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転生令嬢と黒猫の秘密の計画 〜冷遇されているので偽装結婚から一発逆転狙います!〜  作者: 鳴神楓


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4.黒猫の正体

「……ッ!!??」


 私の「使い魔だったりする?」という言葉に、ノワールはまるで雷にでも打たれたかのように硬直した。

 黄金色の瞳をパチパチさせ、私と自分の前脚を交互に見つめている。


「あれ、図星……?

 使い魔なら、ご主人様は誰なの?

 やっぱり魔術師様?」


 この世界には魔法はあるものの、使える人が極端に少なく、私は間近で魔法を見たことも魔法使いに会ったこともない。

 この黒猫が使い魔なのだとしたら、この世界で初めて触れる魔法かもしれない。


 私がなおも興味津々で顔を近づけると、ノワールはついに観念したように、深々と大きな溜め息をついた。

 猫が溜め息をつくなんて、やっぱりどう考えてもおかしい。


「……はあ。

 使い魔どころか、僕本人だよ、エリーゼ」

「ひゃあぁあぁっ!?」


 猫の口から、聞き覚えのある少年の声が聞こえてきて、そのあまりの衝撃に、私は思わず抱きかかえていたノワールをぽいっと床に手放してしまった。ノワールは「うわっ」と声を漏らしながら着地する。


 すると次の瞬間、黒猫の身体が淡い銀色の光に包まれた。

 光が収まったそこに立っていたのは――猫ではなく、私と同い年くらいのひとりの少年だった。

 やわらかな栗色の髪に、大きな琥珀色の瞳。

 華奢だが品のある佇まいは、明らかにどこかの貴族の令息だ。

 そしてその顔立ちには、見覚えがありすぎる。


「……ル、ルカ……!?」

「うん、僕だよ。

 ……ルカ・シルヴァンだ」


 ルカ。

 母方の叔母様の息子で、私と同い年の従兄だ。

 幼い頃は叔母様と一緒によくうちに来てくれていて、乳母に見守られつつ一緒に遊んでいた。

 霞がかかったような記憶の中でもルカと遊んでいたことは比較的はっきり覚えているし、感情が薄いなりに楽しいと感じていたような気がする。

 叔母様とルカはお母様が失踪してからは伯爵家に立ち入りを禁じられ、疎遠になっていたはずだった。


「え、えぇっ!?

 ルカ、なんでここに!?

 っていうかさっきの猫は!?

 魔法!? 変身魔術なの!?」


 パニックになって畳みかける私に、ルカは申し訳なさそうに眉を下げ、耳まで真っ赤にしながら視線を泳がせた。


「ご、ごめん!

 驚かせるつもりはなかったんだ。

 おば様がいなくなってから、君と連絡が取れなくなって……すごく心配で。

 でもおば様が伯爵家に迷惑をかけたということで、うちやメルツ家からは伯爵様に強く言えなくてね」


 お母様が駆け落ちなんかして、この伯爵家に迷惑をかけたのは確かで、そうするとお母様と叔母様の実家のメルツ家や、叔母様の嫁ぎ先でルカの家のシルヴァン家からは、父に強くは出られないだろう。

 もともと両家とも子爵家で立場が弱いし。


 ルカはキュッと唇を噛み締め、自分の手元を見つめた。


「どうしても君の無事を確認したくて……前から素養はあるからと、本で少しだけ学んでいた魔術を、本気で身につけるために師匠を探して弟子入りして、必死で変身魔術を覚えたんだ。

 それで、猫になってこっそり忍び込んでたんだよ」

「ルカ……」


 目の前の少年を見る。

 元々は少し引っ込み思案で、気弱な男の子だったはずだ。

 それなのに、私に会いたい一心で師匠を探し、貴族でもめったに使える人がいないという希少な魔術を死ぬ気で習得したというのか。


「君を助けるつもりで猫になって潜入したのに……冷遇されてる君を見ているだけで、何もできなくて。

 本当にごめんね、エリーゼ」


 ルカは悔しそうに拳を握りしめ、ポロポロと涙をこぼし始めた。

 自分の無力さを恥じ、本気で私を心配してくれているのが痛いほど伝わってくる。


(……なんて健気で、優しい子なの……!)


 前世の、社会人だった時の私の意識が、キュンと胸を打たれる。

 助けに来てくれたのに何もできなかったと泣くなんて、愛おしすぎるだろう。


「ううん、謝らないでルカ!

 私、すごく嬉しいよ。

 ノワール……じゃなくてルカがそばにいてくれたから、私、今日まで頑張れたんだと思う」

「エリーゼ……っ」


 涙を拭うルカの姿に胸を熱くさせていた私だったが――ふと、先ほどまでの出来事が頭をよぎった。


(……待って?)


 ノワールがルカだったということは。

 さっきまで私がドヤ顔で語っていた「日本の話」も。

 「前世の記憶を思い出しちゃった!」というイタい告白も。

 そして何より、さっきこの部屋で無防備に着替えた姿も。


 ――全部、バッチリ見られてたってこと!?


「……ルカ」

「な、なに……?」

「……さっきの、着替え……見……」


「見、見てない!!

 見てないよ!!

 必死で目を逸らして手で隠してたから!!

 本当だよ、信じて!!」


 顔を林檎のように真っ赤にしたルカが、ぶんぶんと手を振って叫んだ。

 なるほど、だからさっき猫の姿で顔を覆って震えていたのか。


「~〜〜〜っ! もう、ばかルカ!!」

「ご、ごめんなさいーーっ!!」


 物置小屋の夜は、照れくささと気まずさで、一気に賑やかなものとなったのだった。


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