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アリアドネの指先  作者: 藤井寺市絵
針を置く日
11/15

輝きの壁

 エルザの更衣室は、まばゆいばかりの銀光に満たされていた。

 アリアドネが縫い上げた最新のドレスは、リネットが入力した「究極のパターン」に従い、空気中の微かな魔力さえも吸い込んで、自発的に発光し続けている。

 もはや『星の雫』を補充する必要さえないほどに、その循環系は閉じ、完成されていた。


「エルザ様、裾の具合を……」


 リネットが膝をつき、ドレスの裾に手を伸ばしたときだった。

 鏡の中の自分の輝きに陶酔していたエルザが、リネットの手元を見ることさえせずに、鋭く言い放った。


「触らないで」


 リネットの手が、空中で止まる。

 エルザの瞳は、自分を包む銀色の光の渦に釘付けになっていた。その表情は、かつての不安に怯える少女のものではなく、完璧な美しさを手に入れた「勝者」のそれだった。


「アリアドネの設定は完璧だわ。あなたが不用意に触れて、この完璧な均衡を崩してしまったらどうするの?」


 リネットは息を呑み、静かに手を引いた。

 ドレスの輝きが、物理的な熱を持ってリネットを押し返す。

 かつてはこの裾の微調整をしながら、城裏の樫の木の下で、次に行く舞踏会のことや、将来の夢を語り合った。リネットの指先がエルザの肌に触れるたび、そこには確かな友情と、二人だけの誓いがあったはずだった。

 けれど今、ドレスが放つ苛烈な光は、二人の間に取り返しのつかない境界線を引いていた。


「次の舞踏会では、王太子様と踊るの。……この輝きがあれば、何も怖くないわ」


 鏡の中のエルザが、うっとりと呟く。

 その声は、アリアドネが刻む規則正しい駆動リズムのように、どこか無機質な響きを帯びていた。


 リネットはそれ以上何も言わず、更衣室を退出し、重い扉を閉めた。

 閉ざされた扉の向こうから、笑い声が聞こえていた。


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