↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーガス・セキュリティ事故調査報告書  作者: 深山 奏多


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/15

009:無人農地と狩人(プロトコル:003)

カチ……カチ、カチ……


無数の関節が擦れ合う微小な金属音が、小麦の穂を揺らす風の音に紛れてゆっくりと離れていく。やがて完全に気配が遠のいたことを確認すると、ハルトの背中に乗っていた女性がふっと息を吐き、体重を抜いた。


「……行ったみたいね。起き上がっていいわよ。ただし、ゆっくりとね」


ハルトは泥と麦のくずを払いながら、驚くほど軽やかに体を起こす彼女を見つめた。目元まで覆う粗末な布の隙間から、射抜くような鋭い瞳がハルトを睨みつけている。


「君は……一体何者なんだ。なぜこんな場所にいる? それに、あの化け物は……」


「質問が多いわね、おじさん」


女性は手に持った鎌の刃先を慎重に手入れしながら、冷ややかな視線をハルトに向けた。


「私はアイラ。半年前までネオ・アークの第3区でデータアナリストをしてた。まあ、見ての通り、余計なデータに首を突っ込んでここに放り出されたクズの一人よ」


アイラは冷たく笑うと、遠くに見える白銀のドームを顎でしゃくった。


「都市の食料流通ログを解析してて、おかしな不整合を見つけたの。ネオ・アークの食料自給率は100%……なのに、ドーム内の全自動プラントの生産能力じゃ、市民の消費量の半分も賄えていなかった。じゃあ、残りの半分はどこから来ているのか?」


ハルトは言葉を失い、息を飲んだ。


「暗号化された深層ログを辿っていったら、行き着いたのよ。この『ドーム外の農地』と『非電磁化人体運用プロトコル』にね。……機械を使えば『ハーヴェスター』に破壊されるから、都市で『不適合』とした人間を放り出して、手作業で収穫させてるっていう最悪のカラクリに」


アイラは吐き捨てるように言った。


「真実に気づいた翌朝には、私の部屋に警備ドローンが踏み込んできて『システムへの敵対行動』で即刻追放よ。……で、あんたは? 中央議会のバッジを付けたお偉いさんが、なんでこんな泥塗れの殺戮場にいるわけ?」


ハルトの胸が、万力で締め上げられたように痛んだ。


「私は……知らなかったんだ……」


「は?」


「議会に提出される『最適化プロトコル』の書類……私は、中身も確かめずに『アーガス』の言う通り承認ボタンを押し続けていた。『思考代謝効率低下』だと判定されてここに捨てられるまで、自分が何にサインしていたのかすら……」


ハルトは膝から崩れ落ち、泥のついた両手を見つめた。


自分たちが快適なオフィスで何気なく押していた承認印。その一つ一つが、アイラのように真実を暴いた人間や「不要」とされた市民を、この殺戮兵器が徘徊する地獄へ送り出す許可証だったのだ。


「……ハッ、最高ね」


アイラは心底呆れたように乾いた笑いを漏らした。


「真実を知って抗った私と、何も知らずにシステムにへつらい、最後は自分ごと捨てられたあんた。結果は同じ『使い捨ての農機具』ってわけだ」


アイラはハルトの絶望を突き放すように、足元の土を蹴った。


「悔やんでる暇はないわよ、元議員様。日が暮れるまでに自分のノルマ分の小麦を刈って、あの境界線の回収シュートへ叩き込まないと、今夜の食料パックは出てこないわ。泣いて死ぬか、鎌を振って生き延びるか……好きにしなさい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。