迷壁
加筆、タイトル変更しました
「どーですと我々に訊かれましても。」
そびえ立つ壁を前に途方にくれる。
「作る事は出来るんです。ただ、さっきも言った通り都市一つ構築となると無計画に建ててしまってよいものか。」
「いいや良くない。反語。」
「それで、ここはひとつ、建築家を。出来れば城塞都市と商都の都市計画を作れるプロフェショナルを、」
ヌコとウィラードが慌てて目をそらすが遅い。
「二人でスカウトしてきてくれませんか?」
「なる早で。」
シロンとハルの依頼に二人は光速に近い速さで首を横に降る。
「そんな、伝も無いのに無理ですよ。」
「そういえば、コーカさんが二人を探していましたよ?なんだか物凄い剣幕で。」
「うぐ。卑怯です。」
「あと、幻獣の建築家はくれぐれもお誘いしないで下さいね。」
「たどり着けない城とか作りそうだもんね。」
うんうん、とハルが同意を示す。
「そんにゃ物を作ってどうするんだ?」
「さあ?外から眺めて楽しむか、中に引きこもるんじゃないかな。」
「幻獣って変にゃ生き物だにゃ。」
「成竜は飛べるから、道とか階段とか関係ないんじゃない?そういや、獣人もウォールクライミングとか得意そうだよね。」
「そうでもにゃい。高所は皆んな苦手です。」
頭上はるか高くそびえる壁を見てちょっと身震いする。
「はい、これ書簡。一応、一通り揃えておいたから出立前に中身を読んでおいて。後で封をするから。」
「中を見てよいのですか?」
「僕からの手紙にどれほどの効力があるかわからないけど、使えそうだったら使って下さい。焔さんと蓮さんと水無さんとカリオンさんとミルガルムさんとナーダルさんとリュヘルさんとジャムス殿下宛。あと宛先無しで助力願いと、お二人の身元保証を書いておきました。」
「あのお歴々に会わなきゃダメですか。」
うんざりとウィラード。
「通り抜ける以上、ご挨拶くらいは。」
「俺たちじゃにゃくても、」
ヌコが儚い抵抗を試みる。
「そうですね。ではモナとモフにお使いを頼みます。」
にっこり。
「諦めろ、ヌコさん。モナ、モフちゃん達は冗談としても、他に幻獣の棲と獣人の森をつっきれる人材がいると思うか?」
「貴方がたばかりに負担をかけているのは承知の上です。でも、お二人にお願いするより他にないのです。私に手を貸していただけませんか?」
深々とシロンに頭を下げられては最早二人に否と言える訳もなく、はなから前途多難な任務を請け負うしか無かった。
翌日早々に、路銀代わりの宝石だけは潤沢に渡して二人を送り出す。
「ヌコにぃ。次はまともな嫁を見つけて来るにゃ。」
モナが見送る。
朝寝坊の煌華の姿は無い。
気付かれぬ間にひっそりと荘園を出る。
「では行って参ります。」
「頼むよ。」
「シロン様、」
一度挨拶を終えたウィラードが一歩詰め寄る。
「何?」
と、シロンは彼を見上げる。
ウィラードは手を上げて、シロンの頭を撫でた。
「大きくなられましたな。」
ぷ、とハルが笑いを堪える。
シロンも破顔して。
「早く帰ってこないと、貴方の背ぐらいすぐ抜かしますよ。」
「そうでしょうなあ。…では。」
「行ってきます。」
ほんのひと時の別れ。
そう互いに信じて、ウィラードとヌコは振り返りもせず歩を進め、シロン達もすべき事に戻ってゆく。
静かな出立であった。
『どごごごご』
暴力的な騒音が途切れる事なく続く。
壁、壁、壁。
巨大な壁がせり上がり、シロンの領を囲う。
ただただ頑強に。
「これで、巨人が来ても大丈夫だな。」
ハルが嬉しそうに言う。
「三重ぐらいにしておく?」
「魔力持ちそう?」
「大丈夫。」
「じゃあ十重二十重いけちゃう?」
「何を作らせる気?」
「巨大迷路。」
「後で壊すの大変だよ。」
言いながらも二周目の壁を作っていく。
簡単に踏み潰されてしまう卵のようにちっぽけな荘園を、大事に大事に守る鋼の容れ物。
そんな不釣り合い極まりない壁を築くのは、シロンも戦力になるのは己一人と感じているからだ。
結局、陽が落ちる頃に十三層から成る防壁迷路が完成した。
まるでシロンがその魔術師の力を存分に発揮するのを待っていたかの様に。
夜半。
伯爵家からの使者が訪れ、ようとした。
「あ、出入り口作ってないや。」
「別に要らないんじゃね?ウーさん達もすぐには戻らないだろうし。」
「それも、そうだね。後で呼び鈴でも置いておこうか。」
大仕事を終えてのんびりと風呂に浸かり、バニィが作る重めの料理を平らげてぐっすり眠った二人は、来訪者の事など知る由もなかった。
花見で投稿遅れました。申し訳ありません。
春は梅桃桜と良い季節ですね。花粉は嫌だけど。




