侯爵令息の社交レッスン
学園中、レッスンルームに2人の姿があった。
エリーゼ
「ガウェイン様。早速ですがダンスのレッスンをしましょう。」
ガウェイン
「エリーゼ。最初に言っておくが、僕は本当にダンスが下手だ。。。」
エリーゼ
「大丈夫です。ガウェイン様。まずは1曲短めの曲で踊ってみましょう。」
♪♪♪♪ ♪♪♪♪
ガウェインは5回エリーゼの足を踏んでしまった。
ガウェイン
「・・・。すまない。」
エリーゼ
「ガウェイン様。安心してください。厚手の靴にしたのと靴下も厚手なので、
そんなに痛くなかったですよ。」
「それにガウェイン様はしっかり基礎は出来ていらっしゃいます。」
ガウェイン
「そうなのか?」
エリーゼ
「はい。足運びは綺麗です。あとは姿勢を良くしてください。
猫背気味になっているので相手の方へよってしまい、足を踏んでいるんです。」
ガウェイン
「僕も猫背は直したいと思っているんだ。」
エリーゼ
「ガウェイン様。イメージしてください。天井から頭のてっぺんが糸で引っ張られていると思ってください。そしてあごを軽く引いて、目線は少し遠くを見てください」
ガウェイン
「こうか?」
エリーゼ
「はい。とてもいいです。そのまま意識した状態で何曲か踊りましょう。」
数曲ダンスを踊る。ガウェインは汗を滝のように流しながら息切れしている。
ガウェイン
「ダンスがこんなにきついなんて思ってなかった。」
エリーゼ
「ダンスは全身を使う運動ですから、ダイエットも兼ねて一石二鳥です!」
「それにこの短時間でガウェイン様は足を踏む回数が減りました。とても筋がいいです。」
ガウェイン
「君は褒め上手だな。僕の上達が早いとしたら、君の教え方が上手いんだよ」
エリーゼ
「ありがとうございます。さあ。コツがつかめたところで、レッスンを再開しましょう。」
2人はレッスンルームの閉館まで踊り続けた。
ガウェイン
「ううう。足が動かない。明日が怖すぎる。。。」
「エリーゼ、明日もダンスレッスンするのか?」
エリーゼ
「いえ。明日はマナー特訓をします。」
ガウェイン
「マナー特訓?何をするんだ」
エリーゼ
「ガウェイン様はテーブルマナーについては問題ないと思います。食べ方もとても優雅です。ただ食べながら会話を楽しむことも社交界では求められます。」
ガウェイン
「・・・。僕は口下手で上手い話しなんてできないぞ。それどころか普通に話すのだって難しい。」
エリーゼ
「そうですか?私やフィン様とは普通に喋っていらっしゃいますよ」
ガウェイン
「フィンは幼馴染だからな。君は何だかとても話しやすいんだ。他のものとは言葉が出てこなくなる。。。」
エリーゼは不敵な笑みを浮かべる。
「なおさら明日のレッスンは効果的になりそうです。」
ガウェイン
「今度は何をする気だ。」
エリーゼ
「それは明日のお楽しみにです。申し訳ありませんが、
明日、バーデル子爵の屋敷まで来ていただけませんか?」
ガウェイン
「バーデル子爵の屋敷?」
エリーゼ
「はい。あとガウェイン様にお渡しするものがあります。」
エリーゼが鞄から本を取り出すと、ガウェインに渡す。
「ガウェイン様。夜眠る前に、ここに書かれているストレッチ運動をしてください。ゆっくりとした動きなので無理なく続けられると思います。」
ガウェイン
「・・・努力する。」
エリーゼ
「では、明日バーデル子爵邸でお待ちしていますね!」
ーー翌日 バーデル子爵邸
ガウェインはバーデル子爵邸の前でエリーゼと合流する。
ガウェイン
「エリーゼ、そろそろ今日することを教えてくれ」
エリーゼ
「今日は社交界の練習です。」
「ガウェイン様に、とっておきのお話し相手をご用意いたしました。」
ガウェイン
「話相手?」
パタ、パタ 足音。バフ。誰かがエリーゼに勢いよく抱き着く。
ガウェイン
「何だ!?」
エリーゼが抱き着いてきた相手の頭を優しくなでる。
「ミレイユ様。いきなり抱き着くのはレディとしてはダメですよ。」
ミレイユ
「うう。ごめんなさい。エリーゼ様が久しぶりにいらっしゃると聞いて嬉しくなってしまったの。」
そこには九歳くらいの小さな令嬢がはにかみながら立っていた。
エリーゼ
「ミレイユ様。私もお会いできて嬉しいです。
今日は友人を紹介したくて参りました。」
ミレイユ
「ご友人?」
ミレイユはガウェインのことをじっと見つめる。ガウェインは固まっている。
エリーゼ
「・・・」
エリーゼがガウェインの腕をつつく。ビク!
ガウェインがやっと、
「ガウェイン・フォン・アシュクロフトです。
お初にお目にかかります。ミレイユ様・・・」
ミレイユが優雅にお辞儀をしながら、
「はじめまして、私はミレイユ・バーベルと申します。ガウェイン様。よろしくお願いします。」
エリーゼ
「ミレイユ様、上手にご挨拶できましたね。」
ミレイユ
「ありがとうございます。エリーゼ様が教えてくださったおかげです。」
ガウェイン
「教える?」
ミレイユ
「はい。エリーゼ様は私のマナーの先生なんです!」
ガウェイン
「先生・・・。君は本当に何でもやってるんだな」
ミレイユ
「お二人とも、お茶とお菓子をご用意してあります。こちらにどうぞ。」
エリーゼ
「ありがとうございます。ガウェイン様、参りましょう。」
ガウェイン
「ああ。」
ーーサンルーム
エリーゼとミレイユが楽しそうに話している。ガウェインは落ち着きなく紅茶を飲んでいた。そこにエリーゼにマナーレッスンの件で話をしたいと執事が申し出たため、エリーゼは少し席を外すことになった。
ガウェイン
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ガウェイン(心の声)
「エリーゼ、早く帰ってきてくれ。間が持たない。」
ミレイユがガウェインのお腹をずっと見ているのに気が付く。ガウェインは無理やり笑顔をつくると、
「ミレイユ嬢。僕のお腹が気になるのかな?」
ミレイユが瞬きを何回もして動揺している。
「ごめんなさい。私、じろじろ見てしまって失礼でしたね。」
ガウェインが自嘲気味に、
「ああ。いや、怒っているわけじゃないんだ。それにじろじろ見られるのは慣れてる。。。」
ミレイユ
「?」
ミレイユ
「ガウェイン様のお姿はこの子に似てると思って見てしまったの。ごめんなさい。」
ミレイユが隣の椅子に座らせたクマのぬいぐるみを抱き上げて、ガウェインに見せる。
ガウェインはぎこちないながらも、
「かわいい。くまさんだね。ミレイユ嬢のお友達かい」
ミレイユが嬉しそうに、
「そうです。私が生まれた時から一緒なんです。」
ガウェイン
「生まれた時からかあ。それは凄いね。名前は何て言うんだい。」
ミレイユ
「この子はベンって言います。どこに行くにも一緒です!」
ガウェイン
「ベンか、良い名前だね。ベンのことをもっと教えてくれるかい?」
ミレイユが目を輝かせながら話を始める。ガウェインは話を聞きながら時々相槌を打っている。
エリーゼが帰ってくると、ミレイユが楽しそうにガウェインに話しかけているのを見て目を細める。
エリーゼ(心の声)
「やっぱり今日、ガウェイン様をお連れして正解だったわ。」
エリーゼ
「お二人ともすっかり仲良くなられましたね。」
ミレイユ
「あ。エリーゼ様、お帰りなさい。ガウェイン様にベンとのお話をしていたの。」
ガウェイン
「ミレイユ嬢はどこにでもベンと一緒に行くんだそうだ。」
エリーゼ
「そうなんですか。ミレイユ様とベンは本当に仲良しですね。」
ーー数時間後 バーデル子爵邸玄関前
ミレイユ
「エリーゼ様、ガウェイン様、今日はお話ができてとても楽しかったです。またお二人で来てくださいね」
ガウェイン
「ああ。またベンの話を聞かせてもらいに来るよ。」
エリーゼ
「はい。ミレイユ様。先ほど執事と話して、私とは来週に劇を見に行くことになりましたので、またすぐにお会いできますよ。」
ミレイユ
「まあ。本当ですか。楽しみです。ガウェイン様も一緒にいかがですか?」
ガウェイン
「ありがとう。ミレイユ嬢。申し訳ないが来週は剣の稽古で合宿するんだ。」
エリーゼが驚く。
「ガウェイン様、剣の稽古の合宿のことは知りませんでした。」
ガウェイン
「すまない。言うのを忘れていた。フィンが僕のダイエットが本気だとわかったから、合宿でダイエットも兼ねて剣の稽古をしようと言い出したんだ。」
エリーゼ
「そうだったんですね。ご無理をなさらないでくださいね。」
ミレイユ
「残念ですが、今度ご一緒しましょうね。」
ガウェインがうなづく。ミレイユに手を振られながらバーデル子爵邸を後にする。
・・・
エリーゼ
「ガウェイン様。どうでしたか」
ガウェイン
「ミレイユ嬢は良い子だな。僕の容姿や出自に偏見がなく、純粋に笑いかけていろいろ話をしてくれたよ。良い話相手だったよ。」
エリーゼ
「確かにミレイユ様は良い子ですが、ガウェイン様がミレイユ様の話に耳を傾けて真摯に向き合ったからだと思います。」
ガウェイン
「耳を傾け真摯に向き合う。。。」
エリーゼ
「はい。それは社交界での会話でも同じことです。まず相手の話をよく聞いて、そして相手に興味を持つことです。そうしたらその方との会話も弾みます。」
ガウェイン
「・・・。中々難しいな。」
エリーゼ
「少しずつで良いんです。」




