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燃えカスの守り人  作者: K3
365日のスポットライト

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第90話 365日のスポットライト(7)

月曜・木曜の定期更新に加え、時間ができた時にも随時更新します!


ぜひお楽しみに!


それでは、本編をお楽しみください。


慈恩にも、言われていなかった。


 わたしが、自分で、知りたかった。


第4章「調査・対峙」


シーンA「もう一度、千円」


 数日後、わたしは、また、あの会場へ向かった。


 占いのイベントは、その週、続けて開かれていた。


 いつもの先生に視てもらうため、ではなかった。


 慈恩に、聞きたいことが、あった。


 あのとき、自分でめくった、一枚のカード。


 あれが、何だったのか。


 知りたかった。


 剣を持った人の、藍色の裏模様。


 あれから、何度も、思い出していた。


 占いの結果を、こんなに長く覚えているのは、初めてだった。


 初めて、自分の足で、自分のために、そこへ行った。


 誰かに連れられてでもなく、決められた日でもなく。


 わたしが、行きたいと思って、行った。


 会場の入口で、少しだけ、足がすくんだ。


 自分の意思でここへ来る、ということが、こんなに落ち着かないものだとは、思わなかった。


 慈恩は、また、いちばん端の机に、いた。


 きっちりとしたスーツで、タロットの束を、ひとつだけ置いて。


 客は、やっぱり、いなかった。


 前と、何ひとつ、変わっていなかった。


「この前の、カード」


 わたしは、座るなり、言った。


「あれ、何だったんですか」


 慈恩は、少し、考えた。


「覚えていないなら、もう一回、引きますか」


 わたしは、戸惑った。


 前のカードの意味を、教えてくれると思っていた。


 なのに、あの人は、過去のカードを、押しつけてこない。


 覚えていないことを、責めもしない。


 ただ、もう一度、引くか、と聞く。


「……はい」


 わたしは、自分で、一枚、めくった。


 指が、束の上を、すべる。


 どれを引くか、誰も、教えてくれない。


 自分で、止める。


 自分で、めくる。


 たったそれだけのことが、ひどく、緊張した。


 めくった一枚を、机に置く。


 慈恩は、それを、じっと見た。


 それから、わたしを見た。


 慈恩は、意味を、断定しなかった。


「これは、こういう意味だと、される。でも、あなたには、何に、見えますか」


 わたしは、カードを、見つめた。


 借りた言葉では、なく。


 自分の言葉で、何かを、言おうとした。


 初めての、ことだった。


 何に、見えるか。


 わたしには、どう、見えるか。


 誰かの「正解」ではなく、わたしの目に映ったものを、言葉にしようとした。


 けれど、すぐには、出てこなかった。


 代わりに、別の問いが、こぼれた。


「……あの。聞いて、いいですか」


「どうぞ」


「あなたは、どうして、こういうやり方なんですか。誰も、来ないのに」


 言ってから、失礼だったかもしれない、と思った。


 でも、慈恩は、気を悪くした様子も、なかった。


 慈恩は、しばらく、黙った。


 それから、ぽつりと、言った。


「前に、別のところで、働いていました。占いじゃなくて、人の、仕事の相談に乗る、仕事です」


 わたしは、よくわからないまま、ただ頷いた。


「やめたんですか」


「上の人間に、言われていたんです。搾れるだけ、搾れ、と。客から、お金を」


 慈恩の声は、淡々としていた。


 感情を、わざと、抜いているような話し方だった。


「あなたには天職がある、いまのままじゃ駄目だ、と不安にさせて。高い講座を、勧めるんです。次は、もっと上の講座。その次は、もっと上。受ければ道が開ける、と」


 受ければ道が開ける。


 その言葉に、聞き覚えが、あった。


 これがあれば、流れが変わる。


 先生が、いつも、言っていた言葉と、同じ形をしていた。


「よく当たる相談員だ、と評判もよかった。売り上げも、僕がいちばんでした。でも、その通りに動かなくなった人を、何人も、見たんです。自分で、何も、決められなくなった人を」


 わたしは、息を、止めていた。


 それは、わたしのことだ、と思った。


 仕事の名前は、わからない。


 でも、やられていたことは、わかった。


 不安にさせて、これがあれば道が開くと言って、次から次に、お金を出させる。


 言われるまま石を買い、日を選び、動いて、動かなかった。


 自分で、何も、決められなくなった人。


 机の向こうのあの人が話しているのは、占いの話ではなかった。


 なのに、わたしの話に、聞こえた。


 心臓が、いやな打ち方をした。


「……その人たちは、どうなったんですか」


 わたしは、自分でも、なぜそれを聞いたのか、わからなかった。


 ただ、知らずには、いられなかった。


「わかりません」


 慈恩は、正直に、言った。


「わからない。僕は、やめて、逃げたので。あの人たちが、その後どうなったか、見届けて、いません。それが、ずっと、引っかかっています」


 淡々としていた声に、初めて、わずかに、重さが乗った。


「だから、やめました。やめたけど、じゃあ、何が、人の役に立つのか、まだ、わかっていません。タロットを始めたのも、最近です。これなら、僕が、答えを押しつけなくて、済むかもしれないと思って。でも、それも、合ってるのか、わからない。だから、千円なんです」


 慈恩は、そう言って、少しだけ、笑った。


 笑った、というには、やっぱり、足りない動きだった。


 わたしは、机の上の、自分でめくったカードを、見た。


 そして、自分の手首の、引き出しにしまってきた、五本の石のことを、思った。


 あの石を、わたしに売った先生。


 その先生に、石を仕入れさせている、誰か。


 受ければ道が開ける、と言わせている、もっと上の、誰か。


 慈恩が逃げた場所と、わたしが通った場所は、たぶん、同じ形をしている。


 わたしは、初めて、知りたいと思った。


 あの石が、どこから来て、誰の手を通って、わたしの手首に、巻かれたのか。


 ということは。


 わたしは、まだ、その中に、いる。


 手首のブレスレットが、指に、触れた。


 五本、ぜんぶ。


シーンB「占い師の、調査」


 その日から、わたしは、調べはじめた。


 自分が、半年通った、あの先生のことを。


 調べる、なんて、初めてだった。


 今まで、何も、疑わなかった。


 疑う、という発想が、なかった。


 先生が言うことは、ぜんぶ、本当だと思っていた。


 本当かどうか、確かめる、という考えが、頭に、なかった。


 でも、あの人の話を聞いてから、何かが、引っかかって、離れなくなった。


 受ければ道が開ける。


 これがあれば流れが変わる。


 同じ形をした言葉。


 同じやり方。


 慈恩が逃げた場所と、わたしが通った場所。


 それが、どこかで、繋がっている気がした。


 慈恩は、調べろ、とは、言わなかった。


 ただ、自分の話を、しただけだった。


 逃げた、と。


 見届けなかった、と。


 それが、ずっと引っかかっている、と。


 慈恩は、わたしに、何も、命じなかった。


 いつもの占い師のように「こうしなさい」とは、言わなかった。


 だから、これは、わたしが、自分で、始めたことだった。


 誰にも、言われずに。


 ネットカフェで、検索した。


 先生の名前。


 サロンの名前。


 石の名前。


 図書館で、消費者向けの記事を、読んだ。


 同じような被害を、相談している人の、書き込みを、たどった。


 慣れない手つきで、ひとつずつ。


 わからない言葉は、わからないまま、それでも、追いかけた。


 知ってしまうと、止まらなかった。


 わかってきたのは、こういうことだった。


 あの先生は、ひとりではなかった。


 占い師たちの、ゆるい集まり、サロン、と呼ぶらしい、その、ひとりだった。


 そして、その繋がりの、いちばん上に、綾子さんのパトロンの、名前があった。


 石は、仕入れ値の、何倍もの値段で、売られていた。


 同じ石が、別の店では、ずっと安い値段で、並んでいた。


 「いい日」「満月の夜」は、客を、何度も、来させるための、決まり文句だった。


 新作の石。


 限定のお札。


 次は、もっといいものが入る。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


月曜・木曜の定期更新に加え、時間ができた時にも随時更新します!

ぜひお楽しみに!


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