完璧な舞踏会
王宮の大舞踏会場は、冬の澄んだ空気さえも焼き尽くすほどの、まばゆい光に満たされていた。
数千、数万の『星の雫』を惜しみなく消費する上層貴族たちのドレスが競い合う中、その中心で、ひときわ異質で、冷徹なまでの輝きを放つ一人の少女がいた。
エルザ・ローゼンタール。
彼女が纏うのは、もはや『星の雫』を必要としない、究極の自律発光ドレスだ。リネットがアリアドネに刻み込んだプログラムは、エルザの微かな身じろぎさえもエネルギーに変え、寸分の狂いもなく増幅し、銀色のオーラとして周囲に放射している。
リネットは、会場の二階にある薄暗いバルコニーの隅から、その光景を見下ろしていた。
一階の喧騒は、厚い魔法の障壁に隔てられたかのように遠く、リネットの耳には届かない。
「……きれい」
リネットの口から、乾いた言葉が漏れた。
それは、純粋な賞賛というよりも、自ら作り上げた精密機械の稼働を確認するような、無機質な響きを帯びていた。
王太子と踊るエルザの動きは、確かに優雅だった。けれど、その優雅さは、リネットが数式として記述した重心移動の軌跡そのものだった。エルザの呼吸に合わせた「ゆらぎ」も、感情の昂ぶりによる「瞬き」も、すべてはアリアドネがノイズとして排除し、完璧な平均値へと矯正してしまっている。
喝采が、地鳴りのように響く。
「あれこそが真の美だ」「完璧な均衡、一点の無駄もない光」
人々の賞賛は、かつての「バラ」に向けられたものではなく、その背後にある圧倒的な「正解」に向けられていた。
一曲が終わる。
エルザが王太子の腕の中で、プログラム通りの、一点の揺れもない微笑みを浮かべた。その瞳はまばゆい光に焼かれ、リネットが立っている暗いバルコニーなど、もはや視界に入っていないようだった。
リネットは、自分の指先をそっと重ね合わせた。
かつて感じた、針を刺す時の痛み。布越しに伝わってきた、エルザの震える鼓動。
それらすべてが、今、会場を埋め尽くす「完璧」という名の冷たい光の中で、跡形もなく消え去ろうとしていた。
リネットは背を向け、光溢れる会場を後にした。
足元に伸びる自分の影だけが、静まり返っていた。




