第4話 ちーちゃんの夏期講習
お読みくださり、ありがとうございます。
最新話はカクヨムにて先行公開中
https://kakuyomu.jp/works/2912051599581287637
——ちーちゃんの視点——
セミが、もう本気で鳴いている。 カーテンの向こうは、白く光っていた。
今日から、夏期講習。
中学二年生の夏。 "受験生"っていう看板を首から下げて生きる季節。
うちの中学では、お盆前後の二週間、夏期講習がある。 朝九時から昼前まで、数学と英語。
剣道を本気でやってる子にとっては、
午前は勉強。 午後は稽古。 夜は宿題か、自分の時間。
そんな感じの、忙しい夏休みだ。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
お母さんは今日も、台所で洗い物をしていた。 振り返らず、声だけ返ってくる。
それが、うちの朝。
外に出た瞬間。
熱っ。
セミの声と、湿気と、焼けたアスファルトの匂いが、一気に押し寄せてきた。
首筋を、汗がつうっと流れる。
学校までは徒歩十二分。 夏期講習の教室は、いつもの校舎じゃなくて、特別棟の四階だった。
なんで夏休みに、四階まで上がらなきゃいけないの。
わたし、剣道部の部長なんだけど。
竹刀振らせないなら、せめてエアコン強くして。
そんなことを考えながら、汗だくで教室に入る。
クラスメイトも、みんなぐったりしていた。
夏期講習初日の朝。 本気で目が覚めてる人なんて、ほとんどいない。
わかる。
わたしも同じ。
そこへ、数学の先生が入ってきた。
「はーい、夏期講習一日目です。寝るな、起きろ、解け」
五十過ぎの先生の夏休みも、だいぶ大変そう。
ちょっとだけ、心の中で頷いた。
配られた問題集を開く。
連立方程式。 二次方程式。 確率。 図形。
あ、これ、全部わかる。
剣道の合間に、コツコツ解いてきた範囲だった。
うちのおじいちゃんは、ビルのオーナーだけど、勉強には妙に厳しい。
「数学は戦いだ」
それが口癖。
「相手の駒を見て、自分の手を打つんだ」
将棋好きなおじいちゃんらしい言い方だ。
だから、わたしは数学を、剣道みたいに解く。
相手の癖を見抜いて、間合いを測って、踏み込む。
式を整理して、 不要なものを消して、 答えまで最短で斬り込む。
できた。 次。 これも。 次。
そんな感じで、淡々と問題を解いていた。
「剣道部部長!」
先生に呼ばれて、顔を上げる。
「あ、はい」
え、なに。
「お前、もう終わったのか?」
「はい」
「全部?」
「はい」
「マジかよ」
教室がざわついた。
あ。 また目立った。
これ、ちょっと苦手。
剣道でもそうだけど、目立つとすぐ、
"鬼神"とか、 "強すぎ"とか、 "ヤバい"とか。
そういう扱いになる。
別に、好きで強くなったわけじゃないのに。
「先生、次のプリントありますか?」
「あ、あるある。じゃあこれ、解いてみろ」
渡されたのは、応用問題だった。
うわ。 見たことはあるけど、ちゃんと解いたことないやつ。
少しだけ、眉をひそめる。
「えっと……」
難しい。
でも。
面白い。
自然と、口元が少しだけ上がった。
あ、これ。 ちょっと強い相手だ。
そんなことを思いながら、わたしはまた、静かに問題へ向き直った。 * * * お昼前。
夏期講習が終わった。
教室を出て、だるい足取りのまま廊下を歩いていると。
「あっ、あの……!」
後ろから声が飛んできた。
あ、来た。
わたしは振り返る。
例の、いつもの男子。 顔を真っ赤にして、手には何か紙みたいなものを持っている。
きょうも、しゃべれない感じだ。
「えっと、その……ですね」
「うん」
「あ、あの……」
もう慣れた。
わたしは急かさず待つ。
「ぼく、その、夏休み……」
「うん」
夏休みって、まだ講習あるけど。
「あの、もし、よかったら——」
「××ー!」
後ろから別の男子の声が飛んだ。
「お前、何やってんだよー! 塾のこと聞きたかったんだろー?」
「あ、ああ、うん!」
「行くぞー!」
「あ、ご、ごめん! また今度!」
そう言って、その男子は逃げるみたいに走っていった。
きょうも消えた。
結局、何の話だったんだろ。
たぶん、またいつものパターン。
そんなことを思いながら、わたしは特別棟を出た。
外はもう、真昼の太陽だった。
お昼か。
むわっとした熱気が肌にまとわりつく。
今日、お母さんいないんだよね。
お父さんも出張で二日いないし。
ひとりご飯、つまんないな。
そう思った瞬間。
あ、NAKANO行こう。
気づけば、足が神宝町の方へ向いていた。 * * * ジオンさんは、昨日から出張に出ている。
「ちーちゃん、ぼく、二日ほど留守しますんで」
昨日の夕方、いつもの調子でそう言っていた。
「えー、出張ですか」
「ええ、ちょっと地方の依頼者のところに、ね」
「依頼者?」
「まあ、依頼者なのか、それ、ぼくもよくわかんないんですけど」
「なにそれ」
「呼ばれたから、行くだけです」
ジオンさんは糸目のまま、にこっと笑って。
「お兄さんのこと、よろしくお願いしますね」
そう言った。
「わたし、保護者じゃないですけど」
「はいはい」
「裕子さんとおじさんが見てるじゃないですか」
「ええ、ええ。でも、ちーちゃんも、たまに覗いてあげてくださいね」
どさくさ紛れに、保護者扱いされた気がする。
でも、ちょっと嬉しかった。
それが昨日。
今日から、ジオンさんはいない。
だから。
ふらっとNAKANOに行っても、ジオンさんには会えない。
でも、翔太さんはいる。
裕子さんと、おじさんもいる。
美月も抱っこできる。
そんなことを考えながら、わたしはガラスのドアを押した。 * * * 「いらっしゃ——あ、ちーちゃん」
裕子さんの明るい声。
「こんにちは、裕子さん」
「あら、夏期講習、終わった?」
「はい」
「お疲れさま」
裕子さんは、片手でコーヒーを運びながら、もう片方の手で抱っこ紐の美月を揺らしていた。
裕子さん、相変わらず、すごい。
「お昼、食べた?」
「あ、いえ、まだ」
「うちで、食べていきなさい」
「はい、ありがとうございます」
「冷やしうどん、あるわよ」
「うん、ありがたい」
うち、お母さん、出張で、ご飯ない、って見抜かれてる気がする。
裕子さんは、そういう人だ。 柔らかい笑顔の奥で、ぜんぶ見えている。
奥の四人がけのテーブル。
あ、いる。
翔太さんが、
なんか、本、読んでる。
「あら?」
わたしは、目をこすった。
「翔太さん、読書?」
「ん? あ、ちーちゃん」
翔太さんは、本から目を上げて、ちょっと照れた顔をした。
「いや、これ、ジオンさんに押し付けられて」
「押し付けられて?」
「いやー、出張前に、『これ、お兄さん、暇な時、読んでくださーい』って」
「なに、それ」
「『お兄さん、たぶん、好きですよ』、って」
「すごい、選書、ね」
翔太さんが、本の表紙を見せてくれた。
『日本の漁港、百年史』。
あ、ガチの専門書。
「えええ」
「ちーちゃん、知ってる、これ?」
「いや、知らない、です」
「俺の地元の漁港、出てるって」
「え?」
「いや、たぶん、ジオンさん、それ知ってて、押し付けた」
そういうことか。
ジオンさん、人を見て、本を選ぶ人だった。
翔太さん、一週間じゃなくて、もっと長く東京にいる流れだ。
もう、ジオンさん、その方向で動かしてる。
そう、わたしは感じた。
「面白い?」
「うん、思ってたより、ずっと面白い」
「ふうん」
「うちの漁港の写真、載ってた」
「うわ」
「曾じいさんの若い頃の写真、たぶん、これなんだよ」
「えええ、それは、すごい」
「うん、なんか変な気分」
翔太さんは、本をぱらぱらめくった。
長い髪が、本のページにかかった。 首の薄い痣は、もうずいぶん薄くなっていた。
慣れたんだ、ここに。
よかった。
そう思った。
「うどん、はーい」
裕子さんが、わたしの前に冷やしうどんを置いた。
「ありがとうございます」
「翔太さんも、もう一杯、いる?」
「あ、すいません、お腹ちょっと減ったんで」
「了解」
裕子さんは、ふふっと笑って、奥に引っ込んだ。
そして、
あ。
翔太さんと、わたし、二人っきりになった。
四人がけのテーブル、なのに、翔太さん、わざわざわたしの向かいの席につめてくれた。
え、いいの、その距離?
胸が、ちょっと跳ねた。
「夏期講習、どう?」
「あ、まあ、ふつうです」
「ふつう」
「数学、終わって、応用問題もらった」
「はえー、すげぇな、ちーちゃん」
「いえ」
「俺、数学、苦手だった」
「そうなんだ」
「九九まで、ね、だいたい覚えた」
「九九まで?」
「うん」
翔太さん、ちょっと心配になる人だ。
「歌で生きるなら、いいんじゃない?」
「歌、な」
翔太さんは、ふっと目を伏せた。
「やっぱり、歌、やめるの?」
「いや、まだやめないけど」
「うん」
「なんか、ね、ジオンさん、言うのよ」
「うん?」
「『お兄さん、まだ、決めなくていいですよ、ね』って」
「うん」
「『一週間、ぼくのところにいて、それから決めましょう、ね』って」
「うん」
「もう一週間過ぎたけど、なんか、まだジオンさん、決めさせない感じ」
「ね」
「『あ、お兄さん、これ、読んでみてー』とか」
「『あ、お兄さん、NAKANOで、お皿、洗うの、上手くなりましたね』とか」
「うん」
「『あ、お兄さん、ぼくの出張中、お願いしますね』とか」
「うん」
「気づいたら、俺、まだ、ここにいる」
翔太さんは、ふっと笑った。
「うまい人だな、あのジオンさん、って」
「うん」
「気づかせ屋」、っていうか、「気づかせない屋」だ。
気づくと、いつのまにか、辞められないところに、いる。
ジオンさんの罠。
そんなこと思いながら、わたしはうどんをすすった。 * * * 午後。
夏の太陽が、いちばん容赦ない時間。
NAKANOで少し翔太さんと話したあと、わたしは道場へ向かった。
道場は、ジオンさんのビルから徒歩五分ほど。 警察署の近くにある、古い木造の建物だ。
夏はひたすら暑くて、冬はびっくりするくらい寒い。
床も柱も、空気まで昭和で止まっているみたいな場所。
今日は範士の先生が来ない日だった。 代わりに、いつもの師範と、警察のおじさんたちが何人か来ている。
「お、嬢ちゃん、来たな」
「こんにちは」
「もう夏休みか」
「夏期講習終わってから来ました」
「そうかそうか。じゃ、今日もやるか」
「はい」
あ、今日もこの人たち、本気だ。
そんな予感をしながら、わたしは防具を着けた。
「うおおおおっ!」
ベテラン警察官のおじさんが、勢いよく踏み込んでくる。
きた、いつもの。
わたしは半歩だけ引いた。
その瞬間。
「面!」
竹刀を振る。
まだ振りかぶる前。
でも、わかる。
肩の入り方。 足の沈み方。 筋肉が動く、その直前の"気配"。
それだけで、次に来る動きは読める。
わたしの竹刀が、おじさんの面に綺麗に入った。
「うっ」
おじさんが止まる。
「あれ?」
ぽかんとした顔。
「俺、まだ振りかぶってなかったよな?」
「はい」
「振る前に来たよな?」
「はい」
「なんでわかった?」
「動く雰囲気で」
「雰囲気で?」
「はい」
周りのおじさんたちが、そろって変な顔をする。
「お前、まだ十三だよな?」
「はい」
「十三でこれかぁ……」
あ。
またたぶん、"神宝町の悪魔"って呼ばれてる。
控室で。
そんなことを思いながら、わたしは次の相手を待った。
稽古の終わり。
汗だくになったわたしに、師範が呆れ顔で言った。
「お前、もうちょっと加減しろ」
「え?」
「警察のおじさんたち、明日ぎっくり腰だぞ」
「ええっ、わたしのせいですか!?」
「お前のせいだ」
そんなぁ。
でも。
だって、みんな本気で来るし。
本気で来られたら、こっちも本気で返すしかないじゃん。
加減って、難しい。
剣道って、相手と本気で向き合うことだと思うから。
手を抜くのって、なんだか失礼な気がする。
そんなことを考えながら、防具を外した。
汗がぽたぽた畳に落ちる。
夏の稽古、いつまで続くんだろ。
なんか、夏って終わらない気がする。
でも、たぶん。
こう思えるうちは、まだ夏の入口なんだ。
そんな気がした。 * * * 夜。
家に帰って、シャワーを浴びて、ご飯を食べて、宿題を終わらせる。
時計を見ると、九時を少し過ぎていた。
あ。
ふと、翔太さんのことを思い出す。
いま、何してるんだろ。
NAKANOは夜十一時まで営業している。
たぶん翔太さんは、まだ店にいる。 皿を洗ったり、お酒を運んだりしている時間だ。
おじさん、夜はバー担当だし。
翔太さん、夜も手伝ってるんだろうな。
夜の翔太さん、まだ見たことない。
そう思って、わたしはふっと立ち上がった。
でも。
いや、行かない。
夜に中学生が出歩く時間じゃない。
お母さんはいないけど、おじいちゃんいるし。
見つかったら、絶対めんどくさい。
自分で自分を止めて、わたしは布団に入った。
だけど。
なんか、寝れない。
窓の外では、セミがまだ鳴いている。
夏の夜。
ふと、ジオンさんの声を思い出した。
「ちーちゃん、頑張りすぎなくていいですよ」
「でも、ちーちゃんは、できる人ですからね」
ジオンさん、いまどこにいるんだろ。
たぶん、また誰かを助けている。
あの人、絶対ちゃんと寝てない。
朝四時くらいまで本を読んで、依頼者のこと考えて、煙草吸って。
そのうち身体壊すよ、絶対。
わたし、いつか看病するんだろうな。
そう思った瞬間、自分で少し変な気持ちになった。
なんで、そんなふうに思うんだろ。
根拠なんてないのに。
でも、なんとなく。
そういう未来を、もう知ってる気がした。
そんなことを考えながら、わたしは目を閉じた。
セミは、まだ鳴いていた。 * * * 翌日。
夏期講習、二日目。
今日もわたしは、淡々と応用問題を解いていた。
「剣道部部長、お前、また終わったのか」
「はい」
「マジか……」
先生、そろそろ慣れてください。
そんな感じで午前が終わる。
そして。
「あっ、あの……!」
例の男子が、またやってきた。
「うん」
「あ、その、ですね……」
きょうも来た。
もう毎日来る人になってる。
「えっと、ぼく、夏休み……」
「うん」
それは知ってる。
「あの、もしよかったら——」
「××ー! サッカー行くぞー!」
後ろから別の男子の声。
あ、消える。
「あ、ご、ごめん! また今度!」
男子はまた、逃げるみたいに走っていった。
今日も結局、何の話かわからなかった。
「部長ちゃん、またサッカー部の子に話しかけられてたね」
クラスメイトの女子が笑う。
「ううん。何の用だったか、結局聞けてない」
「いいなー、部長ちゃん人気者」
「人気?」
「だって毎日来てるじゃん」
「あ、そうなの?」
「気づいてなかったの?」
「うん」
え。
わたし、何を気づいてないんだろ。
でも。
まあ、いっか。
お昼、またNAKANO行こう。
翔太さん、いるはず。
そんなことを考えながら、わたしは特別棟を出た。
今日も太陽は真上。
セミが、また全力で鳴いていた。 * * * NAKANOに入ると、
あ。
翔太さんが、カウンターの奥で、お皿を拭いていた。
そして、
歌、歌ってる。
ふんふん、ふんふん。
小さく。 鼻歌で。
なに、そのメロディ。
聴いたことない、メロディ。
優しいような、切ないような、
なんていうか、夜の海みたいな、メロディ。
裕子さんが、キッチンで手を止めて、聞いていた。
中野のおじさん、まだ来てない時間。 お客さんも、まだ、まばら。
翔太さんは、自分の世界に入っていた。 お皿を拭いて、もう一枚お皿を拭いて、ふんふん、ふんふん、と、歌いながら。
わたしが入ってきたこと、気づいてない。
そっと、わたしはガラスのドアを、もう一度押し開けて、
「いらっしゃ——あ、ちーちゃん」
裕子さんの声。
翔太さんは、はっとして、お皿、ほぼ落としかけた。
「あ、ちーちゃん、ごめん、ぼーっとしてた」
「いえ」
「うん」
「いまの、なに、歌、ですか」
「あ、いや、自作のメロディ」
「自作?」
「うん、まだ、歌詞、ないけど」
「ヘえ」
「気がつくと、口ずさんでる」
「ヘえ」
「歌、やめるつもりだったのにね」
翔太さんは、ふっと笑った。
うっ。
めっちゃ、いい歌、だったのに。
わたしは、それを、翔太さんに言わなかった。
ジオンさんが、いつか、言ってたこと、思い出した。
「ちーちゃん、ね、人がね、自分から、何か、好きで、続ける、って、決めるまではね、外から、何も、言わない、ほうがいいですよ」
「言うとね、その人の決断、奪っちゃうから」
「だから、ぼくも、ね、依頼者の人に、絶対、こうしろ、とか、言わないんですよ」
「ぼくは、相談屋、なんでね」
あの、ときの、ジオンさんの顔。
ふっと、糸目で、にこっと、笑っていた顔。
わたしも、いま、ジオンさんと、同じことをしている。
わかった。
翔太さんに、何も言わない。
翔太さんが、自分で気づいて、自分で決めるまで。
そう決めて、わたしは、
「お腹、減った」
って言った。
「うどん?」
「お願いします」
「了解」
翔太さんは、にこっと笑って、奥に消えた。
ふんふん、ふんふん。
奥から、また、そのメロディが、聞こえてきた。
翔太さん、たぶん、自分で気づいてない。
歌、もう、口ずさんでること。
そんなこと思いながら、わたしはテーブルに座った。 * * * 午後、稽古。 夜、家。 そして、また、寝る。
ジオンさん、いない、二日間が終わる。
ベッドの中で、わたしは思った。
夏休みのジオンさんの出張、二日。
なんか、長く感じる。
ジオンさん、明日、帰ってくるはず。
翔太さんも、ジオンさんに会えて、嬉しいはず。
わたしも、嬉しい。
でも、なんか、
翔太さんとふたりの、ふんふん、のメロディの二日も、悪くなかった。
そんなこと思った瞬間。
え、わたし、また変なこと思ってる。
それ、ヤキモチの、逆じゃん。
翔太さんとふたりでいて、ジオンさんがいない方がよかった、みたいな。
いや、違う、いや、違う、ぜったい、違う。
わたしは、ジオンさんが好きで、ジオンさんを待ってる子で、翔太さんは、ぜんぜん、関係なくて——
そう、自分で自分にツッコみながら、わたしは布団に深く潜った。
セミは、まだ鳴いていた。
夏は、長い。
夏は、まだ、終わらない。
そう思いながら、わたしは目を閉じた。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
次のお話で、またお会いできましたら幸いです。
最新話はカクヨムにて先行公開中
https://kakuyomu.jp/works/2912051599581287637
感想・ブックマークなど、いただけましたら、励みになります。




