3章⑫
「それじゃ、えっと……。私たちはね、小さい頃からいつも一緒だったの。親が仲良くてね」
「へぇ」
「だから二人でたくさん遊んだ。勉強したりもね」
へぇ~。二人、幼馴染なんだ。勝手にただの友達かと思ってたからちょっと意外だ。一緒に住んでるのも宿代を浮かすためのルームシェアかなって推測してたけど、実はもっと距離が近いのかもしれない。あと、なんだか百合の波動を感じる。
……俺、百合に挟まる男だったりしないよね?もしそうだったら泣く泣く身を引こう。なんて、あんまり人と人の関係に対してあれこれ妄想するのも失礼だろうしこれくらいにしておきます。
「でも、あの子の方がなんでも上手くできた。なんなら私があの子から色々と教えてもらうぐらいには」
「要領良いですよね。ベアさん」
「うん。まぁ本当はあの子が私の何倍も努力してたんだけど、当時はそんなこと知らないしそれに嫌でね。正直ちょっと嫌いだった」
「え、そうだったんですか?」
「そう。もし私が嫌だって言える子供だったら距離を置いてた気がする。まぁもしそうなら、今二人でこうしてなかったかもしれないけど。それぐらい苦手だった」
さらに意外な事実。昔はテトラさんからそんなことも思ってたんだな。まぁ確かに、あのベアさんをそのまま幼くしたら生意気でいたずら好きで手に負えないかもしれない。しかもそんな相手が自分より優秀で、さらには離れることもできないなら、嫌いになっても仕方ない気はする。
「ただ、なんでも上手くできるからか、それともあの子の血のせいか、成長も早くてね?ある日あの子は問題を起こしたの」
「あ~……」
「それに、親たちはすごく怒った。私の親も、彼女の親も。だって、やったことがやったことだからね。細かい事は、まぁ言わないけど、でもバンさんの想像してる通りだと思うよ」
「なるほど」
詳細こそ濁されているが、まぁ彼女の事だから大体想像はつく。たぶんえっちな感じのやつだろうな。例えば……って、でもそういう行為をしたぐらいで普通そんなに怒られるものだろうか。まだ危ないとか、節度を守れとか多少の注意こそ受けることはあるだろうけど、ベアさんどころかテトラさんの親まで激しく怒るなんてちょっと考えられない。
何か事情があるんだろうか。例えば清廉であることが重要視される家とか?でも、この愛の女神様が作った世界で?だとすればあとは手を出した相手が悪かったとか?……う~ん。なんだか家柄の良さを感じるぞ。そういえば、二人は食事の時等々所作がいちいち美しかったよな。
「でもさ、その時思ったの。なんでベアの生まれのせいでもあるのに、たぶんそれが原因で起こるべくして起こった問題なのに、この子はこんなに怒られてるんだろうって」
「確かに」
「で、すごく理不尽だなぁって。あと、あの子自身は別に全然悪くないって」
事件の内容から察するに、理不尽とは彼女が受け継ぐサキュバスの血のことを言っているのだろう。確かに、昨日言われた「都合が良かった」の言葉通り、ベアさんにとって性欲とは抑えたくても抑えきれないものらしい。そんなものを無理矢理抑え込もうとすれば、かえって爆発することだってあるかもしれない。
またあるいは、そもそも「事件」が無意識で人を誘惑し襲われてしまったという可能性だってあり得る。それと周囲に同じ境遇の人が居なくて、事情を理解してもらえていなかったとかも。だってサキュバスだったのは曾祖母で、血が強く出たとも言っていた。そうなるとかなり可能性が高そうだ。
だとすれば間違いなくそれは理不尽と言っていい。感じていいはずだ。俺にはそれがちょっとくらいだろうけど分かる。俺だって、たぶん生まれのせいで何故か苦しんだから。
「それと、一緒だと思った。私とあの子。もちろん色々と違うけど、でも、この生まれに苦しんでることは同じ」
「へ」
「だから、私が守らなきゃって。いや、ううん。守りたかった。その時だけは、なんだか黙ってられなかったの。まぁそうすることで憎いあの子の上に立ちたかったのかもしれないけどね」
「……」
そしてどうやらそれは、テトラさんも同じであるらしかった。でも、一体彼女の場合はなんなのだろう。また、結局親からの怒りにどのような行動を起こしたのだろう。続きを待つが、どうやらそのことについては今の所話す気が無いようだ。だとすればいたずらに詮索することはよそう。
「それで、私はあの子と一緒に居ることにした。何があっても。ああいう事が好きでも絶対に。誰も文句を言えないようにね」
重要なのは、テトラさんもテトラさんで、ベアさんに対して恐らく結構強めの感情を抱いているという事。
……これ、やっぱり百合じゃないか?俺、邪魔じゃないかな?大丈夫かな?まぁとはいえ百合は百合でもたぶん重めの友情って感じの百合っぽい。言い終えてどこかすっきりとして、ただ眼鏡の奥ですごく強い意志を宿した目がそのことを物語っている。それはどこか、以前彼女の事を語るベアさんがしていた目に似ていた。
恋愛的な熱っぽさというより、もっと落ち着いた想いだと感じる。性が介在しない、男女の関係とはまた違った温かさの。例えばまさしく俺とオーリーの関係みたいな?今後もっと仲良くなった場合のね。
「そんな私のわがままにあの子はすごく恩を感じて、挙句一緒に冒険者までやってくれてるって感じかな」
「……そうなんですね。ありがとうございます。話してくれて」
「ううん。バンさんこそ聞いてくれてありがとう」
というか、あの二人が冒険者をやり始めたのってテトラさんの要望なんだな。ちょっと意外だ。でも二人の中で決断をするのは、意外と彼女の方なのかもしれないな。戦闘に関してはベアさんの方が得意っぽいけど、それもテトラさんの信念を補助するために磨いたとか。だとすればあの強さは結構納得が行く。
それと、ベアさんの想いの強さもある程度合点がいった。俺との関係にだって全く何も言わないことからして、どれだけ派手に遊ぼうと、結果自分に被害が及ぶ失敗をしようと彼女は、きっとベアさんを見捨てないのだ。
サキュバスという血で、つまりは恋愛関係を容易に乱してしまうほどの魅力を持っている身体で、そんな同性の友人が居るというのはどれだけ心強いことだろう。完全に想像することはできないが、たぶんとてつもなく安心できるんだろうなと思う。やっぱり俺にオーリーが居るのと似てるかも。俺だって彼が居るから色々安心できるし。
「あ。着いたよ。ここが私たちの家。送ってくれてありがとう。バンさん」
「あぁ、いえ。全然」
そうしていれば、やがて目的地へと辿り着いた。ベアさん、俺にあんなことを言っていた割りに、結構良い家に住んでいる。2階建てで、大通りから一本入った路地の色々と便利だろう立地だ。まぁ二人で住むならある程度広い方がいいよね。
なんて軽い現実逃避をしつつ、ちょっとずつ勇気を出していく。ここへ到着したら言おうと思っていたことがあったのだ。
「それでなんだけどさ。えっと、ベアに会ってく?」
「へ。あ、は、はい」
って思ってたら先越されました。えぇ。言おうと思ってたのはまさにそれです。気まずくなる前になるべく早く謝りたくて、良い機会なのでこれから会わせてもらうつもりでした。いや間が悪いねバンくん。でもまぁ、溜めた勇気は後で使おう。
「……本当に?」
「えぇ。ていうか、テトラさんから言われなければ俺から言うつもりでした」
「そっか。それじゃあ呼んでくるね」
「はい」
応じるとテトラさんは家へ入っていく。う。まずい。もう緊張してきました。情けないにもほどがある。でも、待つってなると色々考えちゃうね。上手くいかなかったらどうしようとか、その場合これからどうなるんだろうとか。
うっすら中から話し声が聞こえてくる。てか、俺がどうこう考えるより先に、そもそも彼女から拒否されたらどうしよう。そうなったら一巻の終わりだ。その方がダメージデカい。じゃあ、よ~し。衝撃に備えて身構えておこう。ファィティングポーズとって、腰を落として、若干重心を後ろにして――
「バン、くん……?」
「あ、ベアさん。どうも……」
「うん……」
なんてふざけてたら玄関のドアが開き、中からひょっこりとベアさんが顔を覗かせる。か、かわいい。単純に顔が良いのもそうだけど、アレがあったからかしおらしくてさらに良い。あと急に出てきたからかほんのり髪がぼさぼさだ。そういうことをした日の翌朝、起きたばかりの彼女を思い出す。ウッ。ちょっとなんかえっちだ。
「とりあえず、入る?」
「あ、は、はい」
そうして中へと招かれた。ま、マジか。女の子の家に初潜入です。しかもベアさんだけじゃなくテトラさんも住んでるとこだからより緊張するぞ!へ、変な事口走らないように気をつけよう。
10分ぐらい後に続きが投稿されます。(多め)




