3章⑬
幸いなことに、二人が住む家は1階がいわゆるLDK、2階が各々の部屋となっているようで、あんまり緊張する要素は無かった。実際に部屋にお邪魔するわけじゃなく、リビングでお話することになったからね。とはいえしないわけじゃない。ていうかうっすら良い匂いがして結構強めにドキドキします。こ、これが女の子の家……。
あと、テトラさんは気を利かせてくれたようで1階には居ない。なので今は、二人で食事用っぽいテーブルを挟み向かい合って座っております。あとあったかいお茶を出してくれた。落ち着く香りがする。でも落ち着かないけど。
よし。それじゃ。言う。言うぞ。なんか互いに黙っちゃってどんどん気まずくなってますが、さっき溜めたぶんの勇気を今、解放する時が来たのだ。
「えっと……」
「あ、うん……」
「その、えぇと……」
「うん……」
ってムズっ!?なんか口を開いた瞬間頭真っ白になった!な、何言うんだっけ?いや、告白するわけじゃないし、ましてやデートに誘うわけでもないんだから一気に言っちゃえよ俺!勢い!たぶんこういうの勢い!とりあえずなんか喋ったらそっからは流れで行けるから!たぶん!きっと!あわよくば!
「すいません、でした」
「へ?あ、え、バン、くん?」
「えと、昨日のこと」
「あ、あぁ。うん」
よ、よし。まずは謝れた。そう。まず俺は、昨日の事を謝りたかった。だって、いきなり落ち込んで空気悪くしちゃったから。しかも、よりにもよって自分から出した話題で勝手に。
確かに傷つきはしたものの、とはいえそれだってやっぱり彼女のせいでは無いのだ。むしろトラウマを与えてきた両親、ひいてはそれを引き摺っていることに気付かず自らの地雷を自分で踏んだ俺が、やっぱりあの時は悪かったと思う。だから一度謝りたかった。
「あ、いや。あたしの方こそごめんね。無神経だった」
「へ」
「もうちょっと言葉を選んで伝えるべきだったし、そもそもあんな理由でバンくんに近づいたことがそもそも間違ってた。だからごめんね」
「……」
そして、何より今回問題となったのはこれだ。「都合が良かった」ってこと。確かに、彼女の言い方はあまりにあけすけで、正直傷ついていないわけじゃなかった。もちろんメインで心をやられたのが直接それってわけじゃないけど、とはいえやっぱり思ったより効いた。
でも、こうして謝ってもらえた。それだけで十分だ。今日色々あって考えて、そう思った。だから自分の内心を話していく。
「それ、気にしないでください」
「へ?」
「えっと、今日、色んな人からお願いされて、迷子の猫ちゃんを探してたんです。ずっと」
「あ、うん」
「結構大変でした。いや、かなりかも。だから今だいぶクタクタで、正直ちょっと眠いです」
「あ、ごめんね。わざわざ時間取らせちゃって」
順序だてて話すのはむずい。慣れてないせいでベアさんに嫌味言ったみたくなっちゃった!とはいえすぐさま反応があるって事は、そんな不慣れでもちゃんと聞いてくれてるってことだ。包み隠さず全部伝える。
「あ、いや、そういうことじゃなくて、ですね……」
「へ?うん」
「なんとか猫ちゃんを探し終わったら、すごくその色んな人たちから感謝されたんですよ。そんな?って思うぐらい。え?俺そんな良いことしたかな?って正直ちょっとびっくりしちゃうぐらい」
「うん」
「でも、なんだかんだ嬉しかったんです。もちろん普段の依頼みたいに報酬が出るわけじゃなかったんですけ、ど……。いやまぁ、感謝されるのと、あとは夕飯をご馳走してもらうのが報酬っちゃ報酬だったんですけど」
「……」
そう。すごく嬉しかった。自分が必要とされてるっていうのを強く感じて。もしかしたら俺が前世からずっと求めていたのはこれかもしれない、って思うぐらいに。それぐらい聖女様も、孤児院の子供たちも職員さんも、あとテトラさんも感謝してくれた。
しかも子供たちは俺を信用して、遊び相手にまでしてくれた。みんなで頑張って、美味しいご飯をご馳走してくれた。あのシチュー、マジで美味かったです。そのせいで食べ過ぎたし、その後で遊ぶとちょっとヤバかったけど。でも、それも含めて幸せな体験だった。
あと、これは違う話なんだけど、女神様が俺を転生させる理由だってたぶん本人の都合だ。でも、結局こうして今俺はやっぱり幸せを感じられている。前世での最後はあんなだったのにね。
「あ、で、それで思ったんですよ。これって、都合よく使われたんだなって。だってまぁ、結局お金は貰えてないわけですし」
「へ?」
「でも。……でも、それでもいいなって思いました。ていうかむしろ、普段の依頼をこなした時よりずっと嬉しかったかもってぐらいで」
「あ、うん。うん……」
だから、結果だけ見れば、悪く言えばそう言う事もできるんだけど、別に嫌じゃなかった。むしろすごく良かった。嬉しかった。
「だから、その、伝えたかったのは、えっと。……ベアさん」
「は、はいっ」
「今後も俺の事、都合よく使ってください。その代わりに、色々教えてください。俺、それで十分です」
そして同じことが、彼女に対しても言えた。だって、なんだかんだあの日々は楽しかった。特訓とかなんか青春って感じだったし。前世でできなかったそれを取り戻してるって感じがあったし。女の子とそんなことできるって正直夢か?って感じだった。
「ていうか、むしろちょ~っとありがたいかもな~っていうか……。正直役得、って言うとアレか。でもまぁ、やっぱり嫌じゃないっていうか……」
あと、あの~、いきなりこんな低俗な話にして申し訳ないんですが、めちゃくちゃ気持ちいいんですよ。アレ。最高なんです。もうホントね。なんていうか、天国?なんならあれが地獄なんだったらむしろ率先して行きたくなっちゃうぜ~なんて、ね、思っちゃうくらいなわけでして。
なんで、それについてはもう全然OKになりました。なんならもう、ね、じゃんじゃんやってください。じゃんじゃんね。
「そっか」
「はい。そんな感じです」
「うん。ありがとう、バンくん」
「え、あ、いや……はい」
言い終われば、いつしかベアさんの表情は穏やかなものとなっていた。さっきまでの、ちょっと泣きそうなのとは打って変わって。真っすぐな視線にこちらも真っすぐ視線を返す。
……。やっぱり美人で緊張する。っていうか髪乱れてるし、何なら上下共部屋着っぽい簡単な服装なのに可愛すぎるだろ。というかむしろ生活感が良い。なんだか彼女と同棲しているところを妄想し――




