表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
燃えカスの守り人  作者: K3/KASANE
とある神様の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/149

第0話「ふつうの、まいにち」

※太平洋戦争末期の、東京の空襲を、六歳の子供の視点で描きます。

直接的な描写はありませんが、題材の性質上、つらい場面が続きます。


昭和二十年三月九日〜十日・東京。視点=六歳(国民学校一年生)の「ぼく」。

家族構成=おかあさん・おばあちゃん・少し上の姉・十歳の兄・ぼく。



 おかあさんが、ぼくを、よんだ。


 あさの、こえだ。


 あさのこえは、まいにち、おんなじたかさで、うちのなかを、とんでくる。


 ぼくは、こくみんがっこうの、いちねんせいだ。


 ろくさいだ。


 うちは、ほんの町の、すぐそばにある。


 ふとんから出ると、はなのさきが、つんとした。


 三月なのに、そとは、まだ、ふゆのにおいがする。


 どまのほうから、けむりのにおいがした。


 おばあちゃんが、かまどの前に、しゃがんでいる。


 おばあちゃんは、うちのなかで、いちばんはやく、おきるひとだ。


 かまどの火のばんは、おばあちゃんのしごとで、けむりのにおいは、おばあちゃんのにおいだ。


「おはよう」


「はい、おはようさん」


 あさごはんは、おかゆだった。


 おこめより、だいこんのほうが、たくさんはいってる。


 にいちゃんが、おわんのなかを、はしでゆっくりかきまわして、いった。


「うずしおだ」


 にいちゃんは、じっさいの、うみを見たことがある。


 だから、うみのはなしをするとき、ちょっと、いばる。


 ねえちゃんが、じぶんのおわんを、のぞきこんだ。


「わたしのは、ただの、おかゆ」


 みんなが、わらった。


 おかあさんが、のこさずたべなさい、といった。


 のこすわけが、ない。


   *


 がっこうへは、ねえちゃんと、手をつないでいく。


 ねえちゃんは、ふたつ上で、手をつなぐのを、めんどうがらない。


 うちから、がっこうまでのあいだに、ほんやが、ずうっと、ならんでいる。


 となりの町まで、ずうっとだ。


 ほんの町、と、みんながよぶ。


 ふるほんやのおじさんは、店のおくで、いつも、ちいさい火ばちに、あたっている。


 まえをとおると、かおも上げないで、おう、という。


 きょう、がっこうで、あしたの、おんどくのじゅんばんが、きまった。


 あしたは、ぼくの、ばんだ。


 こくごのほんの、いちばんすきな、おはなしのところだ。


 かえりみち、にいちゃんが、ふるほんやの店さきで、ぐんかんの本を、立ちよみしていた。


 おじさんが、かわないなら、さわるな、といいながら、ページのひらきかたを、おしえていた。


 おじさんの、いうことと、やってることは、いつも、はんたいだ。


   *


 ひるすぎ、えんがわに、日なたが、たまっていた。


 えんがわの日なたは、ふゆのあいだの、うちのたからものだ。


 ねえちゃんと、あやとりをした。


 ぼくは、ほうきしか、つくれない。


 ねえちゃんは、はしごも、かわも、つくれる。


 おばあちゃんが、ざしきで、ぬいものをしていたから、かたたたきをした。


 とん、とん、と、たたく。


「上手だねえ」


 おばあちゃんは、なんかいたたいても、じょうずだねえ、という。


 ざしきのすみの、たんすのうえに、ぶつだんがある。


 おばあちゃんは、あさとゆうがた、そこに手をあわせる。


 ぼくも、まねをして、あわせる。


 なにをいえばいいか、しらないから、こころのなかで、こんにちは、といっている。


   *


 ばんごはんは、すいとんだった。


 すいとんの日は、うれしい。


 おつゆのなかで、すいとんが、ゆらゆらしている。


 にいちゃんが、じぶんのすいとんを、はしでつついて、いった。


「ぐんかんだ」


「さっきは、うずしおだったのに」


 ねえちゃんがいうと、にいちゃんは、うみのものは、ぜんぶ、なかまなんだ、と、いばった。


 おばあちゃんが、わらいながら、じぶんのおわんから、すいとんをひとつ、ぼくのおわんに、うつした。


 だまって、うつした。


 ぼくも、だまって、たべた。


 あったかいものが、おなかのそこまで、おちていった。


 ごはんのあと、おかあさんに、おんどくを、きいてもらった。


 いちばんすきな、おはなしのところを、ゆっくり、よんだ。


 つっかえたのは、にかいだけだった。


「あしたは、いちばん、じょうずに、よめるよ」


 おかあさんは、そうね、あしたが、たのしみね、といった。


   *


 よるになって、かぜが、つよくなった。


 と、いうより、かぜが、おこりだした。


 雨戸が、がたがたいって、家ぜんたいが、みしみしいう。


 でんきには、くろいきれが、かぶせてある。


 よるのあかりは、くらくしなさい、と、きまっているからだ。


 だから、うちのなかは、よるになると、どうくつみたいになる。


 となりのおじさんの、こえがきこえた。


「こんな風の晩は、敵さんも来やしないよ」


 おとなのこえは、かべをとおると、はんぶん、ねむそうにきこえる。


 まくらもとに、ぼうくうずきんを、おいた。


 おかあさんが、ぬってくれた、ずきんだ。


 なかに、わたが、はいっている。


 かぶると、みみのよこが、ふわっとして、せかいで、いちばん、あったかいぼうしだと、おもう。


 ふとんは、みんなで、川の字だ。


 おばあちゃんが、ももたろうを、はなしてくれた。


 ももたろうが、きびだんごを、くばりだしたところまでは、おぼえている。


 そのさきは、ねむってしまって、しらない。


   *


 サイレンで、目がさめた。


 けいほうだ。


 けいほうは、ともだちみたいに、よくくる。


 だから、こわくない。


 ぼくは、ねぼけたままでも、じゅんばんが、いえる。


 ずきんを、かぶる。


 すいとうを、かける。


 げたを、はく。


 おかあさんが、ぼくのずきんのひもを、あごの下で、きゅっと、むすびなおした。


 そとに出て、ぼくは、たちどまった。


 そらが、みどりいろの、はなびに、なっていた。


 よぞらのたかいところで、みどりと、きいろのひかりが、ゆっくり、ひらいていく。


 きれいだ、と、おもった。


 それから、おかあさんの、かおを見あげた。


 おかあさんは、みたことのない、かおをしていた。


 とおくのそらが、あかかった。


 かぜが、ごうごう、いっていた。


 いつものかぜの音じゃなくて、じめんのそこから、なってるみたいな、ごうごうだった。


 てんぷらのにおいが、した。


 くみちょうさんが、どなっていた。


「壕へ! 壕へ入れ!」


 となりのおじさんが、はんたいのほうを、ゆびさして、どなった。


「川だ! 風上へ逃げろ!」


 おとなが、どなりあうのを、ぼくは、はじめて見た。


 おかあさんは、おばあちゃんの手を、にぎった。


 それから、いった。


「壕へ、行きます」


 おばあちゃんの足では、川まで、はしれない。


 それに、おかあさんは、きまりを、まもるひとだ。


 にいちゃんが、おばあちゃんの、あいてる手をとった。


 ねえちゃんが、ぼくの手を、とった。


 はしった。


 ほんやのまえを、はしった。


 火ばちのおじさんの店は、雨戸がしまっていて、まっくらだった。


 かぜが、うしろから、おしてくる。


 あついかぜだった。


 ふゆのかぜなのに、あつかった。


 ほんの町のちかくの、おおきなごうの入りぐちに、ひとが、ならんでいた。


 じめんの下へ、かいだんが、つづいている。


 つちと、ひとの、においがした。


 ねえちゃんが、ぼくのなまえを、よんだ。


 はやく、という、いみだった。


 ぼくは、かいだんを、おりた。


 うしろで、てつのとびらが、おもたい音をたてて、しまった。


 そとの、ごうごうが、とおくなった。


 おかあさんが、ぼくのあたまに、手をおいて、いった。


「これで、安心だね」


 ぼくは、ぼうくうずきんを、りょう手で、ぎゅっと、かぶりなおした。


 せかいで、いちばん、あったかいぼうしだ。


 だいじょうぶだ。


(第0話 おわり)


---


## あとがき


最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

なんでもない一日ほど、あとになって、まぶしく見えるものはありません。

この子の「だいじょうぶ」が、このあとどこへ向かうのか。よければ次の話で、見届けてください。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

なんでもない一日ほど、あとになって、まぶしく見えるものはありません。

この子の「だいじょうぶ」が、このあとどこへ向かうのか。

よければ次の話で、見届けてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ