輝きの壁
エルザの更衣室は、まばゆいばかりの銀光に満たされていた。
アリアドネが縫い上げた最新のドレスは、リネットが入力した「究極のパターン」に従い、空気中の微かな魔力さえも吸い込んで、自発的に発光し続けている。
もはや『星の雫』を補充する必要さえないほどに、その循環系は閉じ、完成されていた。
「エルザ様、裾の具合を……」
リネットが膝をつき、ドレスの裾に手を伸ばしたときだった。
鏡の中の自分の輝きに陶酔していたエルザが、リネットの手元を見ることさえせずに、鋭く言い放った。
「触らないで」
リネットの手が、空中で止まる。
エルザの瞳は、自分を包む銀色の光の渦に釘付けになっていた。その表情は、かつての不安に怯える少女のものではなく、完璧な美しさを手に入れた「勝者」のそれだった。
「アリアドネの設定は完璧だわ。あなたが不用意に触れて、この完璧な均衡を崩してしまったらどうするの?」
リネットは息を呑み、静かに手を引いた。
ドレスの輝きが、物理的な熱を持ってリネットを押し返す。
かつてはこの裾の微調整をしながら、城裏の樫の木の下で、次に行く舞踏会のことや、将来の夢を語り合った。リネットの指先がエルザの肌に触れるたび、そこには確かな友情と、二人だけの誓いがあったはずだった。
けれど今、ドレスが放つ苛烈な光は、二人の間に取り返しのつかない境界線を引いていた。
「次の舞踏会では、王太子様と踊るの。……この輝きがあれば、何も怖くないわ」
鏡の中のエルザが、うっとりと呟く。
その声は、アリアドネが刻む規則正しい駆動リズムのように、どこか無機質な響きを帯びていた。
リネットはそれ以上何も言わず、更衣室を退出し、重い扉を閉めた。
閉ざされた扉の向こうから、笑い声が聞こえていた。




