾集団などとやっかみを言われたりもするが、商会の稼ぎ頭である彼女達に頭の上がる筈もなく酌の一つすらしてもらった覚えがない。


 軌道に乗ったばかりの店を空けて旅に出られるのもウィラードの強みだ。

 普段はごろごろしているリュヘルを番頭に仕立ててしまえば、自分より余程切れ者の彼である。昼寝場所欲しさにウィラードが戻るまでは一応働いてくれる。

 あの人は、商人として動くなら一応ぐらいがちょうどいい。

 通常業務の東方との交易はヌコ率いる黒猫隊がいつも通りこなしている筈だ。

 帝都への旅の同行を切望していたヌコだったが、万が一この旅が失敗した時に、次、動けるのはお前だけだとの重なる説得をのんで留守番を務めている。

 この旅の目的。

 それはハルやウィラード達の悲願であるシロンの救出だ。


 あの日。

 ハルがシロン謀殺の情報を得、身内の喪装を見せられて以降、それ故に彼らはシロン存命を信じてひたすらにその行方を捜していた。

 シロンの領民を殺害の下手人に仕立て上げるべく荘園に乗り込んできた―――そこに不自然さがあった。

 あの時、シロンは自ら伯爵領へと向かった。

 残念ながら、彼を捕らえ、考えたくもないが密かに殺害する事は可能だっただろう。

 だが、それなら。

 単に事故死や病死として密葬してしまえば済む事である。

 シロンの領も、主人死亡で接収、それで済んだのだ。

 なのに、何故犯人を仕立て上げる必要があったのか。

 何故、わざわざ喪装でシロンの存在を誇示したのか。

 まるで、シロンという者が辺境域でまごう事なく死んだ、そう宣伝しているようなものではないか。

 一体誰に向かって。

 一体何の為に。

 それは分からぬが。

 シロンに似た者が居たとして、これは伯爵家所縁のシロンではない。シロンは死んでいる。そう申し開きをする為ではないか。

 最初は根拠など無い推察だった。

 だけどシロンは生きている、ただそれだけを信じたい為に一縷の望みを託して情報を集めて回った。


 どうやら才がある。

 そう分かってから、ウィラードは商人としての力を死にものぐるいでつけてきた。

 多少は悪事めいた事にも手を染めながら成り上がり、イズーリアだけでなくブライデルの貴族筋にも商用で顔つなぎが出来る様になったのが一年程前の事。

 諸手の商いこそ出来なかったがそれ以前からも商いの下調べと称してシロンの行方を探る為にウィラードやナーダルは幾度か伯爵領へ潜入していた。

 そのうちにこれはもしやと思う情報を得た。

 丁度シロン失踪の頃の一時期、伯位継承者である伯爵子息が帝都に拘束されていたという噂である。

 そしてまた。

 その後しばらくしてから現皇帝の岳父にあたるハウンゼル公領より多量の魔鉱石が産出され始めたというのだ。

 魔鉱石、それは自然鉱ではオリハルコンと呼ばれ、人口鉱では賢者の石と呼ばれている、どちらも魔力のこもった鉱石である。

 もし賢者の石であるならどうやってそれだけの魔力を確保しているのか。

 それは虜囚のシロンから奪った魔力なのではなかろうか。

 調べてみる価値はある。

 そうして、娘可愛いさで焔が用立てた幻獣の秘宝を湯水のごとく賄賂とし、ブライデル帝国御用商人印を拝されたのがつい先日。

 旅支度もそこそこに、即、ウィラードらはハウンゼル公領へ向けてイズールを発ったのであった。

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