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アリアドネの指先  作者: 藤井寺市絵
銀の針を土に
14/15

誰のための工夫

 真夜中の工房は、死んだように静まり返っていた。

 唯一、部屋の中央に鎮座する黄金の自動織機アリアドネだけが、不気味なほど規則正しい駆動音を立てて動いている。主人がいなくても、操作する人間がいなくても、機械はあらかじめ入力された「正解」に従い、淡々と、そして完璧に魔法を紡ぎ続けていた。


 リネットは、アリアドネの正面にあるモニターをぼんやりと眺めていた。

 そこに表示されているのは、かつて彼女が徹夜で書き上げた、あの「究極のパターン」だ。彼女が指先の感覚を削り、エルザへの祈りを込めて導き出した知恵。それは今や、冷たい歯車の回転を制御するための、ただの実行コードとして消費されている。


 アリアドネの鉄の針が、布地を穿つ。

 一刺し、また一刺し。

 その正確無比なリズムには、リネットが愛した「工夫のゆらぎ」などどこにもなかった。機械にとって、リネットの知恵は「驚き」でも「発見」でもなく、ただあらかじめ定められた予定調和に過ぎない。


(私は、エルザを輝かせたかったのか。それとも、この機械を完成させたかったのか)


 アリアドネが、次のドレスを吐き出した。

 それは先ほど舞踏会場で見たものと同じ、寸分違わぬ輝きを放っている。

 リネットは、そのまばゆいドレスの裾に、そっと手を伸ばした。

 指先に触れたのは、かつて感じたことのないほど、冷たく、滑らかな感触だった。

 そこにはもう、針を刺す時の抵抗も、糸が締まる時の緊張もなかった。あるのはただ、予測可能な、退屈なまでの「完成」だけだった。


 リネットはゆっくりと手を引いた。

 自分が作り上げた「最高」の結末が、これほどまでに寒々しいものだとは、あの日、屋根裏で夢を見ていた時には思いもしなかった。


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