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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
獣人の森
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エルム砦

 弑虐心を満たしてツヤツヤの男と、弑虐心を満たされてげっそりやつれた男。

 エルムの砦で慌ただしく戦闘準備が始まる中、最も人の出入りの激しい外壁で至って邪魔な二人組。

 ツヤツヤの男、ナーダルが足早に通り過ぎる一人の騎士を呼び止める。

「いたいた、ミルガルムさん。ちょっとヒールお願いします。」

「だから何で敵の斥候を…これ、生きているのか?」

「まだ使うのに死なせるわけないじゃないですか。えーと、ちょっとだけ?回復お願いします。」

「ヒール、ヒール、ヒール、全然治らんな。ヒール、ヒール、ヒール。」

「よっ、もう一声!」

「戦闘前に魔力の無駄遣いをさせるな。ヒール、ヒール。あんた、大丈夫か?諦めて全部吐いちまえ。」

「ご親切にどうも。もう、全然吐かされましたよ。」

 ようやく声が出るようになったウィラードが返事をする。

「ほお?凄いな。冷酷と非道を相手に正気を保てたのか。よし、あと十回ヒールをかけてやるから俺の部下になれ。」

「駄目ですよう。まだ使うんですから。」

 ナーダルに言われてウィラードは身震いする。

 一体、何に使われるのだ?



 イズーリア連合国。

 商都イズールを含む七都市と五十一の小領地から成る連合国家である。

 その版図は広く、北西域に構えるブライデル帝国、東域のホジカ神国に匹敵する。

 東西両国を結ぶ交易を主に、北に鉱脈、南に豊かな海を抱え、どの領地も豊かに栄えている、そんな国だ。

 中で獣人の森に接する都市リデルだけが、特出して異質な軍政都市となっている。

 唯一の産物が獣人奴隷だが、それも牽制の小競り合いによる捕囚でしごく少数だ。

 イズールの後方に位置するが、獣人の森に対する防壁であるとともに、平時はブライデルを刺激せず、有事の際はイズーリアの要塞として、イズール奪還の要となる。

 今でこそ平和に交易を行っているが、イズールの四角全てに怨霊話があると言われるほど、その歴史は度々血に彩られてきたのだ。

 従って、リデルの主力はブライデル方面に配され、ここ、エリム砦は割と変人奇人の巣窟と化している。


 勿論、本人達はそうは思っていない。

 自分以外は、危ない奴が多いな、とそれぞれが感想を持っている程度だ。

 専任軍人の上層部がアレな人達なのと、曲がりなりにも獣人達との実戦があるのとで、エリム砦での兵役は他に配置される期間より短い。

 その危険を飲み込んで、兵役にやって来る一般兵もまた平民ながら癖の強い者が多い。

 短期につられて着任したにもかかわらず、ここを居場所とばかりに居ついてしまう者も少なからずいる。

 そしてますます、異色の集団に育っている昨今だ。


 アレな上層部の中でも、階級と気質で最もアレな人達が集い、さて、始めるか、と気負うそぶりもなく開戦を決める。

 冷酷のリュヘル、非道のナーダル。

 二つ名持ちは彼らだけでは無い。

 常態のミルガルム。

 在野に有ればどう見ても犯罪予備軍と言える、この危険な集団の総司令が彼だ。

「諧謔は左翼、非道に右翼を任せる。弓隊は配置済みだ。」


「『諧謔』ってどういう意味っすか?」

 軽薄な語尾で、若者が隣の半分眠っている男に聞く。

「洒落、機知に富む冗句。」と頬杖をついたままリュヘル。

「なんかカッコいいっすね。でもベルドさんの冗談なんて聞いた事ないっすよ?めっちゃ堅物じゃないすか。」

「あいつは酒が入ると下ネタ連発。前に偉方との宴席でやらかして、酒席の冗談と収めるのにナーダルが実家の蔵を一つ空にした。」

「あー。でも諧謔っていい感じっすねー。オレなんて『軽薄』っすよ?あだ名。」

 まんまである。

「薄弱とか盆暗が良かったか?」

「酷いっす。オレ、これでも出来が良すぎてここに追われた口っすよ?」

「出来だけならここには送られない。お前も俺も。」

「えー。じゃあオレの成れの果てがリュヘルさんすか?やだなぁ。」

「月夜の晩ばかりじゃないぞ?」

「すいやせんっしたー。」


 軽薄のジャムスと冷酷のリュヘルが無駄口を叩いている一方。

「えー。また働くのー?尋問係したばかりですよう。」

 非道のナーダルが文句をつける。

「ほぼ冷酷の仕事だろう?お前は愉しんでいただけだろうが。」

「好きな食べ物はドーナツだとか、恋愛結婚願望とか色々訊き出しましたよ。」

「阿呆。お前の名は今から阿呆にする。」

「ちゃんと有益な事も訊き出してますよー。そう言えば報告まだでしたね。」

 こほん、と咳払い一つ。

「お向かいさんに幻獣一匹来てます。」

「報告済み。」

 リュヘルが詰まらなそうに言う。

「えーと、美人です?」

「らしいな。」

「あれれ?じゃあ、魔法が使えるっていうのは?」

「幻獣なら当たり前だろう。あの斥候に遊ばれたな、ど阿呆。」

「あ、良かった。新情報ですよー、皆さん。美人幻獣とウィラードさんの主人は、高位術師です。二人で闘った時は地形が変わったらしいですよ。」

 ミルガルムがちらとリュヘルを見る。

 リュヘルが目線をそらす。

 どうやら手抜きをしたようだ。

 ナーダルも、そんな重大な情報を後出しにしてくるとはどういうつもり、いや、どうとも思っていないのだろう。

「直接話しが聞きたい。捕虜を連れて来い。」

「あ、じゃあぼくが、」

 常態ミルガルムの不機嫌を読み取って逃げようとするナーダルを抑え、諧謔ベルドが席を立つ。

 行け、とミルガルム。

「やっぱベルドさん、渋いっすよねー。ほんとに下ネタ番長なんっすか?」

 ジャムスが後に残されたリュヘルとナーダルの観念した空気を読まず、軽薄に喋り続ける。

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