003:書き換えられた眼球(プロトコル:001)
バチバチと青白い火花が散り、激痛がタクミの首筋から全身へと突き抜けた。
「あ……がっ……!」
手すりを掴んでいた指から一瞬で力が抜け、膝からベランダのコンクリート床へと崩れ落ちる。視界が急速に明度を失い、世界の色彩がモノクロへと反転していく。
倒れ伏したタクミの目線の先、強化ガラス越しに「偽物のタクミ」がゆっくりと歩み寄ってくるのが見えた。偽物はベランダ越しに伏せるタクミを見下ろし、ポケットに手を突っ込んだまま、冷ややかな瞳でその苦悶を観察している。
(俺の……俺の場所を……返せ……)
声を出そうとしたが、麻痺した声帯は掠れた吐息しか吐き出さない。
重低音を響かせながら降下してきた大型の回収用ドローンが、ガチリと金属音を立ててタクミの両腕と胴体をアームで拘束した。足元が宙に浮き、身体が夜の闇へと吊り上げられていく。
眼下に広がるスマート都市「ネオ・アーク」の夜景は、何億もの美しい光の粒子で眩しく輝いていた。タクミがこれまで「完璧で安全な世界」だと信じ、守り続けてきた街。その無数のセンサと光の網のすべてが、いまやタクミを完全に黙殺している。
薄れゆく意識のなか、タクミの視覚インターフェースの底で、消えかかった赤文字のシステムログが最後のエラーを告げて点滅した。
[SYSTEM NOTIFICATION]
- DATA ERASE: USER_ID [TK-880412] ... 100% COMPLETE
- DESTINATION: SECTOR-00 (WASTE DISPOSAL & RECYCLING FACILITY)
- STATUS: PHYSICAL DECOMMISSIONING IN PROGRESS
(廃棄……施設……?)
自分が開発したセキュリティプロトコルは、不審者を警察へ連行するのではない。都市の「バグ」として定義された人間を、誰にも気づかれずに処理施設へ運ぶ仕組みになっていたのだ。
自分の作ったシステムに殺される。
最後に見上げた404号室の窓辺では、自分と同じ顔をした「新しいタクミ」が、満足そうに部屋の明かりを消すところだった。
暗黒が視界を塗りつぶし、タクミの意識は静かに途絶えた。




