10.初演
エリーゼプロデュースによる新作舞台『シンデレラ〜不遇な少女の大逆転〜』の初日。
ボールドウィン男爵家が所有する王都の大劇場は、開演前から異様な熱気に包まれていた。
男爵の商会で出している新聞で、初演の日までに情報を小出しにしていたおかげで、上演前からすでに話題になっているのだ。
「エリーゼ様!
当日券を求めるお客様で、劇場の外に長蛇の列ができております!」
「まあ……! それは嬉しい悲鳴ね」
楽屋裏で最終チェックをしていた私は、劇団員の報告に破顔した。
前世の『シンデレラ』をベースに、この世界の貴族社会に合わせたスカッと展開を盛り込んだ脚本。
役者たちの素晴らしい演技に加え、『衣装が一瞬で変わる早替えの仕掛け』や『ドレスを引き立てる照明演出』も完璧だ。
「ハハハ!
観客の反応を見たか、エリーゼ嬢!
第一幕が終わったばかりだが、すでに場内は大歓声だぞ!」
廊下の向こうから、ヘンリー様が興奮冷めやらぬ様子で歩いてきた。
「大成功ですね、ヘンリー様。
……ですが、これはまだ始まりに過ぎませんわ。
評判を聞きつけた貴族や市民たちが、明日からはもっと押し寄せるはずです」
「ああ、間違いない!
お前の演出アイデアとストーリー構成は本物だ!
今日を境に、我が商会と劇場の価値は跳ね上がるぞ!」
ヘンリー様と力強く握手を交わす。
実家で「何の価値もない人形」と蔑まれ、物置小屋に押し込められていた私が、自分の知識と行動で自分の価値を証明してみせたのだ。
胸の奥から、達成感が湧き上がってくる。
────────
その夜。
大ヒットの祝勝会を終え、自室のベッドで余韻に浸っていると、バルコニーの窓がコツコツと叩かれた。
「ルカ!」
窓を開けると、月光を浴びた小さな黒猫がすばやく室内へ滑り込んできた。
パッと光が弾け、次の瞬間には人間のルカの姿に戻る。
「エリーゼ!
劇、大ヒットなんだってね!
魔術師団の先輩たちも『チケットが全然手に入らない』って大騒ぎしてたよ!」
「ふふ、ありがとう。
噂がそんなところまで届いているなんて光栄だわ。
ルカの方はどう?
毎日大変そうだけど……」
「うん!
今日はね、魔力で小さな炎をいくつも同時に生み出す訓練をしたんだ。
……見てて!」
ルカが掌をかざすと、彼の周囲に青白く美しい魔力の火花がいくつも浮かび上がった。
以前の彼は、ひとつ火を生み出すことにも苦労していたはずだ。
それが今や、軽々と複数の火花をコントロールしている。
「すごいわ、ルカ……!
王立魔術師団の見習いになってまだ間もないのに、こんなに成長するなんて!」
「えへへ……。
団長さんにも『伸び代が恐ろしい』って驚かれちゃった。
もっと強くなって、いつか魔術師としてすごい功績をあげるからね」
照れくさそうに頭をかくルカの瞳には、以前のようなおどおどした影は微塵もなかった。
私たちは互いの健闘を称え合い、深夜までこれからの夢を語り合った。




