スーパーマジシロンエキスパートモードドーデス
扉に何か貼ってある。
墨痕も鮮やかに。
ヌコとウーさんことウィラードが首を傾げる。
ちょうどお茶を運んで来たバニィに何と書いてあるか尋ねると。
「『作戦本部』って書いてあるそうです。」
お茶請けに唐揚げが添えてあるのは御愛嬌。
「これ、嫌にゃ予感しかしにゃいんだけど。」
ぽそり、とヌコが呟く。
シロンに拾われて以来、長らく悠々自適の昼行灯で暮らしてきたウィラードも。
ここ最近、身をもって磨いた野生の勘が同じ危機をひしひしと訴える。
「胃がキリキリしてきた。」
「邪魔です。ドアを開けてください。」
バニィが長い耳で器用にウィラードをはたく。
「うう。シロン様、お呼びですか?」
扉を開けると少年達がひれ伏していた。
「「ごめんなさい!」」
「何をやってるんですか!頭を上げて下さい。」
慌ててシロンの横に跪き立ち上がらせる。そして横のもう一人の首根っこを掴んで更に床に押し付ける。
「痛い痛い!」
「ハル殿、シロン様に何て事をさせるんですか!」
「だってウーさんに謝りたいっていうんだもん。」
「…全くシロン様まで悪ノリせんで下さい。だいたい、このアホぼんを懲らしめたいなら一言命じて下さればいいんですよ。御自分の手を汚す必要なんてないんですから。」
背に庇っておいてのこのツンツンぶりにハルがチェシャ猫笑いを浮かべる。
「はい、次からはそうさせて貰います。」
「次って、何⁈ホント、やめて?泣くよ?」
「はいはい。そこで土下座したまま泣いといて下さい。で、シロン様。今日は何の御用ですか?もうお身体は大丈夫なんですか?」
「ええ、おかげさまで。バニィ、ありがとう。そこに置いて下さい。」
「はい、失礼します。」
紅茶の芳香と、唐揚げの食欲をそそる匂いが微妙なハーモニーを提供している。
机に盆を置きペコリと一礼して退出するまで一同の視線が釘付けになる。
「眼福。」
ハルが言わずもがなの感想を述べた。
「まあ、座って、お茶でも飲みながら。何の作戦かと言うとね。」
大胸筋の上の脂肪を見送ってから、シロンは切り出した。
今更であるが、身体が思春期に入り思考が引きずられているのを自覚する。
「顔が赤いですが、大丈夫にゃんですか?」
「大丈夫。ええとね?僕は親兄弟とあまり良い関係では無いんだ。」
話の見えぬヌコとウィラードが相槌の打ちようもなく、茶をすする。
「イズーリア経由で街道が作られた情報はそろそろブライデル本国に届くと思う。僕が高位魔術師である事もね。」
何を言わんとしているか悟ったウィラードが天井を仰ぐ。
「ここで戦ですか。」
「残念ながら攻め入られる可能性はある。隣接の領主達とは疎遠だからね。」
「そつないお前がらしくないな。養子なのか?」
「いや、本妻の末子。」
「継承争いか?」
「まだ廃嫡こそされていないけど、この荒れ地の領を与えられる位だよ。」
肩をすくめる。
「そもそも、ここを勝手に出たと知れたらそれだけで大騒ぎなんだ。」
「おいおい。何をやらかした?」
「悪い人達では無いんだけど、人権意識が中世なんだよねえ。ちょっと、意識改革を促したら忌子扱いで怖がられてる。」
「あれ?でも帝都に居たよな?」
「あれは成年の報告にね。一応伯爵家の者だから。ぼくの力を極力抑え込みたい彼らが、なんで奴隷の購入を認めていると思う?」
「荒地開拓の要員として、な、話ではなさそうですな。」
「建前はそれだけど、本音は人質だね。基本、君たちは自衛の手段も持たないか弱い領民だ。そして、ぼくは人を守る。」
こくり、とヌコが頷く。
「一人二人ならとにかく、流石にこれだけの人数を連れ歩く訳にもいかないだろう?だから、この荘園はぼくの檻でもあり、ぼくへの人質を閉じ込めておく場所でもあるわけ。」
だから。
少し哀しげに話を続ける。
「檻が破れたと知れたら、ここにぼくを居させる訳がない。況してや利もあるとなれば、領地接収は必然。だけどこちらとしても、もうぼくの身ひとつで済む話ではないからね。」
「ひかぬこびぬかえりうち。」
ちょっと嬉しそうにハルが続ける。
「なので、商都として繁栄させて伯爵家からの離脱を図る。その為にここに防壁を築いて、城塞都市にするよ。」
出番が無くて茶ばかりすすり、とっくに空の椀を手持ち無沙汰に弄ぶ。
「ウィラードさん、聞いてます?」
「聞いてます。でも自分がなんでここに呼ばれているか、分からんのですが。」
「ぼくは、剣士で魔術師で医師です。」
「俺は剣でプログラマでドラコ種です。」
「はあ。」
ひしひしと嫌な予感。
「建築に関しては素人なんですよね。ちょっと、ついてきてくれますか?」
ぞろぞろ一行はシロンについて領地の外まで出る。
何もない、荒地である。
「この辺でいいかな?」
「とりあえずやってみたら?」
シロンとハルがひそひそと何やら悪巧みめいた会話をしている。
ウィラードとヌコはこれから何が起きるか、知りたくない気持ちでいっぱいだ。
「じゃあ、」
と、シロンが更に少しだけ離れて。
『ぐごおおお』
轟音。
大地が揺れる。
「どうかな?」
「どうだろうねぇ?」
「どうです?」
「「…。」」
四人の前に巨大な壁が出来ていた。




