銀の針を土に
城の裏手にある、かつてエルザと二人でよく将来を語り合った古い樫の木の根元に、リネットは立っていた。
遠くから、舞踏会を終えた馬車たちが引き上げる賑やかな音が聞こえてくる。その中には、王太子との婚約を確かなものにしたエルザの、幸せに満ちた笑い声も混じっているようだった。
リネットは、自分の髪の中から一本の銀の針を取り出した。
男爵に奪われなかった、最後の一本。
けれど、今のリネットにとって、この針はあまりにも重すぎた。
彼女がこの針を動かすたび、誰かの居場所が消え、誰かの顔がデータに置き換わっていった。
リネットは木の根元の土を、荒れた指先で静かに掘り起こした。
湿った土の感触は、アリアドネの金属質な冷たさとは違い、どこまでも生々しく、温かかった。
小さな穴の中に、銀の針を横たえる。
一瞬だけ月光がそれを射抜き、針はあの日、屋根裏で見た時と同じ、青白い火花を散らした。
リネットは土を被せ、優しく、何度も何度もその上を叩いた。
「さよなら」
その言葉が、誰に向けたものなのか、自分でも分からなかった。
エルザへ。自分を育ててくれたマーサへ。それとも、かつて工夫することに純粋な喜びを感じていた、自分自身へ。
リネットは立ち上がり、一度も振り返ることなく城門へと向かった。
手元にはもう、魔法を紡ぐ針はない。
けれど、城を出るリネットの足取りは、不思議なほど軽やかだった。背負っていた見えない重さが、ようやく土の下へと還ったような、そんな静かな解放感があった。
静まり返った城の背後で、樫の木の下に埋められた銀の針だけが、誰に知られることもなく、静かに、確かに眠り続けている。
あなたがいつか、完璧な輝きを手に入れたとき。
あなたの背後で、かつてあなたのために知恵を絞っていた誰かが、その針を置いたことに気づくだろうか。




