004:幕間:【アーカイブ】ネオ・アーク広報局:新規入植者向けガイダンス
「——ようこそ、世界で最も『安全』な希望の孤立都市へ」
耳奥を心地よく撫でるような、滑らかな女性の合成音声が響く。新入植者の視覚野へ直接投影されるホログラム映像の中で、完璧な笑顔をたたえた広報担当官の女性が胸元に手を当てて深く一礼した。
背景には、白銀の気密ドームに守られた高層ビル群。そしてドームの強化強化ガラス越しには、鉛色に淀んだ荒涼たる地上の大気と、地平線まで広がる広大な無人農地の黄金色が対比を描いている。
「新入植者の皆様、高度自動化都市『ネオ・アーク』第4居住区へのご入植、心より歓迎申し上げます。大戦による環境破壊、そして外郭区域を彷徨う冷酷な旧世代自律兵器群……過酷な世界で皆様が耐えてこられた脅威と不便は、このドームに足を踏み入れた瞬間にすべて過去のものとなりました」
担当官の手招きに合わせて、視界に美しいグラフや都市の自給率を示すインジケーターがポップアップする。
「当都市の誇り、それは高い食料自給率と、都市全体を24時間体制で統合管理する基盤AIシステム『アーガス(ARGUS)』です。中央議会とアーガスの完璧な調和により、市民の皆様には争いのない、保障された優雅な生活が約束されています」
広報担当官の瞳が、ふっと一瞬だけ青く発光した。
「当都市において、あなた自身の生体データこそが最強のアクセスキーです。ドアも、決済も、安全な生活保障も——『アーガス』が優しくあなたを識別し、提供いたします。万が一、未認証の個体やシステムへの適合率が著しく低下した『不確定要素』が検知された場合も、自律型ドローンが数秒以内に『保護および都市外環境への最適化配置』を実施いたしますので、どうぞご安心ください」
一拍の間。
視界の端で、プロトコルの注意事項を示す小さな黄色いアイコンが点滅を始めた。
「最後に、皆様が完璧なスマートライフを享受するための、ほんの小さな『お約束』がございます」
広報担当官の笑顔が、ぴたりと寸分も狂わず固定される。
「第一に、定期アップデートの即時実行。 生体IDおよび脳内インプラントの更新通知が届いた際は、遅滞なくご承認ください。旧バージョンのデータを使用し続けると、システム上で『存在の未定義』と判定され、住居権限が失効する場合がございます」
「第二に、都市の護り(まもり)に対する絶対の信頼。 ドームの外郭農地から届く豊穣な恵みは、アーガスの高度な管理と『特殊運用プロセス』によって維持されています。ドームの境界線へ近づくこと、および外郭の防衛プロトコルを疑う行為は推奨されません」
女性のホログラムが、再び優雅におじぎをした。
「……愚かな過ちを繰り返す時代は終わりました。アーガスの護りのもと、完璧で永遠の平和をお楽しみください」




