誰のための工夫
真夜中の工房は、死んだように静まり返っていた。
唯一、部屋の中央に鎮座する黄金の自動織機アリアドネだけが、不気味なほど規則正しい駆動音を立てて動いている。主人がいなくても、操作する人間がいなくても、機械はあらかじめ入力された「正解」に従い、淡々と、そして完璧に魔法を紡ぎ続けていた。
リネットは、アリアドネの正面にあるモニターをぼんやりと眺めていた。
そこに表示されているのは、かつて彼女が徹夜で書き上げた、あの「究極のパターン」だ。彼女が指先の感覚を削り、エルザへの祈りを込めて導き出した知恵。それは今や、冷たい歯車の回転を制御するための、ただの実行コードとして消費されている。
アリアドネの鉄の針が、布地を穿つ。
一刺し、また一刺し。
その正確無比なリズムには、リネットが愛した「工夫のゆらぎ」などどこにもなかった。機械にとって、リネットの知恵は「驚き」でも「発見」でもなく、ただあらかじめ定められた予定調和に過ぎない。
(私は、エルザを輝かせたかったのか。それとも、この機械を完成させたかったのか)
アリアドネが、次のドレスを吐き出した。
それは先ほど舞踏会場で見たものと同じ、寸分違わぬ輝きを放っている。
リネットは、そのまばゆいドレスの裾に、そっと手を伸ばした。
指先に触れたのは、かつて感じたことのないほど、冷たく、滑らかな感触だった。
そこにはもう、針を刺す時の抵抗も、糸が締まる時の緊張もなかった。あるのはただ、予測可能な、退屈なまでの「完成」だけだった。
リネットはゆっくりと手を引いた。
自分が作り上げた「最高」の結末が、これほどまでに寒々しいものだとは、あの日、屋根裏で夢を見ていた時には思いもしなかった。




