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燃えカスの守り人  作者: K3/KASANE
午前四時の、家族

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第7話「お前しかいない」

時間ができた時にも随時更新します!


ぜひお楽しみに!


それでは、本編をお楽しみください。


 次の日の夕方、わたしは、大原さんと慈恩さんと、うちに帰った。


 一日、支援員さんの世話になったお父さんは、屈辱を、かみしめているようだった。娘が、自分を、他人に押しつけた。そう思っているのが、顔を見れば、わかった。


 「楽しかったか」


 お父さんは、低い声で言った。


 「父親を置いて、よく眠れたな」


 わたしは、反射で、ごめんなさい、と言いそうになった。


 慈恩さんは、止めなかった。だから、わたしは、自分で、その言葉を、のみこんだ。かわりに、正直に、言った。


 「……眠れた」


 「久しぶりに、眠れたよ」


 お父さんの顔が、ゆがんだ。傷ついたのだと、わかった。でも、わたしは、もう、嘘を、つきたくなかった。


 昨日、大原さんの家で、わたしは、はじめて、ほんとうのことを、口にした。帰りたくない、と。学校に、行きたい、と。一度、言葉にしてしまうと、もう、なかったことには、できなかった。嘘をつく自分に、戻ることは、もう、できなかった。


     ◇


 お父さんが、怒鳴った。


 「俺は、一人で、どうすればいいんだ」


 「お前まで、いなくなったら、誰がいる」


 「お前しか、いないんだ」


 その言葉を、わたしは、何度も、聞いてきた。


 これまでは、必要とされている、と、思っていた。うれしかった。だから、がんばれた。


 でも、今日は、ちがって聞こえた。


 お父さんは、わたしを、必要としているんじゃない。ただ、わたししか、残っていない。その残っている状態を、変えようとしなかっただけなんだ。


 お父さんは、こわかったんだ。一人になることが。だから、わたしを、手ばなさなかった。わたしがいれば、何も、変えなくてすむ。支援も、他人も、いらない。娘さえ、いれば。その気持ちは、わかる。わかるけれど、その、たった一人が、まだ十六歳の、わたしだった。


     ◇


 慈恩さんが、お父さんに、問いかけた。


 「娘さんが、必要なんですか」


 「当たり前だ」


 「介護する人として、ですかぁ」


 「……違う。娘だからだ」


 「だったら、娘として、扱わないと、ですねぇ」


 お父さんは、言い返せなかった。


 しばらくして、ぽつり、ぽつりと、話しはじめた。お母さんが亡くなった夜。病院から帰ると、まだ中学生だったわたしが、台所で、ごはんを作っていた。自分が倒れたあとも、わたしは、泣かずに、介助をした。


 「……俺は、こいつなら、何でもできると、思いこもうとした」


 お父さんの声が、震えていた。


 「そうしないと、俺のほうが、生きていけなかった」


 わたしは、お父さんの、震える声を、はじめて聞いた。強い父親でも、こわい父親でもない。ただ、こわがっている、一人の人だった。妻を亡くして、身体の自由を失って、それでも、生きていかなきゃいけなかった、一人の人。わたしは、その人を、支えるために、自分を、なくしていた。


     ◇


 わたしは、鞄から、大学のパンフレットを出して、お父さんの前に、置いた。


 「ここへ、行きたい」


 県外の、大学。家からは、通えない。


 この言葉を、言うのに、半年かかった。ずっと、机の奥に、隠していた。持って帰る資格が、ないと、思っていた。それを今、お父さんの目の前に、置いた。手は、まだ、少し、震えていた。


 お父さんは、すぐに、首を振った。


 「俺は、どうする」


 「支援を、使って」


 「他人に、任せろというのか」


 「……うん」


 わたしは、お父さんを、きらいになったわけじゃない。見捨てたいわけでも、ない。それでも、言った。


 「お父さんのことは、好き」


 「でも、お父さんのためだけには、生きられない」


 お父さんは、何も、答えなかった。


 言い終えると、手のひらに、汗を、かいていた。心臓が、まだ、はやい。言ってしまった。もう、とり消せない。こわかった。それでも、ふしぎと、後悔だけは、なかった。


     ◇


 青木さんが、書類を、テーブルに置いた。


 最初から、ぜんぶの制度を、受け入れる必要はない、と言った。まずは、週に三回の、訪問介護。通所リハビリを、週に一回。緊急のときの、連絡の仕組み。


 訪問介護は、一回、四十五分だという。ヘルパーさんが来て、お父さんの入浴と、着替えを、手伝ってくれる。わたしが、腰を痛めながら、一時間かけていたことを、二人がかりで、あっというまに、終わらせるらしい。わたし一人で、しなくても、よかったことだったのだ。それを、今になって、知った。


 お父さんは、書類に、署名しなかった。わたしも、署名を、迫らなかった。


 ただ、明日から、支援員さんが来ることだけは、決まった。


     ◇


 その夜。


 午前四時になっても、お母さんの声は、しなかった。


 かわりに、お父さんの部屋から、声がした。


 「紗季」


 わたしは、目を開けた。


 前なら、すぐに、起きていた。でも、今夜は、布団のなかから、聞いた。


 「……どうしたの?」


 お父さんは、しばらく、黙っていた。


 「……水を、取ってほしい」


 わたしは、時計を見た。それから、答えた。


 「台所に、置いてあるよ。自分で、行ける?」


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


notoやってます。

マガジンお仕事物

https://note.com/happy_duck8972/m/m87f735c2539e


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