15.誓い
伯爵家からの愚かな圧力を突っぱねた後、ヘンリー様は、次なる決定的な一手を打ち出した。
王都で最も影響力のある大手新聞『王都日報』に、ひとつの独占インタビュー記事が掲載されたのだ。
『大ヒット作を生み出し続ける名演出家エリーゼ夫人と、ボールドウィン男爵――世間を賑わせた歳の差婚の真実が、いま明かされる』
紙面の中で、ヘンリー様は堂々と語っていた。
『私とエリーゼ嬢の婚姻は、不当に虐げられていた彼女を救い出すための協力関係(白い結婚)であり、愛し合う夫婦としての婚姻ではない。
私たちは対等な協力者だ。
彼女の才能を閉じ込め、物置小屋に追いやっていたオルセン伯爵家の過ちを、これ以上うやむやにはさせない』
この公式発表は、王都中に決定的な衝撃を与えた。
世間は「少女を買い叩いて嫁に迎えた」と思っていた男爵を「才能を愛し少女を救った真の紳士」と讃え、逆に実の娘を虐げて売ろうとしたオルセン伯爵家への非難は完璧なものとなった。
これにより伯爵家は完全に社会的信用を失い、事業の失敗も重なって、自業自得のまま没落への道を辿っていくこととなる。
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その日の夕暮れ時。
新聞の反響に一息ついた私が屋敷の庭園に出ると、夕日を背にしたルカが待っていた。
「ルカ……。
新聞、読んだのね」
「うん。
男爵様、すごくかっこよかったね。
……これで、君を縛るものは何一つなくなったよ」
ルカは静かに歩み寄ると、私の前で足を止めた。
琥珀色の瞳はいつもになく真剣で、愛おしそうに揺れている。
「男爵様が君を救ってくれたから、今の君がある。
……でも、僕はずっと悔しかったんだ。
君が辛い時、助けを必要としていた時に、僕はただの小さな黒猫で……君をこの手で助け出す力がなかったから」
「そんなことないわ、ルカ。
あの物置小屋で私を支えてくれたのは、紛れもなくあなたよ」
「ありがとう。
……でもね、エリーゼ」
ルカは私の手をそっと取り、温かい両手で包み込んだ。
「僕はもう、君に守られるだけの猫じゃない。
……国家の英雄だなんて言われているけれど、僕にとって一番大切なのは、君を守る騎士であることなんだ」
「ルカ……」
「男爵様との真実が明かされて、君が本当の意味で自由になった今だから、ちゃんと伝えたかった。
……僕の心には、ずっと君しかいない。
黒猫として抱きしめられた時から……、いや、たぶん子どもの頃からずっと、一人の男として君を愛してる。
……僕と、生涯を共にしてくれませんか?」
情熱的な言葉とまっすぐな眼差し。
鼓動が激しくなり、胸の中に愛おしさが溢れ出す。
「……はい!
私も、ルカ……あなたを愛しています」
答えた瞬間、ルカの顔に世界で一番眩しい笑顔が咲いた。
彼は溢れる愛おしさを抑えきれないように私を強く抱きしめる。
夕暮れの庭園に、重なる2人の影が長く伸びていた。




